ちょこっと行って来る山登り


    No.11 船形山(1500メートル)



       山・・・怖いぞぉ

       12月17日水曜日・・・絶好の天気が数日続いた後、今夜は高い山でも雨です、なんて言うシャレにならない天気予報が出ている中、雨降ったら合羽着るもんねぇ、と、能天気な事を言いつつ、しかし、朝方は快晴で、一見すると穏やかな山日和の中出発した。
    しばらく雪も降っていないし、家から眺める泉が岳は雪が無さそうだ。
    しかし、北泉が岳の後ろに連なる、後白髪山から蛇ガ岳、三峰山、船形山は真っ白だった。
    やっぱし、奥羽山脈の前座と真打ちでは格が違うな、と眺めていた船形山でありますが、1馬力の単独では日帰りは無理だろうと思い、んじゃぁ、升沢の避難小屋で一泊しながら、のんびりと登ってみましょうかね、と言う事で、2日掛かりの予定を組んでみた訳であります。

     2日掛かりなんて大げさな・・・そうなんでありますが、しかし、1馬力は非力でありますから、もしもの事が有って遭難なんて言うのは嫌なので、時間に余裕を持って、そして、食い物も燃料も、無駄でしょ、と言う程に背負い込んで行く訳であります。
    しかし、持つのは良いのですが、車で運ぶ訳ではなく、全部自分の背中で担いで行く訳でありますから、余計な物を持ちすぎると重い訳です。
    そんな訳で、55リットルのザックの上のエクステンションスペースまで使って、パンパンに膨れ上がったザックの重さは20キロでありました。
     私の荷物は、ザックと寝袋が安物なのでこの2つだけで5〜6キロになっていると思われます。
    羽毛の寝袋なんか買えないですからね、ダクロン綿をどっさり詰め込んだ、冬のオートキャンプ用の寝袋を使っている訳であります。
    氷点下25度に耐えられる事になっているんでありますが、嵩張るし重いし・・・でも、とっても暖かで寝心地は良いんですよ。
    でね、寝袋と言うのは、冬山では最後の砦、核シェルターにも匹敵する物で、これが良く無いと安眠出来ず、翌日に響く訳なんでありますね。
    余談ですが・・・人間は寝ている間に2リットルの汗をかくと言われていますが、寝袋の中でかいた汗は足の方に貯まります。
    で、朝起きると足の方がびっしょり濡れていたり、寒いテントの中だと、バリバリに凍っているんであります。
    朝にぐっしょり濡れている原因が自分の汗だと気付くまでは、てっきりテントから滴がたれて来る物だと思っていました。
    それで、翌日の夜は違う位置に寝るのですが、やっぱり濡れている訳です・・・昨夜は晴れてたのになぁ、何で雨漏りなのかなぁ、と、長い事不思議に思っておりました。

     さて、旗坂の登山道入り口を9時に出発しまして、最初は雪の無い夏道をえっちらおっちらと登って行きました。
    30番から始まる案内板の番号が25番になった辺りから雪道になりました。
    しかし、踏み固められた雪に残るトレースは鮮明で、快晴でポカポカ陽気の中、まるで春山のような気分でありました。
    はっきりした踏み後と、先行者が着けた赤テープの目印で帰り道の心配も無く、のんびりと雪上散歩であります。
    もっとも、背中の荷物が重く、おっさんの腰には中々の負担であるな、と言う事で、時折腰を折ったり伸ばしたりなどしなくてはならず、穏やかな天気とは裏腹に、息は上がっているのであります。

    立ったままの小休止です・・・登りはズボ足でした。

     おっさんは、高校生の時に本格的な山登りを始めたのですが、こんな立派な背負いやすいザックは背負った事が有りませんでした。
    今はもう幻のキスリングを背負って登っておりましたが、当時の荷物の総重量は、軽くて25キロ、重いなぁ、と言う時には30キロを越えていました。
    しかも、今のフレームザックのように形がきれいに決る物ではないので、肩は勿論でありますが、背中もザックで擦れて、皮がむけた事が何度も有りました。
    で、体格を無視してあまり重い物を背負うと、ザックの肩ひもで腕の血行が阻害され、ザック麻痺などと言う危ない症状に見舞われる事も有ったりする訳であります。
    そんな事を思い出しながら、今時のザックの20キロは、それなりに重いけれども、背負い心地としては随分と良い物だなぁ、などと感心して登っておりました。

     さて、三光の宮まで2時間30分で来まして、荷物背負ってる割りには良いペースだな、と思ったんでありますが、この辺から少しガスが出始めまして、高い稜線の方ではピューピューと風もなって参りました。
    踏み跡はしっかりしているし、赤布も適宜打たれておりまして、至れり尽くせりの道程な訳でありますが、陽が陰ったせいか、何となく気持ちに影が差すと申しましょうか・・・怖じ気づく、と申しましょうか、ふと、今晩大雪降ってトレース消えたら?なんて思う訳であります。
    ビビって引き返すなら、この辺りが限度で有りましょう、と、何となく、もう独りの私が訪ねて来る訳であります。
    で、強気のもう独りは、ダイジョブだぁー・・・赤布も有るし、番号もあるし、単純なコースだべやぁ、と言う訳であります。
    が、しかし、弱気の私は言う訳であります・・・一晩で50センチ降ったら、独りでラッセル出来っかよぉ?と。
    で、強気の方が、太平洋側に北上中の大型低気圧でも有るんなら別だが、今夜は絶対に降らネェよ、と・・・。
    独りで歩いていると、ふと、とても弱気な気分にかられる事が有るものでして、雪山では特に、パーティー組んでいてさえ苦労するのに、独りでどうなる、などと思ってしまう訳であります。
    そんな時に常に頭に浮かぶのが、孤高の人の加藤文太郎であります。
    粗末な登山道具で、厳冬期の立山や北アルプスを単独で登樊して歩いた、伝説の人を思い出す訳であります。
    彼に比べれば私の装備のなんと素晴らしい事か・・・足りないのは・・・装備以外のすべて、か?

     まずまず、独りで歩いていると、夏山でも弱気の虫は出る物でありまして、だからと言って引き返したり登るのを止める事は無いのであります。
    結局は三光の宮からは戻るよりも升沢の避難小屋へ行く方が近い訳で、足はずーっと止まらずに進んでいるのであります。
    しかし、所々不安になる場所はありまして、振り返ってみると赤テープが見えないんであります。
    そして、私はここの地形に精通している訳ではない・・・なんとなくは分るし、今は夏道の面影もある。
    しかし、まかり間違って一晩で50センチ降ったら、ラッセルは最短距離で決めないと1馬力には余力が無い。
    と、言う事で、ポケットから持参の赤テープを取り出しまして、自分としてはここに一点欲しいな、と言う所にポチっと。
    まずまず、これでなんとか、まかり間違って欲しくは無いが、万が一でも帰り道にはそんなに苦労もするまいね、と。

    今夜のお宿、升沢避難小屋

     さてさて、夏道なら三光の宮から升沢の避難小屋まで、私の足で30分ちょっとで行ったのでありますが、この度はどう言う訳か、1時間20分も掛かってしまいました。
    確かに、赤テープを張りながらなので時間を食ったと言うのも有りますが、三光の宮から先、雪が深くなり、荷物を背負っている事も有って足を取られる事が多くなりました。
    背中にはスノーシューがある訳で、履くべきか、このまま行くべきか、悩んだんであります・・・結局ズボ足でした。
    どーせ、直ぐ近くでしょ・・・と、思ったんですが、付いているトレースも蛇行していて、結構大回りなんぞで距離稼いじまってる訳です。
    そんな訳で、詰めに入って思ったよりも苦戦しまして、升沢避難小屋到着は、1時過ぎでありました。
    一休みして頂上アタックか?・・・とんでもない、昼飯喰って一眠りしちまいましたよ。

    独りで占領して、持ち物をブッ散らかし

     お昼ご飯と言いましても、おにぎり2個に番茶を少々でありました。
    取り敢えず、寝込んじまって夜になったら水汲みは嫌だからな、と言う事で水は汲んで来たので、ラーメンでもコーヒーでも、温かい物を作れるのでありますが、一度座っちまったら動くのが億劫で、おにぎり齧って寝袋へ潜り込み、でありました。
    おっさん・・・53歳と4ヶ月・・・思ったよりも劣化しているんでありますね。

    バイオトイレ・・・ご存知ですか?

     本日の行動予定は始めから升沢避難小屋まで、でありまして、なので家を出たのも8時過ぎだった訳であります。
    その心は・・・20キロ背負って雪道だと、升沢の小屋までで自分の足は一杯だろうなぁ、と、何となく思っていた訳であります。
    いわゆる一つの勘と言う奴でして、仮に行けそうでも、日没に向かっては、何か有ったら危ないし、と言う事で控えた訳であります。
    さて、ホントーに疲れていたんでしょうね、おにぎり喰って寝袋に潜り込んだら、そのまま1時間程寝入ってしまいました。
    遭難して疲れ果てて、眠くて寝入ったら死ぬのと違って、喰うもの喰ってぬくぬくの寝袋ですから、快眠であります。
    元気が戻った所で、スノーシューを履いたて、近所を御散歩、であります。
    あれっ?あれれれっ?この先へ行く、山頂を目指すトレースが無いよ、と。
    まさかぁ・・・と、夏道になる沢を少し登ろうとしたのでありますが、雪解けの水が多くて、沢をジャブジャブ行くのもなぁ、俺には無理だよなぁ、と。
    んじゃぁ、あれだ、山頂目指して直登して行ったかもね・・・で、自分ならこう行くな、と言う方向に少し歩いてみた訳でありますが、やっぱり雪原は綺麗なままでありました。
    この時山頂はとっくにガスで見えなくなり、この辺りでも風がピューっと吹き出しておりました・・・探索止めぇー、と。

     まだ3時ちょっと過ぎでありますが、陽が陰ったら急激に冷え込んで来るんでありますね。
    まあ、山頂はまだ先とは言え、ここでも標高1200メートルは過ぎている訳で、そりゃぁ冷えて当たり前な訳です。
    で、無料の公共施設でありますから、冷暖房は無完備な訳でありまして、風が吹き込まないのと、濡れないだけであり難い訳です。
    がぁ、しかし、暖房は無くても、この山小屋は新築で綺麗な上に、トイレが完備されているのであります・・・バイオトイレですぞぉ。
    詳しくは上の写真の取扱説明書を読んで頂きたいのでありますが、出すもの出し終えたら、ゲーム感覚で遊べる、とても楽しいトイレな訳です。
    でも、ウンコと直接書かなくても、糞とか、ソレ、とか書けば良いと思ったのは私だけでありましょうか?
    ただ今、各地の山で糞尿の処理が問題になっている昨今、このような方式で処理出来るのであれば、素晴らしい事であります。
    おっさんは、しっかりと利用させて頂いた上に、備え付けのトイレットペーパーまで使わせて頂きました・・・ありがとうございました。
    でもね、久しぶりに和式のトイレでやってみたんでありますが、疲れて力の入らない腿の筋肉には、スクワット方式のトイレはチョットきつかったであります。

     ウィスキーなど舐めながら、剣先スルメを齧って、晩飯はナニを喰うか、などと思案してみたりする訳です。
    話し相手が有る訳じゃ無し、本を読める明かりも無いし・・・ラジオを聴いて頷くのにもすぐに飽きました、と。
    よし、今夜は豪華にカレーライスに、サンマの蒲焼きと、おまけに、魚肉ソーセージも一本いっちまいますか?
    もともとカレーしか無いんですけどね、どうせ一泊ですから、栄養もクソも関係ないし、バテて食欲が無くても喰えるのはカレーな訳です。
    そして、ウイスキーのつまみには、サンマの蒲焼きを缶ごと温めて喰えば、絶品な訳であります。
    さらに、サンマの蒲焼きを温めてご飯に掛ければ、とても美味しい蒲焼きドンブリの出来上がりな訳であります。
    私、高校1年の時、山岳部で食料係を仰せつかりまして、持ちネタは、カレーとシチューと蒲焼きドンと、インスタントラーメンの4品で、1週間の山行を賄った訳であります・・・いや、伝統的に諸先輩もこれと同じであったので、後輩もこうなる訳であります。
    と、言う事で、35年も経つと言うのに、今だに同じメニューで、違いはレトルトで調理はしていない、と言う事ですね。
    で、喰い終わったんでありますが、なんかイマイチ物足りないな、で、シチューも持っていたのでこれも喰ってみました。
    ウイスキーをたっぷり呑んで、ほんわりとして消灯したのが午後7時であります・・・なんぼでも寝られるんです。

    朝焼けです・・・もう7時チョット前です

     ナンボでも寝られるとは申しましても、寝覚めは早い訳です・・・3時でありました。
    ラジオを付けて、ローソクを一本付けて、寝袋のぬくぬくからいつ出ようか、と悩む訳であります。
    このグスグズしている時間がとても良い訳でありまして、ひとたびヌクヌクシェルターから出てしまえば、寒さとの戦いが待っている訳であります。
    うつらうつらしながら、4時半に寝袋を出まして、とりあえずモーニングコーヒーを飲もうと・・・すると、マイナス五度までOKのハイパワーガスが元気無いのであります。
    燃えない訳じゃないから、限界閾値あたりか?と、言う事で、昨晩、こんな事も有ろうかと用意しておいたポットのお湯を使って温めてやりました。
    やっぱりガソリンストーブじゃないと真冬はダメですね・・・これは冗談では済まされない、どーんと冷え込まなくてラッキーでした。

     まだ真っ暗なんですが、昨晩は風がビュービューで、時折小屋がガタピシ言っておりましたので、積雪など有ったらどうしようと気がかりで、外を見てみました。
    すると、降雪はほとんど無さそうで、半欠けの月に満点の星空で有りました。
    月明かりで山頂の避難小屋も見える程・・・気のせいかな?でも、風は時折強く吹いておりました。
    で、天気予報が気温が上がるぞ、午後には雨が降るぞ、崩れは西部ほど早いぞ、と言うもんですから、どーしよう、やっぱし頂上は諦めかなぁ、と。
    とりあえず、朝飯を食って、パッキングして、準備しておこうと・・・朝食は、ラーメンライスであります。
    蛇足でありますが、私が30年以上使い続けているエバニューのアルミのコッヘルは、インスタントラーメンの四隅がぴったり収まるんであります・・・これは、絶対に計って作っていると思いますよ。

    朝の出発時、絶好の天気でした

     6時半過ぎてもまだ完全には明るくならないんであります。
    晴れているんですが、南東からの低い雲がものすごい早さで飛んで行く訳であります・・・1馬力は非力、と、やぁーめた、であります。
    トレースが有って、ラッセルが要らないんであれば行けますけれども、単独では体力が持たないだろうと思う訳です。
    まっ、ここまで苦労せずに来られて、楽しい一夜を過ごせただけでもラッキーだったと。
    山登りでは、ラッセル泥棒と言う言葉が有りまして、他人が苦労して作った道を、後から追いかけて楽をする事を言う訳であります。
    そんな訳で、とても情けない事でありますが、単独のおっさんはラッセル泥棒をしないと深雪は登れないのであります。
    まあ、3月、雪が締まったらどこでも行けるんですから、それまではこんな感じでしょうが無いです。

    片方はウサギの糞で、もう一方はチョコです・・・分りますかぁ?

     山頂を目指さないんだからのんびり散策しながら下ろうと言う事で、7時半まで小屋でぐずぐずしたり、写真を撮ったりしまして、来る時ズボ足だったので、帰りは新兵器のスノーシュー(MSRのデナリ)を試してみました。
    わざとトレースの無いまっさらな雪の上を選んで歩いて行くと、ウサギの糞がそこら中にあり、足跡も、カモシカだかなんだか、沢山ある訳です。
    人間はこんな大げさな道具を持たないと雪山で生きて行けないのに、一年中毛皮一枚で過ごせるウサギは、凄いなぁ、と・・・思いませんか?
    三光の宮から船形山山頂の避難小屋が見えました。

     山頂方向は風がピューピューでガスっている様子であります・・・力不足で行けなかったんですが、行かなくて良かった、と。
    で、行く時には素通りした三光の宮に立ち寄ったら、なんとぉー、くっきり船形山の山頂が見えるでは有りませんか・・・ああ、行きたかった。
    さて、のんびりの下り坂ですから、楽チンなはずなんでありますが、やはり背中の荷物が膝を押して来るようでありまして、それ程楽でもありません。
    しかし、天気に恵まれ、12月の半ば過ぎにまるで春の散歩のような陽気の中を歩ける山行は、超ラッキーであります。
    吹雪かれでもしたら下りと言えども楽は出来ない訳で、申し訳ないほどの好天に、思わずブナの木を叩いて、ありがとーな、と言ったほどであります。
    三光の宮から、北泉が岳方向を望む

     途中、登山道やトレースから外れて歩いてみると、たぶん熊の足跡だと思われる物を見つけて、慌てて戻ったり、雪が無い時期には降りる事の出来ない沢に入って水を飲んだりと、思い切り遊びながら下って来ました。
    番号札で、No.24と25の間あたりで雪は消え、スノーシューを脱いで、ブナの落ち葉の登山道を旗坂の駐車場まで下りました。
    のんびり歩いて、3時間半、11時に駐車場到着でありました。

     ふぅー・・・結構疲れた今回の山でありました・・・でも、楽しかった、と。
           


     この話 完


    まあ、適当に書いてますんで、間違いが有っても見逃してやって下さい・・・


    ご意見ご感想は 承っておりませんが・・・


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