ふらふらと、山登り


    No.31 神室岳 1365m・・・(神室連峰)




            私にはきびしい山でした・・・

       インターネットで東北の山の記事を拾っていた所、神室連峰の縦走と言うのを発見しまして、読み入ってしまった訳であります。
    早い話が、引き込まれ、魅せられちまったと言う事であります。
    うーん・・・朝日連峰はどうする?ずっと行く行くってちっとも辿り着けないでいるでは無いか、と、自分の中で協議なんかも起きている訳ですが、しかし、雪解けのタイミングからして、今美味しいのは神室岳でしょう、との勝手な判断の元に、決定した次第であります。

     コースは、登山地図に付録でついて来るガイドブックの奨めにより、もっともポピュラーであるらしい、役内口から入りパノラマコースを廻って戻って来る周回コースにしてみました。
    事前情報は意外に少なく、残雪の状況が分らず、沢沿いに行くらしい役内口からのコースには懸念もあったのでありますが、まあ、なんぼ頑張っても1365メートルの山だから、と言う事で、気軽に出掛けたのでありました。

    役内口から、新緑の向うにこれから向かう山を見ました。

      登山口到着は9時50分、歩き始めたのが10時丁度でありました。
    この時の気温はすでに24度に達しており、快晴の空は、まだまだ気温が上がるだろう事を物語っているのであります。
    役内口の駐車場はパノラマコース入り口で、役内口登山道入り口までは車で先まで入れるのですが、帰って来るのがパノラマコースの為にここへ置いて行く訳です。
    昭文社の登山地図によれば、水場の少ない山であるな、と思うのでありますが、まあ、上に行けば残雪が有るだろうし、と言う事で気楽に考えていた訳であります。
    まあそれでも、万が一の緊急用と当座の飲み水は必要と言う事で1.5リットルは背負ったのでありますが・・・。
    しかし、山頂の山小屋は老朽化が進んで使用禁止と言う事なのでテントを背負っている訳であります。
    最低限とは言え、水とテントが加わるとやっぱり重い訳でして、肩に感じる重さは中々の物でありました・・・カメラを一台増やしたのもあって、23キロでした。

    こんなような吊り橋を2カ所渡ります・・・沢の水量は雪解けで半端じゃないです。

     沢沿いに進んでいる間は登りも急では無く、変なアブラムシの親戚のような虫の大群につきまとわれる以外は涼しくて快適でありました。
    登山道の踏み跡もまずまず、それなりに、分り難い所はあるものの、それ程心配するもんでは無いな、のレベルでありました。
    が、しかし、二つ目の吊り橋を過ぎてすぐ、沢沿いの旧登山道を通らず、巻き道を行けと言う指示が出てからがこのコースの本領が発揮される訳であります。
    左手下に沢を見ながら巻いて行く道が切られている訳ですが、これが雪解け後だからなのかどうか、崩落、崩壊の箇所が結構目立つのであります。
    地図には徒渉点が三カ所ある事になっているのでありますが、かなり急な沢に雪が詰まっている(雪渓と言う規模でもない)所をトラバースする等もあって、スリル満点でありました。

    三十三尋の滝・・・見事な二段滝でした。

     沢を巻くトラバースの道は滝が見える所まででして、ここから一旦沢に下り、徒渉して対岸から尾根に取り付くように地図は誘っている訳であります。
    沢に居りてみますと赤ペンキと黄色ペンキの矢印が徒渉点を指示しているのでありますが、水量が多く、飛び石に使えるであろうはずの石は水中であったり、飛沫の中であったりと、とても渡れる状態では無い訳です。
    しかも、対岸の取り付き点も判然とせず、どこから入れば良いものやらと、思案に暮れた次第であります。
    いや、ほら、どこから登るかによってどこを渡るかも決めなくちゃならない訳でして、しばし、地図とにらめっこした訳であります。
    しかし、私は地図読みの達人では無いので、なんぼ眺めていても取り付き点は見えて来ない訳です。
    尾根筋は見えていまして、あれを登るのかなぁ、との見当はつくんでありますが、そこへは沢を渡って直接行く事は不可能でありました。

    徒渉点の上流に掛かるスノーブリッジです。

     さて、濡れずに沢を渡るには・・・上流のスノーブリッジを渡るしか無さそうなんでありますが、これがまた微妙な残雪でありまして、ホントーに渉の?とせせら笑っているように見えるのでありました。
    それでも、上の方の少し厚みのあるブリッジを見つけ出し、そこを渡って取りあえず対岸へたどり着いた訳であります。
    すると、雪の切れ目に赤テープ(梱包用のピンクのビニールひも)が下がっている木が目に入ったではありませんか・・・助かったぞ、と。
    しかし、結局そこは残雪期に通れるルートのようで夏道入り口では無く、たぶん雪の多い時分に夏道からはずれていて適当に尾根を登って行ったんでありましょう。
    まあ、尾根は明確ですぐに夏道に出られるんでありますが・・・と、言うよりも、ここからが登りの本番でありまして、外しようも無い明確な急登の尾根を嫌と言う程行く訳であります。
    そう言えば・・・沢を渡る前まではハルゼミやヒグラシの鳴き声が煩かったんでありますが、高度が上がった為か、尾根に入ったら聞かなくなりました。

     
    尾根はブナ等の大木が生い茂り見晴らしは無いのですが、時折隙間から遠望がありました。

     尾根を歩き始めてすぐに、最後の水場となる「不動明王」の祀られた広場に出まして、一服であります。
    ここの登山道は入り口から二つ目の吊り橋辺りまで、良く歩かれている雰囲気があったのですが、それは山菜採りの人の物だったのかもしれません。
    尾根の急登に入ってからは倒木や、太いブナの枝が折れて登山道を塞ぐ事も多く、けっして楽に歩ける道では無いと思ったのですが・・・まあ、私が初心者だからかもしれませんけど。
    ここからは、ガイドブックによれば、標高差400メートルを一気に登る急登なのだそうであります。


    人が歩かないからか、登山道にはカタクリの花が咲き乱れておりました。

     さて、ここの急登は半端ではありませんで、本当の急登で有りました。
    ブナの落ち葉が地面を覆っていてとても滑るんですが、やっばりやっちまった訳であります。
    滑った拍子に転倒して、転がり落ちそうになり慌てて止めようと、あせって地面に爪を立ててしまった訳です。
    幸い木の根っこを捉まえて事無きを得ましたが・・・いや、左手の中指の爪が割れてしまいましたが、その程度で済んで良かった、と。
    転んだ際に打った左の腿の側面も腫れ上がりましたが、鈍い場所なので痛みも大した事無く、歩くのには支障がなく助かりました。
    あんまり暑くて軍手も外しておりました・・・いや、アイゼン着けて登るべきだったかも・・・これ、本気です。

    展望の無い尾根が開けたと思ったら雪渓でした・・・キックステップで楽に登れました。

      沢筋や日陰には大きな雪渓が残っているのですが、しかし夏道には目立った雪は残っていませんで、水たまりや泥濘地も無く地面はしっかりしているんであります。
    しかし、如何せん傾斜が急なのと落ち葉で滑る訳でして、いい加減嫌になった時、前方が明るくなったと思ったら雪渓に飛び出しました。
    ああ、成る程な、と、納得であります・・・ここへ出る少し前から登山道に水が流れるようになっていたのでありました。

    御田の神という平坦地の小さな池糖にクロサンショウウオの卵が沢山ありました。

     こんな真夏なみの太陽の下で雪渓を歩いたら、それこそ黒焦げになるのは間違いない訳で、UV対策を施していない私としては日焼けが心配なんであります。
    まあ、しかし、既に雪焼けで相当真っ黒な訳でして、今更日焼けは気にせず、夏道を外して大好きな雪渓を歩く事にしたのであります。
    もっとも、夏道の尾根に平行して雪渓は残っているので、安全ならば、雪上を歩く方が楽なのであります、が、しかし・・・。

    まあ、これだけ目立つのではまる事は無いのですが、雪塊がごそっと切れて落ちる事は無いのか心配な訳です。

     雪田になっているところは傾斜が無いので雪が雪崩れたり、塊ごと滑って落ちたりと言う事は無いと分るので安心なんですが、急傾斜にへばり着くように残っている雪渓は不気味であります。
    雪が割れている所は見れば分りますが、それの前後には隠れた切れ目(クレバスと言うには大袈裟な)が続いている訳でありまして、これが不気味なんであります。
    色と雪の解け具合等の雰囲気でなんとなく、これはヤバイな、と言うのが見て感じる訳であります・・・ふふふ、修行の成果でありますね。
    しかし、雪解け後で歩き難い夏道よりも、断然気分爽快な雪上歩行は魅力的なんでありまして、まあ、大丈夫だろうと、何の根拠も無く、気持ちは許す訳であります。

     
    写真で見ると凄く良い塩梅の雪渓ですが、まあ、初心者の私には手強かったです。

     いや、しかし、アレです・・・気分良く雪渓を歩いて行くのは宜しいんでありますが、本当に方向は合っているのか心配な訳です。
    本日はいつに無く地図を見る機会が多いんでありまして、判然としない踏み跡や、地形図の示す道筋とは全然違う所に登山道が在ったりと、手強い訳であります。
    ここで夏道は雪渓の下に消えているらしく、んじゃぁ向こう側はどこを目指せば宜しいんですか、と、なるのですが、遠くから見ては全然判別できません。

    ふふふ、近寄ってみたら、それとなく怪しげな切れ目が・・・私の目は誤摩化せないぞ、と。

     さて、たぶんあそこだな、と思う怪しげで不自然な薮の切れ目が目に入った訳でありますが、キックステップだけで詰めて行くには中々に急であります。
    背中に背負っているのは10本爪のアイゼンでありまして、履けば強力なんでありますが、雪渓に荷物を降ろして取り出すのが面倒な訳です。
    状況を見ますと、仮に滑り落ちたとしても、登った分を滑り落ちるだけで危険は無く、振り出しに戻るだけだな、と言う事で強硬突破を決定であります。
    いや、しかし、稜線上に見える切れ目は間違いでは無かったんでありますが、雪渓から上がる所は私が目指した所とはちょっと違っていたようでありました。
    しかも、夏道への入り口の雪はスカスカになっていて近付く事が出来ず、雪の固い所から薮に入って漕ぐ、と言う事になった次第であります。
    しかし、灌木と根曲り竹の薮を大型のザックを背負って漕ぐと言うのは中々に厳しいモノでして、常時誰かが後ろからザックを引っ張っているような抵抗が在る訳です。
    しかも、上半身は半袖のTシャツなものですから、両腕は見事に擦り傷だらけでありまして、こんな傷だらけは子供の時以来であります。

     
    薮を抜けたら稜線上に躍り出まして、これから行く主峰神室岳方向が見えました。

     さて、主稜線に上がれば後一息であります。
    ガイドブックによれば、ちょっとしたピークを幾つか越え、切れ落ちたやせ尾根に注意しながら行けば程なく神室岳の山頂なはずであります。
    しかし、アレです・・・ガイドブックと言うか、登山地図は毎年改訂版が出されている訳では在りますが、まあ、信じるか信じないかは人それぞれでありますが、私の勘では、毎年手を加えているとは思えないのが本日のコースでありました。
    そして、初心者の私としては、ガイドブックが注意を喚起しているやせ尾根は大した危険を感じる事も無く、それよりも、第三徒渉点と呼ばれている沢の徒渉について、雪解けの増水や雨の後の増水などについて、詳しい説明が必要では無いのかと思ったんでありますが・・・。
    しかし、それは私が初心者だから難儀したりする訳で、ベテランの方々にはどうと言う事も無いのか、とも思いますが・・・。
    でも、アレです・・・第三徒渉点のスノーブリッジは、初心者は厳しくても渡れましたが、ビギナーはたぶん無理だった、と思う訳であります・・・なんちゃって。

    神室岳山頂に、たこおやじ現れる・・・白い袋はビールを冷やす雪であります。

     さて、山頂到着は2時20分・・・出発から4時間20分でありました。
    遮る物の無い360度の展望は、東北の山が総て見渡せるはずなんでありますが・・・晴れてはいますが空気が澄んでいなくて、近くの高松岳や虎毛山、稜線続きの小又山などはきれいに見えるんですが、遠くの山は、かすかに鳥海山がそれらしき姿で、あれかな、程度に見えるだけでありました。

    山頂から300メートル程下ると避難小屋であります・・・かなり崩れておりました。

     さて、ここでもアレです・・・ガイドブックにしてやられたなぁ、であります。
    まあ、初心者故の危惧であったり不安なのかもしれませんが・・・テントが一張りから二張りは行ける、と書いてある訳で、たしかにスペースはあります。
    しかし、その場所は北と西側に開けている訳であります・・・しかもここは遮る物の無い1350メートルの稜線上でありますよ、と。
    私の少ない経験から、北枕にテントを張ったら風を喰らって酷い目に遭う事が多いと思う訳であります。
    まあ、しかし、小屋は崩壊が激しく、ここで寝ろと言われても野宿の方がまだ良い、と言う感じで、テントを張るしか道は無いのでありますが・・・。
    既にパヤパヤを通り越してヒューヒュー程度に風が吹いている中でさっさとテントを設営する訳であります。
    しかし、今時のテントは立てるの簡単なんでありますねえ・・・私のテントはもう立たないんでありますが・・・あれっ?
    で、入り口を北に向けると開けた時に風をはらんでテントが飛ぶ事が在る訳で、常識的には御法度なんでありますが、南に向かって傾斜が在るんです。
    うーん、出入りのしやすさと寝心地の良さを取るか、テントの耐風力を優先させるかになる訳ですけれども、やっぱし、明日への活力の為には心地良い睡眠は欠かせない訳でして・・・そう言う訳です。
    しかしなぁ、こんな晒しモノの稜線で布切れ一枚で耐えられるかねぇ・・・いざとなったら背負って逃げる物だけはザックにまとめておくか、なんて思っていたのは酔っぱらうまでの話であります。
    一応風の来る方向には補強のペグを増やしまして、まあ、飛んでもフライを剥がされる程度で、中に人がいる本体を持って行かれる事は無かろうとは思っているのであります。
    しかし、アレです・・・指で押しても歪む程度のポールでホントーに耐えられるのか、今時の山岳テントを始めて使うおっさんとしてはとても不安なのが偽らざる所であります。

     
    風裏の小屋の隙間にキッチンを設けてみました・・・よく見たら汲み取り口のコンクリート蓋の上でした。

     さて、ビールを呑みながら寝床の設定も終わり、晩飯の支度をしているとすっかり陽は西に傾いた訳であります。
    西の空の雲が茜色に焼けて行く様が感動的なのであります。
    これと、明日の朝の御来光を見る為にテントを背負って来た訳でありますから、目的の半分は達成であります。
    しかし、日が傾き始めてから、気温がぐんぐんと下がって参りまして、私の出で立ちは、ダウンのパンツにダウンジャケット着用であります。
    もっとも、その下は半袖のTシャツ一枚と言うのが冬とは決定的に違う訳ですが。
    鳥海山の隣に沈む夕日を眺めながらビールや焼酎を楽しんでおりますと、空には鷹が数羽舞っているんであります。
    それらはもの凄いスピードで谷底めがけて急降下したかと思うと、また急上昇して稜線よりもずっと上まで駆け上って行くのであります。
    急降下の時、強烈なGで貧血とか起こさないのか、不思議でありますが、それが出来るから鷹なんでしょうね・・・見事であります。

    鳥海山と夕日です。

     大パノラマで繰り広げられた夕日のショーも終わり辺りはすっかり暗くなって・・・と、行きたい所でありますが、次は満天の星空が展開されて、今度は天体ショーを見なくてはならない訳であります。
    結構な風がピューピュー吹いているんでありますが、それは命の危険を感じるような物では無く、どこか優しいんであります。
    ビールは品切れになりましたので、サンマの缶詰を肴に焼酎の番茶割りなどをチビチビやりながら星を眺めて酔っぱらった次第であります。
    いい加減酔っぱらって寝袋に入ったんでありますが、フライシートがバタバタと煩い訳です・・・この時点での風速は、私の勘測で10メートルでした。
    で、一眠りして目が覚めた時には風速は、私の勘測で瞬間20メートルは吹いて来まして、テントが歪むんであります。
    しかし、それだけの事でありまして、グランドシートに風が入り込む事も、フライが風をはらむ事も無く、まあ、なんとなく無事なんであります。
    んじゃぁ、起きたついでにオシッコして来ようと外に出たいんでありますが、下手に開けたら風が吹き込んでテントが飛ばされるかと、一瞬風の止むチャンスを伺って待つ訳であります。
    よし、今だっ、と、裸足で飛び出して靴を履き、ペグと張り綱を点検して用を足し、テントに潜り込んだのであります。
    しかし、ペグも張り綱のどこにも緩みは無く、こんだけ吹かれてもビクともしていないテントに驚嘆であります・・・やっぱし、本格的山岳テントは違うなぁ、と。

    はいっ・・・夜明けであります。御来光であります。

     まあ、飛ばされる事は無いと信じていたと言うよりも、面倒くさいので考える事無く寝ていたと言うのが本当なのでありますが、しかし、あまりの音に何度か目が覚めました。
    風の音はテントのバタバタもさる事ながら、山小屋の剥がれかかったブリキ屋根がヒューヒューバタバタと泣くんであります・・・けっこう嫌な音でありました。
    そんな訳で風の強さが絶好調の2時半頃には目が覚めてしまいまして、酔いが醒めた事もあってもう寝付けない訳であります。
    コーヒーなど飲みたいんでありますが、特設キッチンは風裏と言っても巻き込んだ風でガスの火も心もとない訳でして、お湯を少々湧かすのに大量のガスを消費するんであります。
    まあ、寒そうで外に出たく無いと言うのも有るんですが・・・意を決してテントを開けてみると、3時少し過ぎだと言うのに東の空はなんとなく明るいような気がするんであります。
    コンロに風除けを工夫してお湯を沸かしコーヒーを入れまして・・・いや、ただのスティックコーヒーにお湯を注ぐだけなんでありますがね。
    これに焼酎入れると結構美味いんだよなあ、でも、今呑んだら日中に響くからなぁ、と、小さな葛藤などしていると、ウグイスが鳴き出しまして夜明けを告げる訳です。
    時計を見ると4時少し前でありますが、足元は十分見えますから、カメラを持って山頂まで行く事にした次第であります。
    で、山頂に着くと、確かに東の方の空は朝焼けが始まっている感じで明らんで来ているのでありますが、しかし、お天道様のお出ましまではまだちょっと早すぎたようであります。
    あれっ、ポケットに小さな瓶が・・・これは、もしかして、焼酎ですかぁ?・・・そうだねぇ、結構風があって寒いしねぇ、まっ、少しくらいなら、と、言う事で、チビリ、と。
    あれっ?・・・こっちのポケットには柿の種がっ・・・最初から呑む気なんじゃないか、と言う事で、御来光を相手に一杯やりに来た訳ですから。

    まあ、写真にしたらこんなモンでして、写ってましたと言う感じてすね・・・下手糞めぇ。

     で、もうちょっと神々しい物とか、なんか禍々しいモノとかを感じて感動する予定であったのですが、何だか、はいっ、出ましたぁーと言う感じでして、美しい事は間違いないんだけれども、私に限っては、こう言うのはテレビで見た方が良いな、と言う事のようであります・・・F値の明るい超望遠持って来ないと無理みたいでした・・・そんな重い物担ぐ程の写真好きでもない訳ですね。
    御来光を背景に、たこおやじが気取っております・・・。

     そんな訳で、快晴の空のもと、お日様が繰り広げる御来光ショーを堪能しつつ、焼酎をけっこういただいたもんですから、また酔っぱらっちまった訳であります。
    んじゃぁ、後の安全の為にももう一眠りだな、と言う事で、ウグイスは寝るなぁ、と、煩いんですが、寝袋に逆戻りでありました・・・4時半すぎてましたかね。

    目が覚めたら、すっかり夜が明けてました・・・小又山です。(たぶん)

     本日も快晴であります・・・しかし、昨晩風はナンだったんでありましょうか?陽が昇ったらピタリと治まっちまいました。
    さて、慌てて朝食の準備に取りかかり・・・まあ、インスタントラーメンを作って食べて、残り汁におにぎり入れて雑炊を作るだけなんでありますが。
    ここで思案であります・・・飲み水が1リットルを切っている訳であります。
    看板には水場まで五分、とあるのですが、しかし、すぐ下は雪田が広がっている訳で、沢に降りると書かれているのを考えると、水場は埋もれてやしないかと。
    しかし、アレです・・・今時の残雪は融かして水にしても茶色くて、浮遊するゴミも多く、絶対に上々の水にはならない訳です。
    煮沸して飲めば、と、言う事になるんですけれども、純粋な水で喉を潤す感覚とは掛け離れている訳でして、美味しい水って、貴重だなぁ、と。

     愚図グズしつつもテントを撤収の上出発準備が整ったのは7時過ぎでありました・・・もう既にこの時間なのに、コーヒーもう一杯飲みたいな、とか始まる訳です。
    そんな訳で出発は7時半と、とても真っ当な岳人の行動様式では無い訳であります・・・まっ、初心者ですからね、総てに鈍いんですね。

     帰り道は下山な訳ですから、下って行くのが普通なんでありますが、ここはちょっと違うみたいです。
    小さなピークを幾つも上り下りしながら、少しづつ下って行くんでありますが、それでも、前神室を越えても急激に下る事も無く、気持ちの良い稜線上の散歩なんであります。
    しかし、言うは易し、行くは難しでありまして、小刻みなピークを拾いながら行くと言うのは、重荷の私には辛いのでありました。
    それでも、山桜やその他の高山植物の花を愛でつつ、適度な風に涼をもらいながらの足取りは、悪く無いのであります・・・それにしてもウグイス、煩すぎです。

    急斜面の大きなブナの後に、小さなブナが列んでいるのは、どうしても一家に見えるのですが。

     前神室を過ぎたら夏道の尾根沿いを下るだけなんだと思っていたら、やっぱり雪道は現れる訳であります。
    それが、役内口の沢沿いコースよりも尖った尾根に鋭角に残っている訳でありまして、嫌らしいのであります。
    距離が中途半端なんですが、傾斜はそれなりでありまして、アイゼンがなぁ・・・まっ、滑らないように行こうかな、と・・・舐めてる訳ですね。
    こんな感じで続いていればアイゼン履いて歩けそうなんですが、それは勘違いです。

     斜面の雪は歩けそうにも見えますがよく見れば、いたる所に亀裂が入り危なそうであります。
    そして、下山に使ったパノラマコースはレリーフピークと呼ばれる栗駒国定公園のプレートのあるピークを越えてからずっと笹の刈り払いがされてある気安い道になっているのでありまして、無理して雪渓を行く必要は無い訳です。

    あまりの暑さにジャージも捲り上げてみました・・・なんだか醜悪な感じがするようですがぁ

     夏道をきっちり辿って行くんでありますが、それでも小さな雪渓や残雪の尾根筋に出くわす訳であります。
    かなり急峻な所も在ったり、足を置ける幅が30センチしか無いぞ、と言う所なんかも在ったりするんですが、しかし、天気が良すぎて緊張感が生まれないんであります。
    ああ、滑落事故とかって、こう言う緩んだ気持ちの時に起きたりするのかなぁ、なんて思いつつも、10本爪のアイゼンは出したく無い訳であります。

    この程度はご愛嬌ですが、しかし、そうは言っても落ちたら痛そうですけど・・・。

     まあ、アレです・・・一冬で何度か雪山を踏んだおかげで、この程度の雪面では動じなくなったとも言えますが、事故と言うのは、慣れが大敵なんでありますね。
    朝日と飯豊用に6本爪アイゼンを入手しておくのが良いかと思うんでありますが、本日はキックステップと踵の打込みで対処すると言う事で・・・。
    それにしてもこの晴天での残雪の道は、快適すぎる・・・いや、黒い虫の集団さえいなければもっと快適なんですが、立ち止まるとまとわりつくので立ち休みも出来ません。

    これがこの度の最後のまとまった雪の場面で有りました・・・写真よりも急で緊張の場所でした。

     ナンダカンだと言いつつも、標高は下がっている訳でして、最後の雪渓が1000メートル辺りでありました。
    ここで雪上にホモサピエンス・♂ヤングを発見しました・・・丁度4本爪アイゼンを取り出している所のようでありました・・・賢いな。

     さて、ここからが結構大変でありまして、下っても下っても、歩いても歩いても、中々楽な所に出無い訳であります。
    まず、それもそうですね・・・行程の大半は高度が変わらない尾根筋を来た訳ですから、最後はやっぱり下りに下らざるを得ない訳であります。
    残り距離は2キロ程度になってからが益々傾斜は酷くなる訳でして、落ち葉で滑るし、倒木は邪魔だし、雪渓よりもここらでアイゼンを履きたくなったのでありました。
    いや、ホントーに厳しい下りでありまして、足が下るのを嫌がって、また登ろうとする程・・・と、言う位に疲れるんであります。
    で、止まると黒虫軍団に取り囲まれるしで、迂闊に休む事も出来いのが苛つく訳であります。
    しかも、樹林帯に入って蒸し暑さ倍増で、心配だった飲み水は残り僅かになってしまっているのであります。
    時折小さな雪田から流れ出す水が冷たそうで美味そうに見えるんでありますが、いざコップなどに汲んでみると、茶色い水でありまして、飲めないんであります。

     いゃぁ、参ったなぁ、と思って最後の水を飲むのに立ち止まった所、今まで聞こえなかった蝉の声が聞こえて来まして、おお、里は近いぞ、感じた訳であります。
    耳を澄ませば確かに沢の音も聞こえ、あれは、駐車場の脇を勢い良く流れていた役内川の音に違いない、と励まされたのであります。
    しかし、音はすれども姿は見えずでありまして、ここからの急な下りも、今までにも増してしつこかったんであります。
    ナンダカンだと急坂に虐められながら下り、車に辿り着いたのは11時半で、4時間も掛かって来たのでありました・・・。
    しかし、登り応えと山容と言う点では、1350メートルとはとても思えない山でありまして、これは積雪期なんて夢にも無理だな、でも、ちょっとは、なんちゃって。


     この話 完


    まあ、適当に書いてますんで、間違いが有っても見逃してやって下さい・・・


    ご意見ご感想は 承っておりませんが・・・


    INDEXに戻る 次のページへ