よたよたと、山登り


    No.42 再挑戦

       

    桑沼〜大倉山〜氾濫原〜大倉沢〜桑沼

      8月23日 8時30分 桑沼駐車場出発  去る7月12日、大倉沢を詰めるつもりが、間抜けな事に長倉沢を登ってしまった事から、本日は正真正銘の大倉沢を詰めるべく再チャレンジでありました。
    前回と同じように桑沼の駐車場まで車で入り、登山届けを提出の上、大倉尾根へと登って行った訳であります。
    しかしアレです・・・山はもう夏の終わりと秋の走りが鬩ぎあっている様子で、夏でもなければ、さりとて秋とも言い難し、であります。
    そんなもんですから足元には花がほとんど無く、それに取って代わって色鮮やかなのがキノコでありました。
    もとより食べられる茸の見分け方なんて知らない私でありますから手は出さないんでありますが、登山道の脇に見えるキノコは、どれもこれも見事に毒々しい色を誇示し、喰えるもんなら喰ってみろ的に挑発している訳であります・・・被写体としては楽しいモノでありますが・・・。
    桑沼の湖水が波一つなく静かで、空や木々が写り込んでいまして、ここで30分程写真撮りに時間を費やしてしまいました。

    桑沼は静かでした・・・紅葉の季節は混むでしょうね

       さて、いつものように距離は短いけれども思いっきり急な登りを喘ぎながら大倉山の稜線まで上がる訳です。
    濡れていると厄介なんですが、本日はそれ程でもなく、程良い足場でして、まずまず比較的楽に登れた次第であります。
    しかし、この登山道も痛みは出ていまして、途中で立ち木が石を支えている所などありまして、アレは何時落ちるか楽しみだな、なんて箇所もある訳です。
    でも、そこが仮に崩落したとしますと、トラバースの箇所だけに厄介で、結構な難所になるんだろうな、と思って見ております・・・半分楽しみです。
    大倉尾根から氾濫原まで緩い下りを軽快に・・・と、思ったんでありますが、なんだか本日は足取りがちょっとぎこちないと言いますか、怪しいと言いますか、何か変なんであります。
    うーん、何かいつもと違う者を感じるなぁ・・・嫌な雰囲気と言うか、楽しく無いと言うか、引っかかるモノがあるな、と言う思いが私の足を引きずっている訳であります。
    しかし、歩みは進んで10時30分氾濫原に到着であります。

    時計が示しているのは標高です・・・地図では730メートルなんですが

     ここで登山靴からフェルト底の沢専用靴に履き替えるんであります。
    一休みを入れつつ靴を履き替えている時に林道から氾濫原に入ってきて大倉山へ向かう登山者と行き合いました。

     さて、準備も整ったし・・・しかし、まだなんだかしっくり来ないんであります・・・どこかに何か引っかかるモノが・・・。
    で、歩き始めてすぐ、ちょっと撮りたくなった小さな滝がありまして、そこでデジカメを取り出して低いアングルからパチりとやった訳です。
    んじゃぁ、あと一枚、と思って身を屈めた時に、どう言う訳かデジカメは私の手からするりと逃げて、沢へポチャン、と。
    私としてはほとんど電光石火の反射神経で救い上げたと思ったんでありますが、やっぱし電子機器でありますからダメでありました。
    うひゃぁー・・・なんとなく嫌な雰囲気と言うか、違和感と言うか、気乗りがしなかったのはコレ、かぁ?
    まず、コレで済めば良いけれど・・・なんか変なんだよなぁ。
    ホント言うとここで戻ろうかとも思ったんですが、しかしなぁ、また来ると言っても他の山の予定もある訳で・・・やっぱし行くべ、と。

     二度目と言うのは気楽なんでありまして、前回よりも渓相がやさしく見えたりする訳であります。
    で、前回ちょっとビビった釜の渕のへつりに来たんでありますが、この度はナンと言う事も無く、考えるまでもなく足が出ておりました。
    渕までは氾濫原から30分と掛からないんでありますが、私の見立ててでは、イワナはここまでが多いようであります。
    たぶんイワナ屋さんは、こんな近くは釣り尽くされているだろうと竿を出さずに上を目指しているのでは・・・ナンチャッて。

     で、渕をへつってすぐでありました。
    前回は左岸に進路を取った所をこの度は右岸を行った訳であります。
    すると、とても明確に、間違え様が無い合流点が現れて、誰が見ても左が大倉沢で、右が長倉沢と言う出合いになった訳であります。
    いやぁー・・・前回は反対の岸を遡ったとは言え、余程心に余裕が無かったんでありましょうか、これを見落としていた訳であります。
    んじゃぁ、前回自分がこれが大倉沢か?それにしちゃぁやけに小さく無いか?と思った沢はナンだったんでありましょうか?
    いや、と、言う事は、前回は長倉沢を詰めるしか無かった訳で、あの小さな沢を詰めたとしたら、どんな事になっていたのやら・・・ウヒョー、と。

    さて、二俣と言いますか、出合いと言いますか、ナンであれ大倉沢に入った訳でありますが、そこから僅か、でありました。
    前方にガビョーンと滝が立ちふさがっているではありませんか・・・むむっ、これが噂に聞く黒滝かぁ・・・正直言うと、参ったなぁ、でありました。
    水量こそ少なく、白糸の滝系とでも申しましょうか、優雅に見えるんでありますが、左右をすっかり崖に囲まれた渓相は、最悪であります。
    私はかつてこのようなヤバそうな滝を巻いた経験はなく、もちろん、直接取り付いて登り切るなんてとんでもない場面でありました。
    私はここで、先日小荒沢を詰めていた時に船形山のベテラン先輩に聞いた話しを思い出していたのであります。
    K氏は右岸から巻いた、と言い、T氏は左岸から行ったと言うのであります・・・へぇーどっでも良いのか、と。

     そんな訳で私の見立てとしては、なんとなく右岸から攻めたいな、と思ったんでありますが、滝の結構手前の左岸に、どーも踏み跡らしい微かなスジが見えたのであります。
    おお、これはアレだ、先人が高巻きに通った跡だろう、と安易に考え、自分の見立てはすっかり放棄してそこから登りに入った訳であります。
    もしもお手元に25000/1の地形図が有ったら広げると分るんですが、本日の全行程で一番等高線が詰まっているのがここの両斜面な訳であります。
    もしも巻けずに稜線まで行く羽目になった場合、地図で測ると、高低差はぴったし100メートルであります・・・推定平均斜度60度以上・・・ヤバイです。

     誰かの踏み跡だと思ったのは、完全に獣道でありまして、途中には、立派な爪痕を残して熊の足跡など残っている訳であります。
    降りようかな?帰ろうかな?・・・でも、降りる方が難しいしな・・・あの、ちょっと太い木の根元で手を休められるな・・・うー、掴む枝が無い。
    草付きの斜面ではフェルトの沢靴が驚く程滑ると言うのは嫌と言う程体験済みで、登山靴は背中のザックにある訳です。
    どーして取り付く前に履き替えたら良い、と頭が回らなかったのか・・・死ぬ程悔やんでも後の祭りであります。
    上半身の筋肉をフルに使ってよじ登るしか手は無い訳でして、慎重に、体重を預けて大丈夫かを確かめながら木の枝を手繰る訳であります。
    時々いばらのような草が手の中に入ってしまうんでありますが、握り返している余裕は無く、そのまま気合いで引っ張る訳です・・・痛さを感じるのは最初だけでありました。

     踏ん張った足場がズルっと滑って両足が地面から離れ、片手1本で身体を支えた時でありました。
    ザックのメッシュポケットに入れてあったアルミの水ボトルが転がり落ちて行くのが見えるではありませんか。
    ええっ?・・・カラビナでザックのベルトに留めてあるのになんでぇ?ベルトが切れたか?カラビナ壊れたのか?
    ベルトは切れていませんでした・・・じゃあ何かの拍子でカラビナが外れたと言う事か?・・・アレが外れるかぁ?。
    あれは、ホントーは私が滑り落ちるはずだったのをボトルが代わって落ちて行ったんでしょうか・・・ほらぁ、気を抜くなよ、と言いたかったんでありましよう。
    短い間の付き合いでありましたが、飯豊山の泊まりではあのボトル1本の水で二日を過ごした仲間でありまして、戦友であります。
    いつの日か捜索して回収してやるからな・・・でも、取りあえずは新しいのを買おうっと。

     そんな訳で、ホントーに必死の思いでよじ登った訳であります。
    滝の高さをちょっと越えたあたりにトラバース出来そうな場所が有って進んでみたんでありますが、先は、見事に垂直な岩の壁でありまして逆戻りでありました。
    戻って、また直登であります・・・しかし、薮がきつくて見通しが無く、上がどうなっているのかも定かでは無い訳です。
    こうなったら手を離しても落ちない所まで登らない事には、滝を巻くとか、そう言う問題じゃなくて、生きて帰るには登るしか無い訳であります。
    いや、大袈裟でないってば・・・ホントーに独りで左岸を巻くのは止めた方が良いですって。

     まず、生き延びたい一心で登り切ったんであります・・・始まりが標高800メートルで、辿り着いたピークは地形図が示す910メートルのピークあたりだと思うんであります。
    しかし、辿り着いた尾根は薮が凄くて、好感度を誇るGPSがあっちこっちと現在地点が飛ぶんであります。
    まず、地形図を見るとナンと言う事も無く明確で、尾根の反対側へ降りれば長倉沢なんでありますね。
    余談ですが、GPSの軌跡ではここでリングワンデリングをした事になっているんでありますが、如何に私でも、お日様がくっきりと見えているのに方向を見失って回る程マヌケでは無い訳であります。
    電波を完全にロストしている訳では無いので直ぐに復帰するのではありますが、しかし、GPSを信じるのも程々にしない危ないぞ、と言うのが証明された訳であります。

     さて、ここからは地図を片手に、前代未聞のハードな薮漕ぎを、距離にして400メートルほどして、程なく大倉沢に復帰であります。
    随分と大胆かつ、非効率的な高巻きをしたもんでありますが、私にとれる手段はコレしか無かったと思うので、自分的には成功なんであります。
    沢に降りますと、これがまたこの世のものとは思えないやさしい日差しが溢れており、トンボなど飛んでおりまして、ああ、天国だわぁ・・・腹減った、と。

    落ち着いたら携帯で写真が撮れる事を思い出して、豪華昼飯「卵入り味噌ラーメン」を激写

     具合の良さそうな石にどっかりと腰を据えまして、ガスコンロとラーメンと生卵などを並べて昼飯の支度であります。
    トンボが多いからかアブなどもほとんど居なくて快適な場所でありまして、まず、コーヒーなど入れまして、おにぎりを食べて、と。
    そのうちにラーメンが程良く煮えて・・・いただきまぁーす。
    なんだか先ほどの高巻きで全精力を使い切ったのかどうか、食べ終わり、コーヒーも無くなったのに立とうと言う気が起きません。
    いや、疲れたとか、怠いとか言う訳でもないのですが、沢のちょろちょろした流れに踊る陽の光などを目で追っているのが心地良くて、立ち去り難い心境なんであります。
    まあ、でも、帰らなくちゃならないんで先へ行く訳なんですけれども、なんとぉー40分間も休憩してしまったのには自分でも吃驚でした。

     ここから先は傾斜も無く、大きな岩やゴロタも無く、ホントーに穏やかな渓相でありました。
    時折小さな渕やりチャラ瀬が現れるんでありますが、それらの場所には意外な程多くのイワナが見られまして、釣り人も入らないんだろうな、と思う訳であります。
    そりゃそうだな、誰が見ても黒滝は魚止めの滝に見えるしな・・・と、言う事は、誰かが上に持ち上げて放したんだろうな、なんて勝手に思いつつ先へ詰めて行くのであります。
    だいぶ水が細くなったな、と思った所で、おやぁ?・・・であります。
    なんとぉー・・・水が無くなって空沢になったのであります・・・ええっ?じゃぁこの上の水源はドーなってんの?、であります。
     
    コレだけ乾いた沢の下にも沢があるんですね

     昔読んだイワナの職業釣り師の本に、イワナは水が無い沢でも生きていて、大水が出た後などに日焼けしていない真っ白な大イワナが下流の渕や釜で釣れるのだと書かれていました。
    理屈としては、沢の下に沢がある、伏流になっている事は想像していたのでありますが、これほど見事に見せられると、大きく頷いて納得であります。
    しかも、コレから先、空沢が出てはまた水の有る沢に戻ると言うのを何度も繰り返すのであります。
     
    空沢の後、突然水が消え入る所に出合うと、そこから上は普通の沢なんです。

     さてさて、標高から言ってもそろそろ長倉尾根に出るか、沢は登山道に平行に走っているはずだな、と、水源の目印の赤布を探しつつ登って行きました。
    沢は薮が混じり、いよいよ終わりの感じを強めて、しかも時々水が無くなる訳です。
    しかしなぁ、水源の水場は何時行っても水が流れているし、今年は嫌と言う程雨も多い訳で、干上がるはずも無い訳で、ドー言う事なんだろうと不思議に思いつつ、水の有った下の方で見落としたのかな、などとも思ったりする訳であります。

    どこから見てもこれは水源でしょう、ここで終わりだと確信したんですが・・・

     すっかり空沢になり、しかも、今までの経験から、この手の水源風の景色が現れたら沢は終わりだと思った訳です。
    しかも、標高から考えてもここらが水源の幕営地辺りだろうと、赤布は見つからなかったんでありますが薮に入って明るい方を目指したんであります。
    ほらぁ、ドンピシャリだものー、で、水源の広場へひょっこりと出たのであります・・・がぁ、しかし、んじゃぁ水場は?となる訳です。
    すぐに水場への道を入って行きますと、ナントぉー・・・いつも通りに水は流れているでは有りませんか。
    へぇー・・・そう言う事かぁ、と言う事で少し下ってみると、やっぱり空沢になっている訳です。
    しかも、水源の下で終わったと思った場所から上は、沢に草木が生えていて、長い事水が流れていない事を物語っている訳です。
    そんな訳で、ちょうど水源付近は水が沈み込まない場所なんでありまして、たぶん、この感じで行くと本物の水源は大倉尾根に近い所まで遡る事が出来るのだろうと思う訳です。
    しかし、水源で既に2時でありまして上を詰めるにはちょっと厳しい時刻であります。
    本日はこれまで、と言う事で、桑沼を目指して戻ったのであります。
    大倉尾根から桑沼までの下り坂も地面が乾いていると随分歩きやすく、久しぶりに一度も転けずに下る事が出来ました。

     駐車場着 15時10分・・・本日の歩行総距離12.89キロメートル、でありました。

     沢登りはスリル満点、涼味満点、景色満点・・・一粒で二度も三度も美味しい欲張りな山行でありますね・・・病みつきです。  


     この話 完


    場所や時間はかなり適当ですので、ご注意下さい・・・


    ご意見ご感想は 承っておりませんが・・・


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