よたよたと、山登り


    No.57

       

    船形山

      船形山 山頂往復 

     3月17日
     おっさん、山登りに復帰して今回が57回目でありますが、今までの中でこれが一番酷い山登りで有りました。
    まあ天候判断が甘いとか、体力不足であるとか、経験不足、金も無い、等々足りない物ばかりがもたらした結果とも言えるんでありますが、しかし、荒れた船形山は舐めたらいかんよ、と、肝に命じた次第であります。・・・前振り終わり。

     旗坂に行くまでの間の道路に既に、そこそこの新雪が積もっておりました。
    ああ、本日もしも先頭だとすると、たぶん、ずーっと一日中先頭でそれなりのラッセルであるな、と覚悟した次第であります。
    旗坂キャンプ場は薄曇りで、上の方の稜線で風が鳴っておりました・・・9時ちょうどの出発で有りました。

     出足からけっこう気温が低く、いつもより汗が出ないな、と思いつつ、割と快調に旗坂平まで到着でありました。
    案の定新雪が積もっているんでありますが、この辺りはまだ踏み跡が見えており、それを辿って行った訳であります。
    しかし、日帰りで軽装の人の踏み跡は、最短距離を目指し直登を旨として行く訳であります。
    おっさんは本日もお泊まり用品一式を背負っている訳で、踏み跡を辿るのも容易じゃないのでありました。
    最も本日の荷物はテントが無いのと軽量化に成功し、総重量を16キロにまとめる事が出来、かなり軽く感じる訳です。
    省いたのは、持って歩いても結局は喰わないレトルト食品と、水ボトル1リットルと、缶ビールを一本減らしてみた次第であります。

     で、鳴る清水手前のところだったでしょうか、ちょっと急な登りを登り切って尾根に出たら風が凄い訳です。
    普段は長袖のスポーツシャツ二枚重ねにオーバーヤッケ一枚で汗を流しながら歩くんでありますが、本日は、こんな低い所で寒くて堪らなくなっちまったのであります。
    ザックを降ろしフリースを取り出し、序でに一度も使った事の無いオーバーミトンも装着し、ネックウオーマーとゴーグルまで装備した訳です。
    いや、3月の春山で完全防備の冬装備の出で立ちになるとは夢にも思っていなかった訳で、正直言って山頂まで行けるのかな、と、ちょっと不安になってしまったのであります。

     三光の宮までの赤布は、それぞれ思い思いに好き勝手と言う感じで乱立している訳でありますが、ここから升沢小屋までは千葉B氏が高い所に着けた赤布を追う訳であります。
    しかし、これも大分年季が入って、時に赤く無い訳でして、見にくくなっちまっているのであります。
    いや、真新しい赤布もあるのですが・・・シロートのおっさんが言うのもナニなんですが、赤布の付け方のセオリーとでも申しましょうか、お約束とでも申しましょうか、それが曖昧なモノが見受けられる訳であります。
    赤布のお約束で一番大切なのは、「赤布と赤布の距離が開いて見えない時には直進」と、おっさんは大昔に教わった訳で、蛇行する赤布は困りモノだと思うのであります。
    従って、曲がり角の赤布は、曲がった直ぐ先の見える所にあると、思って歩いている訳です。
    いや、しかし、基本的には他人の赤布は当てにするな、と言うのが大前提なので、おっさんが文句を言えた筋の話しでは無いのでありますが。

     新雪、ふかふかのラッセルはスノーシューを履いていても時にくるぶし以上も潜って、中々前に進まない訳です。
    で、三光の宮の三叉路から先は、亀石沢の頭を上手くかすめる様にショートカットすると最短なんでありますが、これがまたちょっと下がりすぎると亀石沢の大溝にハマる事になるし、難しい訳です。
    おっさんはテキトーに歩いて行って亀石沢に行く手を阻まれとても難儀して登りました・・・この辺りでは千葉B氏の赤布は見当たらず、真新しい赤布で「由美」と名入りのモノがあった訳です。
    しかし、この赤布はくせ者でして、どんな急な登りも避けずにブチ登って行くのであります・・・新雪で腰まで埋まる殆ど壁を登って行きました。

     ここまでは樹林帯なので風も大した事は無く、寒いのとガスって暗いのが気持ちを重くさせますが、まず、大した事も無く来た訳であります。
    もっとも新雪のラッセル続きで体力的にはかなり参っているのと、気温が低いので休憩なんぞしていたら凍えそうで、休息は立ち休み、燃料補給も歩きながらで、脚もどこまで持つかな、と言う感じで先が不安なのでありました。

     升沢小屋通過、12時30分。
    ここでおっさんのインチキ温度計は氷点下11度を指していまして、稜線上は見えませんが、ゴーゴーと風が唸っている訳であります。
    一瞬、ここまでにすっか?と思い掛けたんでありますが、本日はドーしても山頂小屋でストーブを焚いてみたい訳で、目的はそれだけでありますから、升沢小屋に泊まる訳にはいかないんであります。
    時間的にもそんなに詰まっていないので小屋で休息をとも思ったのでありますが、しかし、一旦腰を下ろしたら立ち上がらないような気がして、小屋は通過でありました。

     さて、小屋から先のルートなんでありますが、今までのルートにこれだけの新雪があると、夏道沿いの沢には大量の雪が有る事が予想される訳です。
    で、おっさんはここの斜面の雪の事は昨年に一度見ただけなんでありますが、記憶では、森林限界の下は灌木でそこそこの急斜面な訳です。
    で、数日前までの暖かな日で新雪の下はたぶん凍っているはずで、その上にふかふかの新雪が乗って・・・間違うと雪崩れる、ぞ。
    そんな事を思ったので、升沢小屋の左前のピークを越えて蛇ガ岳からの稜線に出て廻り込もう、とした訳です。
    一応地図では尾根続きになっている上に、出会ってからも左程尖った稜線では無いので歩き易かろう、と踏んだ訳です。
    ただし、本日はとんでもない風が予想されている訳で、稜線上の風を取るか、沢で雪崩れそうなルートを取るか、ホントーは迷う所な訳です。
    最初の予定では、天気が許せば蛇ガ岳に登って稜線伝いに山頂へ、と思っていたので、それの短縮パターンとしても、ピークを越えてみようと決定した訳であります。

     いや、地図で読むのと実際歩くのでは、中々現実は厳しい物であります。
    ピークのてっぺんは風が強く雪が飛ばされ、笹と灌木の薮でありまして、しかも、稜線に出るには山頂方向では無く、蛇ガ岳方向へ向かって行く訳です。
    で、山頂方向へ向かうとなると、夏道が沢を上り詰めた辺りへ向かって下りなくてはならない訳です・・・ギャぁー効率悪ぅー。
    で、しかも、そこまで降りた後は、一番登りたく無かった斜面に出る訳であります。
    まず、雪崩云々もありますが、ふかふかの新雪が邪魔で踏み込んでもずり落ちて登り難いのなんのって・・・もう馬力がありません。
    しかし、もろに稜線に出てしまうと間違いなく吹き飛ばされる訳で、取れるルートは、最悪の、雪屁の下の風の弱い所をトラバース、であります。
    こんな所を行く羽目になるのであれば雪崩なんか考えずに夏道通りに登れば良かったと後悔し切りでありますが、まず、行くしか無い訳です。
    本日、新雪を歩くのにストックを持ってくれば良かったと思って来た訳ですが、ここの斜面のトラバースだけはピッケルを持っていて良かった、と納得であります。

     なんとかトラバースを抜けて小屋まで続く緩い登りに出たのでありますが、吹雪混じりの烈風で耐風姿性も完全にしゃがみ込まないと飛ばされる程でありまして、さっぱり前に進まないのであります。
    ホントーは夏道沿いに行けば灌木など無く楽なのですが、少しでも風を避けて一段低い所を縫って行ってもバリバリの氷であります。
    で、これを殆ど視界のない中で判断する訳でありますから、細かく蛇行しながら、なんとか方向としては小屋へ向かうというやり方以外に無い訳です。
    で、小屋の前の灌木帯に出まして、うっすらと小屋が見えたんでありますが、その時、白く見えている窓の向かって右端だけが、なんだか黒っぽいのであります・・・おっさんの勘が、嫌な予感というのを告げたのでありました。
    小屋が見えてから、また一段と風が強くなり、手前50メートルで行き倒れになるのではないか、と思う程でありました。

     山頂小屋到着14時10分・・・おっさんの温度計で氷点下13度
    おっさんの勘、大当たりぃー、で、非常用入り口の反対側の窓が全開でありまして、ドヒャァーであります。
    とりあえず、凍える手でスノーシューを外し、ザックを窓から押し込んで、おっさんも窓から転がり落ちる様に中に入った訳であります。
    ガビョーン・・・積雪があるでは無いか・・・まっ、一部に2センチ程の積雪な訳で、寒すぎるから箒で掃いて外に捨てれば濡れる事も無いし、この程度で良かった、と安堵であります。

       
    本日初めてカメラを出しました・・・小屋の積雪2センチ(窓は閉めました)

     ホントーに悪天候の時というのはカメラも出せないんでありますね・・・小屋に入るまで一度もそんな気になりませんでした。
    で、小屋の雪を片付け、いよいよ待望の薪ストーブに点火、と思いきや、前の利用者が水を掛けたのか、中で燃え残りの木が凍っている訳です。
    ウヘェー・・・今度はストーブの掃除かよぉ、で、仕方が無いので掃除をして、いよいよ、点火であります。
    杉の皮をヒッ剥がし、新聞を緩く丸めて上に置き、点火すると、一発でめらめらと燃え上がり、すかざす細めの軽い木を投入。
    煙突からの吸い上げがもの凄く、火吹きなど全く無用でガンガンと燃え上がったのであります。
    この時、備え付けの寒暖計での室内温度、氷点下10度・・・風がないのと、火が見えるので心は既にぽっかぽっかであります。

     ちょっとあちこち煤けていて、迂闊に触るとなんでも煤けてしまうのがこの小屋の持ち味と申しましょうか、おつな所でありまして、注意が必要な所でもあるようです。
    なのでおっさんは自分の寝床の辺りだけ空雑巾で拭いて場所作りなどした訳ですが、その間にも室温はぐんぐん上がり、既にフリースは縫いでもOKでありました。
    で、その後ストーブの勢いで濡れていた物は全部乾いた上に、コッヘルに雪を入れてストーブの上に置けば水もナンボでも作れてあり難い事この上無し、でありました。

    MADE IN CHNAが光る有り難いストーブ

     コッヘルをストーブの上に置いておくと沸騰はしないのですがかなりのお湯の温度になるようで、レトルト食品を温めるくらいならバッチグーな訳でありまして、今回はガスカートリッジも小さいのを一個しか持っていなかったんでありますが、これなら安心であります。
    しかし、薪ストーブを景気良く焚くと、薪もそれなりに使う訳であります。
    正直に言うと、自分が荷揚げした分なんて最初の1時間でお終いでありまして、その後は、心の中で手を合わせて、千葉B氏の上げた分とか、Y女子の上げた分とか、Mさんが上げた分と、気前よく使わせて頂いた訳であります。
    二階には、おっさんのような不届きものが使わないようにと、デポ分など分けてありました。

       
    登山者の命を守る、とあれば、おっさんも守られなければ・・・いただきました

     この小屋には様々なデポ品か備品か、良く分らない供え物がある訳です。
    で、おっさんの興味を著しく引いたのが、お写真の黒霧島であります・・・しかも、ドー言う訳か中途半端に残された2本。
    まっ、二回運び込んだと思えば良い訳ですが、検品の結果、中身はとてもしっかりしておりましたので、おっさんはビールの後に少しいただきました・・・でも芋焼酎より麦が好きなんだよなぁ・・・なぁーんてね。

     夜、ストーブの炎を見ながらラジオを聞いていますと、明日の天気は荒れるよ、と言っている訳です。
    窓の外は相変わらずの暴風雪でありまして、凄まじい音がしている訳であります・・・ああ、ひょっとして停滞もあるのかなぁ、と。
    しかし、燃料と食料と焼酎まであると言う事は、仮に停滞したとしても、とても贅沢な一日を過ごせる訳であります。
    で、棚の隅にはどう言う訳か大川隆法の本だけ六冊もある訳で、あまり好きなジャンルでは無いけれども、暇つぶしにはなる訳で、至れり尽くせりの停滞になるな、などと呑気に構えておりました。


     3月18日

     一応4時起床・・・窓の外は幾分弱まった感じもするけれども、まだ暴風雪。
    寝ている間に消えたストーブの火を点火してまた寝る。

    朝7時頃、風は弱まったがガスが濃くて見通しが悪い

    五時半、再度起床・・・ラジオの天気予報を聞くのだけれど、北日本の太平洋側ではとか、日本海側北部ではとか、そんな適当な天気予報ばかりが聞こえて来る。
    日本海側の北部地方では雨から雪に変わるでしょうって、これでどこの天気だか解る人はいるのかね?外れようも無い天気予報か?
    いや、真面目に停滞になるかもなぁ・・・などと思っているうちにストーブで溶かした雪で水が出来たので天ぷらうどんを喰った。
    東北放送ラジオも生島ヒロシが出ている間は関東や訳の解らない広域的な天気予報しか言わない訳で、早く地元の放送をしてくれよ、と、うどんの汁を飲みつつ思う訳です。
    やがて仙台の天気予報が・・・やっぱしよく無いかぁ・・・しかし、風は弱まって来ているし、霧が濃いから気温が上がって行くんだろう・・・まっ、いつでも出られるようにパッキングだけしておこう、で、準備完了が7時少し前でありました。
    コーヒーを飲みながらストーブの火が落ちて消えて行くのを見て、頃合いを待つ・・・8時になり、これならなんとか行けるだろうと判断して出発する事にしたが、本音を言うとまだ迷っていたのであります。
    迷ったのは足元がちゃんと見えないので小さなギャップで蹴つまずいて怪我をしやしないかと言うのと、昨日ヤバイと思った夏道の斜面を行く訳だけれども、より一層新雪が厚くなっている訳です・・・尾根の強風を避けるには夏道の沢沿いしか無い訳でありますから。

     8時10分・・・戸締まりを確認して出発であります、が、ぬくぬくの小屋から外に出たら寒いのなんのって、死んじまいそうでありました。
    オーバーミトンをしたままスノーシューを履き、せめて小屋の写真位は撮りたいと、風が弱まった瞬間に一発パチリとやったのでありますが、タイマーで自分撮りをするなんて余裕はありませんでした。
    いや、正直に言うと山頂も踏んでいない訳で、僅かの距離でありますがとても行く気にもならないし、行ってドーするの、と言う心境になる訳であります。

    とても暖かく、しかも、どんな風にもびくともしない頼もしさであります

     さて、歩き始めてすぐに灌木帯を行くべきか、尾根伝いの夏道を行くべきか迷う訳ですが、灌木帯を行くと白一色で足元の高低差が判断つかず、小さなデコボコに脚を取られて危ない訳です。
    さりとて、尾根沿いの強風はまだ半端では無く、まつげが凍ってまばたきがし難くなるし、鼻毛も凍って息苦しくなる訳であります。
    しかし、灌木帯で躓いて転んで足首を痛めては一大事でありますから、鼻毛シャリシャリは我慢して夏道沿いに行ったのであります。
    で、三叉路から沢沿いの下りに入ったんでありますが、これが拍子抜けする程に風も弱く楽なんであります。
    昨日のおっさんの見立ては完全に空回りでありましたが、いや、ちゃんと見えていれば判断で来たと思う訳でありますが、もの凄い雪の量で傾斜は急だけれども樹林帯の中を歩く事が出来たのであります。
    しかし、昨日も升沢小屋から素直にこっちを登っていればあのような恐ろしい目に遭う事も無かったのでありますが、そこはそれ、無事に戻った後は良い想い出になる訳で、これも山登りの楽しみであります・・・いや、無事ならばの話しであります。

    沢沿いを降りて来て、間もなく升沢小屋の手前です

     さて、升沢小屋まで下れば、あとは目をつむってでも帰れる訳で、一気に緊張がほどける訳であります。
    で、時間を見るとまだ8時50分でありますから・・・ええっ?山頂から40分も掛かって降りたのでありますかぁ?
    いや、風を避けたり、滑って転んでもがいたり、ジグザグに歩いたりと、楽だと言いつつも工夫はしていた訳でありまして、そんなこんなで時間を食ったのでありましょう。
    で、升沢小屋で一服しようかとも思ったんでありますが、またいつ天気が崩れるかも判らないので静かになっている間に逃げ帰ろうと、小屋には寄らずでありました。

     ここからは時折薄日も差す程でありまして、山頂の荒れ具合はナンだったのか?と言う感じでありますが、それが山というものなのでありましょう。
    で、しつこく赤布の事なんでありますが、同じ木に四つも付いている場所が有ったりする訳ですけど、方や、ずーっと無い所もある訳であります。
    で、赤布を打って行く時は大抵登りでつけて行く訳です。
    で、登りは上を見て行くので低い所の赤布でも見えるんでありますが、下は高い所の赤布でないと目立ち難い訳であります。
    どーせ回収しない道しるべの赤布を打って行くのであれば、もうちょっと高い所に付けてもらえたら良いのになぁ、なぁーんて他人の赤布に期待するおっさんでありました。
    いや、来シーズンにはおっさんも自分用に適切な赤布を打ってみたいと思いますから、どーやったらあんなに高い所に赤布を結べるのか、千葉B氏に教えてもらおうと思っている次第であります。

     さて、三光の宮を過ぎると右足のアキレス腱が痛み出し、急な傾斜の下りは痛くて堪らなくなっちまった訳です。
    普段から下りに弱いおっさんなんでありますが、本日は特に弱くて、何カ所かあった急な下りはジグザクに大回りをして降りた次第であります。
    そんな訳で、山頂から一度も休まずに歩き続けたにも拘らず、旗坂キャンプ場到着は11時50分でありました。
    旗坂キャンプ場では晴れ間が出ていて気温も二度まで上がっていました。

     
    此の度の迷走の軌跡です

     この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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