よたよたと、山登り


    No.58

       

    船形山

       ブナ平 御神木注連縄張り

     3月28日
     本日は「船形山のブナを守る会」の主催する山行でありまして、おっさんも会の趣旨に賛同するものとして、参加させて頂いた訳であります。
    もっとも、おっさんの場合は積極的にブナを守る為に何かすると言う事は無く、なんとなく参加しては、楽しい山歩きをさせて頂くと言う、消極的な参加なのであります。
    で、この度は山行の目的に、御神木に注連縄を張ると言う厳かな目的があるので、おっさんのような不浄の者が参加して良いのかどうかと言う問題も考えられたのでありますが、まあ、来ちまったものはしょうが無いと言う事で、御神木の立つブナ平まで行った訳であります・・・前振り終わり。

     集合場所の大和町「まほろばホール」には7時半の集合でありました。
    到着してみると、船形山からの吹き下ろしが寒いのなんのって・・・いや、ホントーに寒いんであります。
    で、ここから車を集約しまして乗り合いで旗坂まで行ったのでありますが、道は所々凍結してますし、積雪もある訳であります。
    なんだかルンルン気分の春山と言うよりも、ピーンと冷気の張った冬山の様相でありまして、中途半端な服装で来た事を後悔させていたのであります。
    いや、結論から言うと、歩いていないと寒くてたまらない程に冷えていまして、やっぱし下着はウールに限るなぁ、と言うのを実感した一日だった訳です。

     千葉B氏が先頭で行くすぐ後を着いて行かせてもらったんでありますが、彼は歩くのが速い訳です。
    いや、べらぼうに速いとかではなくて、登りが急でもペースが変わらないので相対的に速く感じると言う事でありまして、ペースとしては一定で良いのであります。
    しかし、総勢37名の雪中行軍でありますから、やはりそこには速度に差が現れる訳で、長い長ぁーい隊列が展開される訳であります。
    こうなると、先頭も最後尾も不幸であります。
    先頭は歩いている時間よりも立ち止まって待っている時間が長く感じられ、冷えて寒い訳であります。
    で、最後尾は、やっと皆に追いついたと思って一息入れると、さあ出発となって休む間が無く大変な訳であります。
    まあ、それぞれが適宜うまく調整して歩けば良い訳でして、どーと言う事も無いのでありますが、まず、面白い現象であるな、とおっさんは感じていた訳であります。

     先頭を行く千葉B氏は昨年の同時期に同じコースで先頭を行っている訳であります。
    そこで千葉B氏が「なして昨年はあんなにきれいな長い一列縦隊が出来たんだべね?」と言った訳であります。
    そして千葉B氏は自問自答をし「去年は新雪が深くて先頭はラッセルでスピードが出ず、そして、後は踏み跡を外すと雪が深く歩けないので、塩梅良い一列縦隊だったのだな」と結論付けたのでありました。
    正しく、おっさんもそれが大正解だと思う訳で、昨年のラッセルは膝下前後で苦しいものであったのが、今年はさらっと新雪が冠って歩き易く、何処でも歩けるので隊列が乱れるのでありました・・・いや、乱れようとなんだろうとドーでも良いのですが。

     19番から小荒沢の頭を越えて真横に行きますから、との説明があって、程なく小荒沢は大分勢いを落として細くなって来たのでありました。
    千葉B氏はブナ平は目を瞑っていても行ける訳で、「はいっこのまま真っ直ぐ」と言うのを受けて先頭で進むと、程なくして目指す御神木に到着でありました・・・ウッシッシ、誰もいない、足跡一つ無いブナ平に一番乗りでありました。

    御神木「黒森」に注連縄が張られる所

     黒森は周囲が3.8メートルにもなるブナの巨木でありまして、幹の回りがごつごつし、色も浅黒く、誰が何処から見ても「男の樹」に見える訳であります。 で、方や「花染」と命名されているもう一本のブナの巨木は、色白で木肌はすべすべで色気さえ感じる訳でありまして、こちらは誰が見ても「女の樹」に見えるのであります。
    で、皆さんはこの二本のブナの木を夫婦であると言っているんでありますが、おっさんは違うと思っているのであります。
    んじゃぁナニよ、と言うと・・・黒森は花染に振られて寂しく佇んでいるんです。
    それが証拠にテッペンの方にやつれを感じるではありませんか?。
    ブナ平には雪の季節に行くのが楽なんでありますが、薮漕ぎを厭わなければいつでも行けますので、皆様是非一度は行って見て欲しいと思うのであります・・・しかし、詳しい場所は書きませんので、テキトーに見当をつけて行ってみて下さい。
    ヒントは、19番から北西方向で、夏なら小荒沢を越えてから相当に苦労しますよ、と・・・誰も行く気にならないですか?

    御神木「花染」に注連縄が張られる所

     おっさんはアニミズムと言うか、日本式の八百万の神を奉る気持ちが大好きなので、自分が知る山中にひっそりと立つ、しかしとても立派な御神木があるなどと言うロマンチックな事は大好きであります。
    本日は二本の御神木に注連縄が飾られる所に立ち会えた事を心の底から嬉しく思った訳ですが、神事が終わったら、次は人間の方の行事であります。

     貴方は牡蠣とチーズリのゾットを食べた事がありますか?・・・おっさんは生まれて初めての牡蠣とチーズのリゾットを船形山の懐に抱かれた御神木花染の根元で食したのであります。
    いや、犯人は毎度の事ながら千葉B氏なんでありますが、氷点下6度で弱いとは言え吹雪まじりの山中で、牡蠣とチーズのリゾットを調理して皆に振る舞った訳であります。
    まず、今年の一月には「山の中でカニ雑炊」の行事が執り行われている訳で、それの進化系と言えなくも無いのではありますが、おっさんは家でも食した事の無いものをこのような山中で頂いた事に依る驚きは大変なものでありました。
    なんたって、オリーブオイルだの牡蠣だのキノコだのと出てくる訳でありまして、極寒の山中でそれらがきちんと調理されるのでありますから驚かずにはいられないでしょう。
    で、おっさんはいつものように冷たくなったおにぎりを齧りながら、美味そうだなぁ、と思って見ていた訳であります。
    すると、Y女子がザックから食器を取り出した訳であります・・・ウヒョッ、と、言う事は、ご相伴に与れるのか?うれしぃー、であります。

    昼飯の材料に向って呪文を唱える千葉B氏

     千葉B氏が調理師免許を持っていると言うのは聞いている訳でありますが、しかし、山での休憩時間と言うのは限られていてとても短いのであります。
    で、この短時間にまともな温かい食べ物をなんとかしようと思ったら、おっさんにはレトルトか鍋焼きウドンしか思い浮かばないのであります。
    しかし、千葉B氏とY女子らは、どういう発想に基づくものか、とても手の込んだ料理を、手早く展開してくる訳でありまして、これは最早手品の領域ではないのかと思う訳であります。
    で、ご相伴に与った「牡蠣とチーズのリゾット」なんでありますが、冷えきった身体に心底暖かくて美味かったのは言うまでもありません。

    呪文が効いて姿を現した「牡蠣とチーズのリゾット」

     あっ、もう一つ忘れていた・・・この度の食前酒は白のホットワインであったのでありますが、これがまた冷えきった身体にとても美味くて、おっさんも積雪期の山行に限ってはテルモスにホッワインを入れて歩く事にしようと堅く誓ったのでありました。

     さて、船形山のMr.マリックとも言える手品か魔法のような昼飯を頂いている間にも、身体は冷えて行く訳であります。
    で、黒森の木の下でお昼を食べていたグループは寒くて辛抱堪らん、と言った感じで帰り支度を始めている訳であります。
    そこへ大隊長の小関さんがやって来まして、リーダーの千葉B氏と打ち合わせをし、昼食後は三光の宮を廻って下山の予定を、小荒沢をトラバースで横切ってのんびり帰ろうと変更が決まった次第でありました。
    おっさんはそれを聞いて、ホッとしたぁ、であります。
    いや、寒いのなんのって、後3分歩き出すのが遅かったら背中で待機しているダウンジャケットを着込んでしまう所でありました。

     さて、いつもの事ではありますが、下山に向ったとたん、一列縦隊は一列横隊にバラケル訳であります。
    で、来た時に辿った踏み跡が現れる所まで出たら後は三々五々であります。
    それこそ広い尾根の端から端までに足跡を残すべく、誰も踏んでいない新雪を求めて駆け回るのでありましょう・・・いや、年齢的には雪山ではしゃぐ事などは無さそうな歳なはずなんでありますが、それは大間違いでありまして、60歳でも70歳でも雪と戯れる時には童心であります。

     帰り道、おっさんは二つの収穫を得ました。
    一つは、先日発見して可愛すぎる木の芽だと小躍りしたアレの名前が「オオカメノキ」と言うのであると言うのが解った事。
    もう一つは、北五葉松と言う木は、ブナよりも控えめで、ブナが生育に都合の良い場所に目を出すのを尻目に、岩場等の条件の良く無い所に芽を出すだと、と言うのを聞いた事であります。
    なんだか北五葉松の奥ゆかしさが、おっさんに通じるものがあるな・・・えっ?寝言は寝てから言え、と?

              

     この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


    ご意見ご感想は こちらで、承っております・・・


    INDEXに戻る 次のページへ