ちょこっと行って来る山登り


    No.6 高松岳(1348m)



       山ぁ、なめんなよ・・・高松岳なめんなよ。

     10月29日、泥湯温泉(秋田県)からさらっと、小安岳を回り高松岳に行き、避難小屋に泊まって、早朝の朝焼けの山や、まんまと上手く行ったら、雲海に顔出す遠くの山など撮って、ちょっくら山伏岳を回って晩秋の山を楽しもうと企んでの山行でありました。
    このコースは大したハードではないので、本気で回ってしまったら泥湯温泉9時出発で2時には戻って来られるコースだと思います・・・初めてなんで、地図で読んだらそんな感じでした。
    しかし、既に前日から前線による天気の崩れと冷え込みを予想する天気予報で、イマイチ怪しい雰囲気であるな、と覚悟させられる気配ではありました。
    うん、天候が崩れたら、泥湯まで行く時間がもったいないのと、登りの時間短縮で、山頂泊も取り止めの、高松岳一発勝負で、秋の宮温泉方向から登って 元来た場所へ下山、と考えたのでありました。
    我が家を7時出発で、泥湯には10時頃の到着を予定しておりましたが、荷物を積んだりンコしたりしているうちに時間が過ぎ、30分ほどで遅れてしまいました。
    しかし、3時間半の行程で山小屋泊まりの予定ですから、気持ち的にはのんびり行っても大丈夫、で、余裕で鬼首の峠を越えて行きました。
    冬場、日本海側で雪の時には太平洋側は晴れるものであります・・・でも、まだ秋だしぃ、と思っておりました。
    がぁ、しかし、鬼首から秋田県境の雄勝が近づくにつれ天気は急速に悪くなり、とうとう雨が降り出しまして、雨脚は千秋鬼首トンネルを抜けた所で絶好調を迎え、土砂降りとなったのでありました。
    気持ち的にはほとんど脱落状態で、温泉巡りかなぁ、などと言う気分になっておりました。
    で、取り敢えず、んじゃぁ第2案の近道短縮、とりあえず登ったぞのお印コースだな、と言う事で、地図に従って秋の宮温泉の手前から林道へ。
    このコース、地図は持っているのでありますがガイドブックには載っておらず、正体がイマイチ掴めないままに、まあ、でも標高がナニだから、アレだろうと言う事で進んで行きました。
    雨脚はほとんどヤケクソのように強まっており、気温もなんだか下がって来ているように感じました。
    さて、地図で見た高松岳ガンジャロコース入り口に到着し、一泊で準備してあった80リットルの大型ザックから、いつものアタック用の小さなザックにおにぎりとポット、非常用品一式タッパーなどを移し替えました。
    出で立ちは、雨対策として、いつもの半袖Tシャツに長袖Tシャツの上に雨合羽を羽織る事にしたのであります。
    で、まかり間違って寒くなったら困るかもしれないと言う事で、フリースを一枚、ビニール袋で包んで突っ込みまして・・・あっ、雪降ったら嫌だからスパッツして行こう、で、足元を固めました。
    この時、手元の温度計では気温は5度でありまして、ここは標高600メートル位だから、残り高度差750メートルで・・・気温は約5度下がる訳で・・・ああ、雪降るわ・・・まあ、行けるとこまでだな、と言う事で出発。
    雨脚は衰える気配は無く、とても景気良くじゃぶじゃぶ降って来る訳でありまして、地図では沢沿いに行くし、3度ほど徒渉する事になっているのであります・・・増水、嫌だな、と。
    歩き始めて間もなく、それこそ10分程度でもう沢を渡る事になり、うひゃぁ、やっぱし勢い有るな・・・でありましたが、まあ、渡れなくは無いし、本日はまさか雪なんて事は無いだろうけど、でもなぁ、と言う事で防水・防寒のまともな登山靴を履いていたので、くるぶしまで浸かるような事が無ければ大丈夫なのでありました。
    今時の登山靴は大昔と違って、ゴアテックスだのシンサレートだのと科学的な事で能書きを垂れるだけあって、性能は大したもんであります。
    さて、一度目の徒渉はなんとかなって、斜面を巻くようにトラバース気味に道が有るのですが、道幅が狭い上に雨で地盤が緩んでおりまして、ズル、ズルル、ズリズリーと滑るのであります。
    いやぁ、なんだか踏み後も心許ないなぁ・・・この道活きてるんだろうか?と心配になるほどでありました。
    竹や草や苔、道を覆っている落ち葉のどこにも最近人が歩いたぞ、と言う感触が無いのであります・・・オマケに、入り口に熊が出ます、だなんて・・・。
    ここはまさに、人と出会うよりは熊の方が確率高そうだな、と言う臭いがプンプんでありまして・・・まあ、雨の中だったからの印象かも知れませぬが。
    何だかなぁ・・・大丈夫かなぁ、と進んで行きまして、それでも30分も歩いていないかもしれないのでありますが、また沢であります。
    一目して水かさと勢いと、按配良く踏んで行ける石がない事が見て取れるのでありまして、気の進まなかったこの道から勇気ある撤退をする決定的な理由を頂いたと言う事で、さあさあ、さっさと戻りましょう、でありました。
    で、戻り道・・・止めるか?何時だ?10時15分か・・・んじゃぁ下山に使う予定だった湯の又コースを、行けるとこまで・・・12時になったら下山にしよう、と言う事で、そのまま湯の又コースを猛ダッシュ、であります。
    こちらは以前に遊歩道でも整備した事が有ったのかどうか、けっこうな広さの道が、入り口からしばらく続きまして、気分的には明るい道で有りました。
    しかし、石の上に落ち葉が敷き詰められ、雨水が沢のように流れている道は歩きやすくは無く、まあ、行ける所までな、の消極的な気持ちを変えるほどのものでは無かったのでありますが・・・。
    さて、明るい雰囲気の広い登山道が終わり、真っ当な、正統派登山道に変わりましてからは結構本気でグイグイと登って行く訳でして、標高差の割りには行程の距離が短いと言うのは、そう言う事な訳であります。
    ぜいぜい、ふぅふうと登って行くうちに、登山道はいよいよ狭くなり、地図に水場と書かれた辺りと思われる所から、雰囲気はまた一変しまして、薮がきつくなって来ました。
    勝手な想像ですが、水場までの踏み後がしっかりしているのは、たぶんキノコ取りの人達のものではないかと思うのであります。
    ここまでは雑木林、ブナの林でありますが、ここから上は灌木と笹の藪山的様相になるのでキノコ採りには用がないのだろうな、などと思うのであります。
    さて、心細い踏み跡で、所々笹に覆われて道が分り難くなったりしているうちに高度が上がった為か、雨が雪に変わって参りました。
    うーん、どーすっかなぁ?勇気ある撤退もこの状況じゃしょうが無いかもなぁ・・・まず地図みんべぇ、と。
    水場を過ぎていると言う事は、距離的には半分以上こなしている訳で、12時まで、残り1時間だから・・・ゆっくり行くベ、12時までな、と。
    やっぱり、バカと煙は高い所へ向かう訳でありまして・・・しかし、この山の本領は、これから山頂まで一気に登る急坂だと言う事を思い知らさせるのであります。

    初雪であります・・・寒くは無いんですよ、汗かいてますから


     さて、戻りたい気持ちが3分で、行きたい気持ちが7分でありますから、行く訳ですが、程なくして「ハナコスリ」と言う、急坂の登りではありがちな名前の急登に入って、雪はいよいよ本降りでありまして、装備の中で唯一冬支度を忘れた手袋が問題になって参りました。
    急登では笹や枝を掴む訳でありますが、雪で濡れておりまして、けっこう冷たいのであります。
    全身湯気の出るほどの熱なのでありますが、手先だけが冷たくて、痛いのであります。
    まあ、この気温で凍傷なんてあり得ないので気は楽ですけれども・・・でも痛冷たいは辛いです。
    所々にタイガース模様のロープが張ってあるのですが、もしもこれが無かったら登るのを諦めたと思う訳です。
    このコースの上の方は、雨や雪で緩んだ為と言えるかも知れませんが、とにかく恐ろしく滑りまくります。
    で、登るのはどうにかなる訳でありますが、下りはロープ無しでは絶対に無理と思う訳で、下山の事を考えたら怖すぎて登れなくなってしまうのであります・・・雪なんか降ってもカッパ着てれば済みますが、痩せた尾根や急な下りがズルズル滑るんでは、どうにもなりませぬ。
    さて、ロープに助けられて登って、なんぼか緩い所に出ると、今度は薮漕ぎで道がどこだかさっぱり分りません・・・もう下りようかな、と地図を開くと、ありゃぁ、跡一息かぁ。
    で、なんとなく不自然に見える所を足探り、手探りで進んで行くのでありますが、体温でメガネが曇って良く見えないのであります・・・乾いたタオルを出したくても吹雪の様相ですからねぇ・・・。
    時折はっきりした道が見えてホッとするのもつかの間で、数歩進むとまた薮でどこが道だか分らなくなるのであります。

    赤布下がってますけど、全行程でこれ1個ですから

     急坂は滑ってズルズル、薮は踏み跡が分らないボサッカと、低いからと舐めて掛かった私をあざ笑うかのように容赦ない高松岳であります。
    いやぁ、頂上は直ぐそこだろうけれど、降り続く雪で返れ道が分らなくなる可能性があるな、やっぱし勇気ある撤退か?と思った時に、何やら棒のようなものが・・・あっ、頂上だと思ったら、ただの棒でした。
    がぁ、そこから間もなくで頂上の標識が有りました・・・脅かすなよなぁ・・・時計を見ると12時10分でありました。
    さて、ここから10分も行かない所に避難小屋が有るはずなのですが、避難小屋でおにぎりなんか喰っている場合ではなく、ここは登ったと言うお印だけでとっとと下山するしか無い訳であります。
    雪が降り積もれば帰り道が分らなくなる可能性が増えますからね・・・山の遭難騒ぎは高くつきますから。

    頂上に立った時、一瞬風が弱まったので撮れました

     猛烈に腹が減っているんでありますが、精神的に緊張の度合いが高く、何かを喰ってる暇があったら早く薮漕ぎを終わらせたい訳であります。
    曇ったメガネで満足に見えないと言うのに、笹竹の薮漕ぎで足元が隠れている訳であります。
    突然窪みに足を取られて転びそうになったり、けっこう急峻な所を笹が隠していて、滑ったらどこまでぇー的な道を踏み外しそうになったりして、よたよたと、ペッピリ越しで下るのでありました。
    距離と時間が短いので体力的な問題は全く無いのでありますが、下りに入って身体から熱が出なくなった事と、胃袋に燃料が無いので寒くなって来ましたが、とりあえず飴と番茶で凌いで、なんとしてでも薮を早く抜けたいと・・・。
    足を取られるのは登りよりも圧倒的に下りな訳でして、怪我したり落ちたりするのはほとんど下りでありますから、登りよりもスピードが出ない、出せない下りは多いのであります。
    それにしても腹減った、でありますが、吹雪の中で立ち止まって喰うべきか、それとも一気に下るべきかは、黙っていれば積雪が増すばかりの状況では、下った方が良い訳であります。
    さて、なんとか薮漕ぎを終えてハナコスリのロープまで下って参りまして、ほっと一安心であります。
    が、登りのときよりも積雪が増え、もはやズルズルなんて言う生易しいものではなく、足を踏ん張る土台が無い訳でして、ロープを支えに滑り下りるような格好であります・・・天下のビブラムソールも屁の突っ張りにもならないのでありました。
    それでも、ロープのあるハナコスリはズリズリでも何とかなったのでありますが、ロープが無くなった後も大した違いは無く、ズルズルな訳であります。
    へっぴり腰で、そして靴のサイドのエッヂを立てて、少しづつ、ズリッ、ズルリ、ズルルルルゥーと下るのでありましたが、膝がガクガクして来る始末で、これって結構本気でサバイバルモードかしら?なぁんて思ったりしつつも、手袋以外は雪山装備の自分の勘に感心したりもしつつ、何となく楽しい訳であります。
    さて、距離が短いと言うのはやはり楽でありまして、ズルズルを繰り返しているうちに森林の道に入って一安心であります。
    で、さあ、もうここからは黙っていても大丈夫、標高も下がって雪は雨に変わったし・・・でも森林帯なら雪の方が楽ですけれども。
    と、言う事でかなりの早足で下っていた時、ボコッ・・・ベキッと先の方で音がしまして・・・咄嗟に、ヤバイ、出たぁ、と思って、鈴を思い切り振り鳴らし捲りであります。
    立ち止まったものか、知らん振りして行ったものか・・・?おにぎり投げ捨てたら喰ってくれないかしら?飴の方が良いかな?走って逃げても奴は下りで25キロ出すって言うし・・・。
    まあ、ちっちゃかったら勝負してやるし、でっかかったら死んだ振りだな、と、行かないとどうにもならない訳ですから・・・。
    そこから100メートルも下らない所の朽ちた立ち木の大木の、高さは丁度私の胸のあたりがえぐり取られていて、木の屑が下に落ちておりました。
    熊がキノコを取ったものか、木を剥がして虫でも探したのか、はたまた、私に縄張りを示す示威行為なのか、熊に聞いてみないと分りませんが、この傷は登る時には無かったものであります。
    とても目立つ木で、登りの時にも意識して見ていた木で、間違いないのであります・・・でも姿は見ませんでしたから、ラッキーです。
    単独の山行で一番怖いのは熊であります・・・鉈でも下げて行きますかね、これからは・・・いや、本気ですよ。
    さて、肝を潰してからはそれこそほとんど転がるようにして、鈴を振り鳴らしての下山でありまして、到着は1時20分でありました。

    振り返れば秋と冬のコントラストが見事でした

    今日のような日に登らなくても、と言われるかも知れませんが、これからは登れば絶対に冬山になる訳で、この程度の事で参っていては登れない訳であります。
    しかし、本当の冬山よりも、雨が混じる中途半端な季節の方が遭難は多くて、実際登っていても、すっかり積もった雪よりも今頃のような降り始めの方が厄介な事も多いのであります。
    まあ、それでも、それを想定しての準備さえ有れば、冬山は楽しいんでありますけれどもね・・・ホントに楽しかったですよ、熊以外は。
    で、この登山道はあまり利用率が高く無いと思うのであります・・・このまま刈り払いが無いと、来年は薮だらけで厳しいと思います。  


     この話 完


    まあ、適当に書いてますんで、間違いが有ったらゴメン・・・?


    ご意見ご感想は 承っておりませんが・・・


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