よたよたと、山登り


    No.60

       

    船形山

       升沢小屋まで

     4月29日 今にも降りそうな曇り空

     本日は単独ではありませんで、一個小隊であります・・・うん、4名だから分隊ですかね?
    そんな訳で、いつもお世話になっている千葉B氏からお誘いいただいて、蛇ヶ岳から船形山を眺めよう、と言う事で出掛けた訳であります。
    しかし、アレです・・・29日の朝、おっさんが旗坂に向っている途中で聞いたラジオが「東部・西部とも大雨洪水警報が解除されました」とのニュースを聞く程に雨が降り続いていた訳です。
    いや、前日夜の雨は半端でなかったのでありまして、内心ではホンートに行くんだろうか?いや、中止だろうな、と思っていた訳であります。
    でありますから、普段は家では放ったらかしの携帯をポケットに入れたままトイレなども行っていた訳であります・・・ほら、中止の電話が来るかも知れないじゃないですか。
    しかし、中止は無く、当日はなんとか雨の上がった黒い空の下を集合場所の旗坂キャンプ場に向ったのでありました。

     旗坂キャンプ場到着6時50分。
    気温が10度もあり、一月前の氷点下が嘘のようでありまして、やっぱし春であります。
    少し早く着きすぎたので辺りをウロウロしていたら、なんだかとっても可愛い花を見つけました・・・例に依って名前は知りませんし、調べる気もありませんので悪しからず。

     
    清楚で、それで居てしっかり美しい、おっさん好みの花です。

     程なくして分隊3名を乗せた車が到着して合流であります。
    で、分隊長はすっかり雪山装備で行くと言う事なのでおっさんも特価で買った新品のカッパの上下を着込み、スパッツも着けて完全武装であります。
    本日の昼飯は分隊長が準備してくれるとの事でありましたので背中のザックには何も入っていず、強いて言えば、ワインの1.5リットルが重量を稼いでいるだけでありました・・・独りじゃないと言うのは気楽なもんで、雪山用ビバーク用品も持って来ていません。

     分隊全員装備も固め旗坂を出発したのは7時40分頃でしょうか?
    本日はなんだか身体が重く、それほど早く無いペースなのに息が切れるのであります。
    まっ、しかし団体と言うのは気が軽くて良い訳です・・・どこかに頼る気持ちと言いますか、助けてもらえると言う甘えと言いますか、ドーしても出てしまうのは否めない訳で、だから気楽なのでありましょう。
    で、高めの気温と相まって思いの外汗をかくのでフリースを脱いで長袖Tシャツ二枚重ねで行ったのでありますが、最早この程度の服装で寒くは無くなっている訳です。

    おなじイワウチワでも、色気のあるのと無いのと色々です。

     本日の一回目のイベントは「一群平」でありました。
    分隊長が登山道の脇を指差し「イワウチワ」の花が沢山咲いていますよ、と教えてくれたのであります。
    で、その方を見ると、そこいら中にイワウチワが咲いているのでありました・・・正しく群生であります。
    で、誰ともなくこの場所は「イワウチワ平」だね、なんて言ってみた訳でありますが、そこのすぐ上が一群平な訳でして、ひょっとしたら一群の群れは、イワウチワの事なんじゃないのか?などと思ってみた次第であります。
    ところで、ネットでイワウチワを調べてみたら、名前の頭にイワと着くくらいなので岩場やモロに岩の上に根付いている写真が多い訳です。
    しかし、私が見たイワウチワは肥沃なブナの腐葉土の地面から生えており、ナンだか、他所の地方のイワウチワとは生息環境が決定的に違うなぁ、と思うのであります。

     本日の降水確率は50パーセントもあるので、何処で降られても不思議ではないのでありますが、時折薄日が射していたかと思ったら、東の方には青空まで覗いたりして、毎度の事ながら、この分隊に混ぜてもらう時の天気運の強さは驚異的だな、と思う訳です。
    しかし、歩いているのがブナ林の中で風が遮られて影響は少ないのですが、上の方で吹いている風の音は中々のもので、稜線に出たら吹かれるんだろうなぁ、と心配になるのでありました。

     全員スノーシューやワカンを履かずに登ったのでありますが、先頭の分隊長は緩んだ雪に足を取られ、また、踏み抜きも多く体力を使ったと思われます。
    しかしおっさんは一度も先頭交代を申し出る事もなく、しっかりと踏み跡を辿ったので楽して登った訳であります・・・いや、卑怯者だとは思うのですが、何分にも右足が本調子ではなく・・・なんちゃって。

     景色を眺め、木々の新芽を愛で、残雪を踏みしめる感触を楽しみ、天気の割には楽しい山歩きで、心が弾むのであります。
    やっぱし、独りで修行僧のように黙々と歩くのも悪く無いのでありますが、楽しいと言うのであれば、やっぱしお喋りをしながら行く方が数倍も楽しい訳で、曇天もなんのその・・・うん、中止になんなくて良かった良かった、と。

     さて、本日二回目のイベントは「デポ」であります。
    20番のマークのほど近く、ブナ平へのショートカットコースへの曲がり角・・・いや、雪原に角も糞も無いのでありますが、気持ちとしては曲がり角な訳であります。
    そこら辺りへ、数日後にお泊まりでブナ平へ行く時の荷物の一部をデポした訳であります。
    荷物の中身は・・・ちょっとアレなんだよねぇ・・・まっ、言っちまいましょう。
    500の缶ビール6本、ワイン1.5リットル1本、菊正宗900ミリ1本・・・なんだぁ、酒ばかりじゃないか、と。
    いや、分隊長はもともとデポするつもりで背負って来たようでありますが、おっさんとS氏は今日飲んじまうつもりで背負って来た訳です。
    しかし、昼食時用のものは別にあるとの事なので、おっさんとS氏も、それでは、これはその日に飲む事にしてデポしませう、と相成った訳であります・・・熊って、酒が大好物なんですよねぇ・・・いや、一番危ないのは人間だな。

    これは意外と珍しい甘納豆です・・・カモシカの糞です。

     暑くも無く寒くも無く、相変わらずの曇り空ではありますが雨が降る気配もなく、歩くのには良い塩梅でありました。
    しかし、三光の宮を過ぎた辺りから高い所のガスが濃くなり、予定していた蛇ヶ岳方向の尾根もほとんど見えず、そしてもっと高い山頂方向はズッポリと雲の中でありました。
    もしも蛇ヶ岳をめざすならばここで方向を決めなければならないと言う辺りで分隊長が、目的である「船形山頂を眺める」が絶望的となった今、敢えて蛇ヶ岳へ登るのは如何なものか、と言う提案をした訳であります。
    当然隊員に異存はなく、足は升沢小屋へと向った訳であります。
    で、分隊長がコンパスを取り出しまして、地図と合わせて方向を決めると、後は一直線であります。
    まあ、谷や沢は迂回するのでありますが、まず、方向を決めたら迷わずそちらへ向う訳です。
    で、この辺が他人様の着けた赤布を当てにして辿って行くおっさんと違う所でありまして、一直線な訳です。
    おっさんは、あっちの赤布へフーラフラ、こっちの赤布にウーロチョロでありますから蛇行して遠回りなんですが、分隊長は的確であります。

    升沢避難小屋を占領する分隊の姿

     さて、お昼の支度を始めるのはちょうど良い頃合いだわねぇ、と言う11時30分頃、升沢小屋へ到着であります。
    で、本日の昼飯の支度も・・・も、であります・・・分隊長とY嬢が準備してくれた訳でありまして、せっせと支度を始め材料と思しきものが並べられるのでありますが、おっさんには仕上がりが想像できなかったのであります。
    まず、その間にガーリックトーストにベーコンを乗っけたものとか、いつものようにホットワインが供されたりした訳であります。
    「もう誰も来ないすぺわ?」「うん、この天気だしねっ」「んじゃぁ占領して荷物も広げるっちゃわ」「んだね」
    で、ワインを持って「乾ぱぁーい」と言った所で小屋の扉がギーッと開いたのであります。
    と、現れたのは、千葉B氏といっしょに山頂と升沢の両避難小屋の管理人をしているK氏らの二人でありました・・・船形山のブナを守る会の皆さんで、言わば身内な訳です。
    両氏は既に山頂アタックを終え下山する所で、これから始まる宴会のような昼食の姿に、半ば恐れを為しているかのようでありました。
    分隊長の「まざらいん」の誘いも丁重に断り、急ぎ下山して行ったのでありました。
    しかし、彼らが小屋を後にして数分後、もの凄い土砂降りになり、少し長居をしていれば難を逃れたかも知れなかったなぁ、なんて余計なお世話でありますが。

    さて、昼飯のメインの姿は依然解明できずでありました。
    そこへ、S氏が開いたザックから大きなタッパーを取り出しまして、炊き込みご飯が現れたのであります。
    これは有り難いと言う事で皆して頂いた訳でありますが、こうして見ると常に手ぶらでご馳走になってばかり居るのがおっさんだなぁ、と。
    一度くらいは意表を突いた食事を提供しないとまずいかなぁ・・・くさやの干物でも焼きましょうか?

     
    本日の昼飯のメインディッシュであります。

     タマネギが切られ、舞茸、ピーマン、ベーコンなどが並んだ訳ですが、出来上がり図がまだ想像着きませぬ。
    そうこうしていると、とっても薄い餅がフライパンに並べられ、それに具が乗せられ、チーズがまぶされ蓋が閉じられたのであります・・・そうです、餅をベースにしたピザ風のものであります。
    いや、今年一月の雪山でカニ雑炊以来、数々の作品を体験している訳でありますが、とうとう雪山でピザですかぁ、と言う事で、まあ、今更ながらに驚くばかりであります。
    で、言うまでもないのですが、これが美味いんです・・・ベースが餅だとはとても思えないカリカリ感でありまして、材料を見なければたぶん餅だとは分からないと思うのであります。

     いや、食べました、飲みました・・・まったりと楽しみました。
    と、言う事で、おっさんはひたすらご馳走になってお腹いっぱいとなり、このまま泊まりだったらなぁ、なんて思ったら、S氏が「このまま寝たら気持ちいいっちゃねぇ」と宣ったのであります。
    そうなんだぁ、やっぱし思いは同じなんだなぁ、と、言いつつも、後片付けも終わり、やっぱし下山しなければならない訳であります。
    食事の途中で外を見ると大雨が降っていたり、冷えて来たかなと思ったら吹雪模様になったりとめまぐるしく変わった天気も、我々が外に出る頃には落ち着いておりました。

     下山は登った時よりも雪が緩んでいるので足許を固めた方が良いとの分隊長のアドバイスで各人それぞれスノーシューやワカンを履いての下山であります・・・やっぱし滑り止めは在った方が格段に楽ですが、アイゼンでは踏み抜きで苦労するので、今時分でもスノーシューやワカンが良いようであります。

     下りは早いねぇ、帰り足はどーしてこんなに速いのかねぇ、などと言いながら下山するのでありますが、それはやっぱり下りだからなのでありましょう。
    で、帰り道も珍しい形の木を見つけてはひとしきり、それぞれが勝手な事を言って講釈など垂れてみたり・・・いや、おっさんの講釈や推測はほとんど的外れですが、みなさんのそれは、中々鋭く、勉強になる訳であります。

    このブナの木の生命力には脱帽であります。

     ナンだカンだとお喋りをしながら、また景色の良い所では・・・いや、本日分隊が歩いている時にはとうとう一滴の雨にも合う事が無いどころか、眺めの良い所ではガスも晴れ、くっきりと展望が開けたりと信じられない一日だった訳です。
    で、面白い木と言えば、写真の木でありまして、ほとんど空洞の幹を自己修復で傷口を治すように表皮をはり、立派に命を繋いでいるのであります。
    いや、おっさんはこれを発見した時にはホントーに驚き、そして感動したのであります。
    おっさん、未だにブナの木との会話は満足ではありませんが、ちよっと持てたコミュニケーションで彼は・・・そう、このブナの木は男でした。
    彼は、大した事じゃぁ無いよ、ダメになるまでは立ち続けるだけの事さ、と、まるで悟り切った禅僧のような事を言ったのであります・・・いや、酔いはとっくに醒めていましたよ。

     さて、ホントーにのんびりと楽しみながらの山行でありまして、なんだか日帰りの気分ではない訳です。
    思ったよりも雪解けが進んで帰り道の景色が違って見えたのか、今朝、同じ道を登って行ったとは思えないのでありまして、山を堪能したなぁ、と言う感じあります。
    25番あたりでワカンやスノーシューを脱いで雪解け水の流れる登山道を下って旗坂の駐車場到着は4時30分頃にもなっていました・・・そもそも升沢小屋を出たのが2時半ですから。

     そんな訳で、天気予報の隙間を縫うように良い所取りで歩いたラッキーな山行でありまして、その後はお決まりの温泉タイムであります。
    で、温泉で疲れを落として、んじゃぁ5月2日、また旗坂キャンプ場の駐車場で、とお別れであります。

              

     この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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