映画の見方

渡辺武信という映画評論家がいる。本業は建築家。中公新書に『住まい方の思想』などの三部作がある。昔は詩も書いていた。今度、少し変わったエッセイ集を出した。『銀幕のインテリア』(読売新聞社、千七百円)。
「玄関」「鍵と扉」「浴室・トイレ」「階段」から「増改築」まで、二十章。古今東西の映画にあらわれた住まいと生活に触れながら、感じたこと、考えたことを書いている。たとえば「灯火」という章の「間接照明」という項目。
間接照明は光源が目に直接入らず、部屋全体をやわらかい印象にする。「高級」な照明ともいわれる。しかし、本当かな、と渡辺は言う。火を使いはじめた最初から人間は明かりを囲むように集まった。光とは求心力だ。光とは「場」の中心を示すものであり、それが明確であることは安らぎを生む。間接照明には、その安らぎが欠ける……。
単にどの家具や調度が美しいという批評ではなく、具体的な生活と、生活にかかわる感情、感覚について書いている。それは人間の心の本質に迫るものである。
ストーリーや映像美、思想、スターに焦点を当てた批評は多いが、インテリアという一点から見つめなおした批評は初めてではないか。新しい映画の見方を教えられた思いだ。

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