『プライベート・ライアン』----不気味な映画


 スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』を見た。始まりの30分の映像が評判を呼んでいる。ノルマンディー上陸を描いているのだが、描写が過酷だ。ヘルメットを貫く銃弾、海中に飛び散る血、千切れた腕を拾ってふらふら立ち上がる兵士、真っ赤に濁って打ち寄せる波……。映画史上、もっともリアルな映像と言われている。
 スピルバーグは戦場の惨劇を描くことで、その悲惨さを訴えたかったのだろう。その意図はわかるし、リアルな映像に驚愕するが、驚くがゆえに、私は、この映画に非常に不気味なものを感じた。
 この映画のメインのストーリーは、ライアン二等兵を救うために厳しい戦線へ送り込まれた8人の兵士の苦闘である。彼らはノルマンディーの惨劇をくぐり抜け、生き延びた強靱な兵士である。強靱なのはいいのだが、彼らの行動に、最初に出て来た惨劇がまったく反映されていない。多くの仲間が無残に殺されていった瞬間を見ているのに、その体験が救出劇の過程でまったく反映されていない。
 過酷な体験の痕跡をいっさい見せず、ひたすらヒューマンな救出劇を演じる8人。それはなんだか薄ら寒い。彼らの姿は戦場を告発していない。不条理な命令を下す士官を批判していない。スピルバーグは本当に反戦映画を作ったのか。私はただ不気味さを感じただけだった。

  
パンちゃんの映画批評 目次
フロントページ