絶望的な失敗作

 テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』を見た。ガダルカナルでの戦闘を描いたものだ。
 随所に美しい映像がある。水草におおわれた沼へ入って行くワニ。兵士がふれるオジギソウの葉。木漏れ日。風に波うつ草原。ブランコをこぐ若い妻の逆さまの映像……。
 しかし物語にかみあわない。戦争のむごたらしさを浮き彫りにするのではなく、美しいだけの背景に終わっている。何かが欠けているという印象が最後まで残ってしまう。
 何が足りないのか。「空気」だと思う。人間と自然との間にある「空気」が描写されていない。ガダルカナルの暑苦しさ、人間を圧倒する緑の強さをとらえていない。
 アメリカ兵にとって、ガダルカナルの自然は脅威であり、過酷だったに違いない。会ったことのない日本兵と戦うのは不気味な体験だったと思うが、同時にあふれる緑と戦うのも彼らにとっては不気味だったに違いない。その不気味さがないために、映像が単に美しく、繊細なだけのものになってしまった。
 最後のヤシの実から芽吹く緑の映像を見ると、兵士の死、戦いという残虐な行為を超えて存在する自然の美、命を監督は描きたかったのだと思う。しかし、兵士と自然との間にある「空気」を描写しなかったために、それが実感できない。戦争の残虐さも伝わって来ない。絶望的な失敗作だ。

  
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