「緑」の監督----「山の郵便配達」を見て




 映画監督にはそれぞれ特徴的な色がある。「紅いコーリャン」のチャン・イーモーなら文字通り赤。血と激情の色。一方、同じ中国のフォ・ジェンチイは緑。草木と静謐の色。中国のアカデミー賞といわれる金鶏賞をとった「山の郵便配達」を見て、そう思った。
 老いた父が息子と郵便配達に出る。仕事を引き継がせるために。山を歩く二人が淡々と描かれる。二人が触れ合う山の生活が描かれる。その緑の美しさに驚いた。朝の水分を含んだ空気のなかで、緑がやわらかな遠近法を描く。昼の光に銀が反射する。そうした変化と同時に、松には松の、竹には竹の、稲には稲の緑があることを、鮮やかにとらえる。そして、その静かな色の移ろい、つながりがそのまま、そこで暮らす人の生活、感情そのものに見えてくる。
 時を超えて続く緑の命のように、静かに静かに命をつないでいくものがある。そういう暮らしがある。激しくぶつかり命を燃やし、新しい命を生むのではなく、ただ大地に根を張り、透明な空気を呼吸しながらつづいていく命がある。
 ためらいながら愛を語ることば。「父さん」というたった一言にこめられた感情の深さ。それが、映画を見終わった時、本当に植物が大地に根付くように、心に根を張っているのに気づかされる。

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