深作欣二

 深作欣二監督の『四谷怪談』の音楽に驚いた。クラシックを使っている。映画にクラシックを使うことは珍しいことではない。スタンリー・キューブリックは『2001年宇宙の旅』で「ツァラトゥストラはかく語りき」や「美しき青きドナウ」を巧みに使った。 「ツァラトゥストラ」の始まりは文明の夜明けを劇的象徴していた。しかし時代劇にクラシックが使われるとは思わなかった。
 曲はカール・オルフの「カルミナ・ブル ナ」とグスタフ・マーラーの「巨人」。「カルミナ」の使い方が特に印象的だ。マイケル・ジャクソンがツアーのオープニングでも使うことでも有名な曲だが、江戸時代に宗教音楽という組み合わせがすごい。違和感が不安と期待をかきたてる。『四谷怪談』のざわざわした雰囲気とぴったりだった。
 映画は「忠心蔵外伝」の副題どおり、おいわの現代っ子口調や四十七士からあぶれていく浪人の人間臭さの強調など、異色のものだが、その異色さと音楽の違和感がぴったりあい、不思議な効果を上げている。かつて『仁義なき戦い』で揺れる映像を取り入れ、時代を揺さぶった深作監督だが、鋭いのは映像感覚だけではないことを証明したといえる。耳も並外れて鋭い。違和感をバネに全体を活性化しながら新しい次元を作りあげていく感性が鋭いということなのだろう。

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