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美しいシーンに誘われ、私は、いくつものシーンを思い出す。仕立て屋と映画館に私は入る、男は二つのことばにこころを奪われる。一つは「人間であることに飽きた」──それは男が何度か感じてきたことだった。同じこころがあることを知る。自分が感じていながらことばにできなかったこころを、男は、詩人のことばのなかに見つけ出す。言いたいことは、こういうことだったんだと知る。
青ざめて、無感動のまま
フェルトの白鳥に似てる
美容師達のにおいに私は涙にむせぶ
人間であることに飽きた
(「イル・ポスティーノ」のパンフレットから
字幕翻訳吉村信次郎、シナリオ採録斎藤敦子
東宝出版・商品事業室発行)
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他人のことばを通して自分の感情を再発見することが、文学を、あるいは詩を読むことだ。*
男は、このことを知るまでに時間を必要とした。*
詩とは何か。詩人とはどのようにして誕生するのか──それを静かな口調で語る、美しい映画だった。