こころが弱くなればなるほど

酒を酒を酒を
飲んで飲んで飲んで
死んで死んで死んでゆく男の
映画を見た
書いたもの全部が売れなくて
酒を酒を酒を
飲んで飲んで飲んで
死んで死んで死んでゆこうとしているのだった

そんな男のことはどうでもよかったが
その男に惹かれてゆく
女に腹が立ってしまった

女の絶望のことを考えたのだった
絶望から逃げるのではない
絶望のなかへ
絶対に救いようのない絶望のなかへ走り込んでゆく女だった
女は、男の絶望がわかり
一回限りの、つまり本当の絶望がわかり
自分の孤独が癒される思いがしたのだった

酒を酒を酒を
飲んで飲んで飲んで
死んで死んで死んでゆく男
その男と一緒に
女は孤独を、自分だけの孤独を
殺して殺して殺してしまいたかったのか

違う。

酒を酒を酒を
飲んで飲んで飲んで
死んで死んで死んでゆく男の
絶望の肩に触れるとき
孤独ははじめて一人ではないことを知った
肩を寄せ合って支え合って
いることの確かさを知った

酒を酒を酒を
飲んで飲んで飲んで
死んで死んで死んでゆく男
そのいやらしい絶望、人が許すことのできない世界でたった一つの絶望、絶対的にわいせつであり、同時に崇高な絶望、険悪で、凶悪で、惨めで、むごたらしく、弱弱しく、頑固であり、とてつもなく静かな
絶望
どんな形容詞を重ねても足りない
美しい絶望
それを守ってやること、一緒に肩を寄せ合っていること
それが女にできる唯一のことだと知ってしまったのだった

腹が立った
腹が立ってしかたがなかった

愛を知ってしまった
女は愛を知ってしまった
こころが弱くなればなるほど
強くなるものを知ってしまった
矛盾を知ってしまった

そのことに腹が立った
腹を立てている私に
さらに腹を立ててしまった


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