ボクは馬。生まれたばかりの仔馬だ。名前はまだない。
お母さんはボクを生んですぐに死んじゃったらしい。牧場のおっちゃんが言ってた。
死んじゃったって何だろう。よくわかんないや。
いなくなっちゃったんだよ、会えないんだよ、とおっちゃんが言ってたけど、どこにお出かけしたんだろう。
おっちゃんの目から水がたくさん流れてた。変なの。
お父ちゃんの顔は知らない。なんかすごく有名らしいけど、ボクは知らない。
おっちゃんの子供のあんちゃんが、一生懸命お金を溜めてお父ちゃんにしたらしい。
お父ちゃんってお金で買えるのか。変なの。
お父ちゃんは「じーわん」とかいう馬をたくさん作ったらしい。
じーわんって何?
ボクはあんちゃんに聞いたけど、よくわからなかった。そのうちわかるよ、って言われたけど、
そんなものなのかな?
ボクが生まれた牧場は、おっちゃんとおっかちゃんと「しゃちょー」って言われているあんちゃんの3人しか
いない。
細々とやってるよ、っておっちゃんはよく遊びに来る人間たちに言ってるけど、細々って何?
ボクの他には小母ちゃんと小母ちゃんの子供が2人、それに小父ちゃんがいる。小父ちゃんは結構有名
だったみたいで、よくお客さんが見に来るっておっちゃんが言ってた。でも、お父ちゃんにはなれないって
言ってた。
ある日、あんちゃんがボクの近くに来て笑った。
おい、坊主。お前の名前が決まったぞ。オラだ。よかったな。
オラか。変な名前。
オラ