第105話「不調」


う〜ん、毛づやもいまいちですし、動きが硬いですね。
ここは見送りでしょう。

ひでぇ言われようだな。
ま、でも言ってることはもっともだな。
大井さんがボクをちらりと見て首を振った。

ボクはいま「ぱどっく」を回っている。
「ぱどっく」を見ながら「かいせつ」をする人が、
ボクを見て、駄目だこりゃ、って思ったらしいんだ。

昨日まで体調もばっちりだったし、絶好調だったのに、急にどうしたんだろうねぇ。
大井さんと一緒にボクの隣を歩きながら、高木さんが首をかしげる。
ええ〜、ボク、元気いっぱいだよ。
嘘つけ、どうひいき目にみても、元気にゃ見えねぇぞ。
歩き方もぎこちねぇし。
でも、コズんでる(※)わけじゃねぇんだよな。

本当に元気なんだけどなぁ。
でも、ちょっと気分は乗らないかも。
あんまり、走るのが楽しみ、って感じではないかな。
おめぇは気分がてきめんに表に出やがるからな。

あれ、お、オラ君、調子悪いんですか?
「あいさつ」が終わってこっちに駆けてきたゲンちゃんが、ボクを見て目をまるくした。
体にどこも悪いところはないけど、気分が乗らないみたいだねぇ。
ど、どう見ても、体調が悪いようにしか、み、見えませんね。
ゲンちゃんはボクにまたがりながら、心配そうな声をあげた。
まあ、いつも通り、ゲン君に任せるから、少しでも気持ちよく走らせてあげてね。
高木さんがゲンちゃんに声をかけながら、ボクの首をなでた。

大丈夫ですかね、あいつは。
ボクの後姿を見ながら、大井さんはぼやいていたらしい。
あとで聞いた話だと、「ばぬしせき」にいた坂石のおいちゃんは、真矢ちゃんの手を握りながら、
とりあえず無事にレースを終えてくれればいい、と祈るような気持だったとか言っていた。

お、オラ君、よ、よく頑張ったね。
ゲンちゃんがボクの首をぽんぽんと叩いた。
ボク、勝っちゃった。

※コズミ・・・筋炎や筋肉痛のこと。




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