いやぁ、やっぱり競馬は難しいねぇ。
引き上げてきたボクたちを出迎えた高木さんが、苦笑いしながら言った。
パドックでも返し馬でも、とても勝負になりそうには見えなかったからねぇ。
何で勝ったのか、俺にゃぁわからねぇ。
大井さんが首を振っている。
昨日までは確かに勝ち負けまで行けるかもしれねぇ、って思ってたけどよ。
おい、弱虫、お前ぇ、どんな魔法使ったんだ?
え、い、いえ、いつも通り、ふ、普通に乗っただけ、です。
普通に乗っただけ、なんて、けっ、一番難しいこと、さらっと言いやがって。
べ、別に、そ、そんなつもりは。。。
で、でも、今日はすごく競馬は、す、スムーズでした。
へ、変に包まれることもなかったですし、前が、つ、詰まることもなかったです。
オラ君も、り、力みとかなくて、い、今までで一番乗り味は良かったです。
チビ助、お前ぇは、変にやる気とかないほうがいいのかね?
大井さんが今度は首をかしげる。
大井さんの首も色々動いて大忙しだ。
お、オラ君。
ボクを呼ぶ声がするほうを見ると、坂石のおいちゃんの姿が見えた。
あ、おいちゃん、ボク勝ったよ。
パドックでも返し馬でもとても調子悪そうだったんで、
どこかおかしいんじゃないかって心配していたけど、良かった。
真矢も喜んでいたよ。
にっこり笑って、ボクの首をなでたと思ったら、おいちゃんの目から涙がぽろぽろとこぼれてきた。
おいちゃんの目も大忙しだなぁ。
ああ、すみません。
目をぬぐいながらおいちゃんが続ける。
今日は、うちのやつの命日なんです。
あいつが、オラ君を勝たせてくれたのかな、と思ったら、つい。
それを聞くと、高木さんがふい、と空を見上げてつぶやいた。
神様っているのかねぇ。