第107話「祝意」


あれ?
坂石のおいちゃんの背中に小さな影が見えた。
真矢ちゃん?
おいちゃんの背中に隠れるようにもじもじと体を小さくしているのは真矢ちゃんだった。
真矢ちゃんがこんなところまで来るのは初めてだから、ちょっとびっくりだ。

おや、真矢ちゃんじゃないですか、いらっしゃい。
高木さんもちょっとびっくりしたような声を出した。
ここは人が多いところですが、その、大丈夫ですか?
ええ、私も一度は止めたんですが、どうしてもオラ君におめでとうを言いたいと。
おいちゃんが真矢ちゃんの肩をやさしく抱いた。
真矢ちゃんはおいちゃんの服をぎゅっと握りながら、それでもおずおずと顔をのぞかせると、
ボクを見て恥ずかしそうににっこりと笑った。

ありがとう、真矢ちゃん。
ボク頑張ったよ。
ボクも真矢ちゃんににっこりと笑いかけた。
頑張ったっていうか、何で勝ったかわからねぇけどな。
大井さんが頭をかきながらぼそりとつぶやく。
ま、まあ、そうだけどね。

坂石さん、どうですか、もしよければ真矢ちゃんも口取りに。
人の多さはここの比じゃないですけど、せっかくですから。
高木さんがおいちゃんに話しかける。

「くちとり」ってなぁに?
ボクが首をかしげると、大井さんがあきれたような声を上げた。
お前ぇ、口取りも知らねぇのか。
勝ち馬が記念撮影するじゃねぇか、あれだよ。
チビ助、お前ぇもやったことがあるだろうに。
ああ、あれを「くちとり」って言うんだね。へぇ〜。

真矢、どうする?
おいちゃんがかがみこんで真矢ちゃんの顔を見た。
真矢ちゃんはおいちゃんの服をさらにぎゅっと握って、目もぎゅっとつぶった。
しばらくそのまま動かなかったけれど、ちょっと顔色を青くしながら、こくりとうなずいた。




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