第112話「もやもや」


なんだ、チビ助、さっきから複雑な面してやがるな。
大井さんがボクの「ばぼー」の掃除をしながら、ちらりとボクを横目で見ながら言った。

え、ボク、そんな顔してる?
う〜ん、次の「れーす」のことを考えてたんだよね。
お前ぇが次走のことを考えるなんて、珍しいこともあるもんだな。
そこで大井さんはちょっと首を傾げた。
そうか、オーガナイト号と走るってのが、そんなに気になるのか。
う〜ん、オーガお兄ちゃんと一緒のレースを走るのは楽しみなんだよね。
でも、一緒に走りたくないような感じもあるんだよ。
なんだか自分でもよくわかんないや。

ま、人、ってお前ぇは馬か、の気持ちなんてよくわからねぇもんさ。
自分のでもな。
いや、自分のだから余計にわからねぇのかもしれねぇな。
むむ、大井さん、なんか難しいこと言ってるぞ。
それに何か一人で何度もうなずいているぞ。

それは、そうと、オーガナイト号は、お前ぇと違って堅実な成績だな。
悪く言やぁイマイチ君だが、崩れた競馬が一度もないのは立派だぞ。
ぼ、ボクはほら、「たいきばんせい」って言うの?
もしくは「いっぱつのみりょく」って言うか、そういうのだよ、あは、あはは。
けっ、物は言いようだな。
大井さんがあきれたような声を上げる。

そしてふと真顔になって続けた。
それはそうと、そのお兄ちゃん相手に無様な競馬は見せられねぇぞ。
お前ぇがいっぱしの競走馬になってる、ってところを見せてやらねぇとな。
そしてぺしっとボクのお尻を軽くたたいた。
うん、ボク頑張る。

「れーす」の日になった。
やあ、オラ、久しぶり、牧場で会って以来だな。
レース場で見るお兄ちゃんの姿は光って見えた。




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