スカイクルー君は調教?
顔色を変えた鍋井さんがボクの方を振り返る。
うん、ちょっと遅いけどもうひとのり、とか言ってた。
鍋井さんにそう答えながら、
ただならぬ雰囲気に、ボクは落ち着かない気持ちになった。
ねえ、兄さんどうしたの?
わからないけど、落馬したって。
ただ事じゃないのは確かだわ。
遠くの方で大声が聞こえる。
ざわめきがずっと続いている。
でも「きゅうしゃ」の中はしん、としてるんだ。
鍋井さんの息の音しか聞こえない。
なんだかちょっと怖くなってきたぞ。
ぶるる。
に、兄さん大丈夫なのかなぁ。
わからないわ。
あたしも様子を見に行きたいけど、行ったら邪魔ね。
鍋井さんは顔をしかめた。
結局、兄さんはそのまま帰ってこなかった。
どうやら兄さんは「れんしゅう」中に、何かにつまづいてしまったらしい。
体が「いっかいてん」する勢いで倒れこんで、兄さんに乗っていた人ともども、
そのまま起き上がれなかったようだ。
うう〜ん、落馬の瞬間は、その場で安楽死処分も覚悟したねぇ。
それほどひどい転び方だった。
後で高木さんがため息まじりにそう言っていた。
兄さんはその場で「ばうんしゃ」に乗せられて、「びょういん」に担ぎ込まれたらしい。
幸い致命的なけがはなかったようで、「いのちにべつじょうはない」ってことだった。
ただ、あちこち細かいけがをしていたようで、「ちりょう」でしばらくはお休みする
ってことになった。
本当に運が良かったな。
だいぶ後になって兄さんが「きゅうしゃ」に帰ってきた時、
大井さんが珍しく「にくまれぐち」も叩かずにそう言って出迎えていた。
いつもだったら、悪運の強ぇ野郎だ、くらい言ってそうだ。
いやぁ、さすがに自分でもこれはおしまいだって思いやしたけどね。
でも、これで運を使い果たしたとかなったら。。。
そう言いながら兄さんは首を振った。
いやですねぇ。
最後は苦笑いだった。