がしゃん!と音がして、「げーと」の中からみんなが飛び出してきた。すごい勢いだ。
けど、あれ?オーガお兄ちゃんは?
出遅れた!
あんちゃんがどん、とテーブルをたたいた。
ちょっと遅れてオーガお兄ちゃんが「げーと」から飛び出した。ああ、一番最後になっちゃった。
ぐむぅ。
おっちゃんが蛙がつぶれたような変な声を出した。
蛙がつぶれたところなんて見たことないけど、多分こんな声を出すんだと思う。
おっかちゃんを見ると、両手を顔の前で握り締めて、目をぎゅっとつぶっている。
目をつぶってたら、オーガお兄ちゃんの「れーす」が見えないよ。
おっかちゃんに声をかけたけど、ボクの声が耳に入らないみたいだ。
「てれび」の方を見ると、相変わらずオーガお兄ちゃんは、ぽつんと一番後ろを走っている。
お兄ちゃんの上に乗っている人−「じょっきー」っていうんだって−が一生懸命手を動かしているのは、
多分、速く走らせようとしているんじゃないかな。
でも、お兄ちゃんは涼しい顔で、時々あたりをきょろきょろしている。
オーガのやつ、物見してやがる。。。
そう呻いたおっちゃんの声は、相変わらず蛙がつぶれたようなままだ。
ああ、もう最終コーナーだぞ。
あんちゃんが声を絞り出しながら身を乗り出している。
「てれび」の中から、最後の直線、って声が聞こえた。なんとなく「ごーる」が近づいてるんだってわかった。
無理だ、届かない!
おっちゃんが、今度は鶏が首を絞められたような甲高い声で叫んだ。
でも、お兄ちゃんのあの顔・・・
その時だった。お兄ちゃんの体がぐっと低くなると、はじかれたように坂道を駆け上がり始めた。
泥んこの顔になりながら、他の馬をみるみる抜かしていく。うわぁ、「ひこうき」みたいだ、かっこいい。
前にいるのは先頭の馬だけになった。がんばれお兄ちゃん。
その差がどんどん詰まっていって、横に並んだ!
そこが「ごーる」だった。
お兄ちゃん勝ったの?
わからん、多分、写真判定だ。
あんちゃんが口をぽかんと開けたままつぶやいた。
「しゃしんはんてい」?
どっちが先に「ごーる」したかを調べることらしい。
お兄ちゃんが勝っていたことがわかったのは、それからだいぶたってからだった。
それまで、三人とも「てれび」を見たままピクリともしなかったんだけど、
勝ったことがわかると急に力が抜けたみたいにくったりとなっちゃった。変なの。
お兄ちゃんは、「ごーる」した後、「じょっきー」の人のいうことを聞かないで、ぐるーっと更に一周して、
「ちょうきょうし」の先生に怒られてたらしい。
そのことを聞いたサイキョウ小父ちゃんが、
昔の俺みたいなやつだ、って苦笑いしてた。