第122話「寒気」


えぇ〜え、調教するのぉ。
ご飯にぃ、しようよぉ。
「ちょうきょう」をすると聞いて、グランツール君はぼーっとしながらそう訴えた。
飼葉は調教の後だよ。
苦笑いしながら高木さんがツール君の首を叩いた。
しょうが、ないなぁあ〜。
しぶしぶ、という口調でツール君は首を振った。
でも、あいかわらずぼーっとした顔をしているから、嫌々という感じには見えない。

「くら」をつけられている時も、ぼーっとした顔をしてご飯の方を見ている。
そして、おいしそうだなぁ、とつぶやいた。
ぷぷっ、なんかおかしくなってきちゃった。
「ちょうきょう」するところに行く途中でも、時々、お腹すいたなぁ、ってつぶやいている。
ボクの背中にはゲンちゃんが、ツール君には珍しく高木さんが乗っている。

それじゃあ、先に僕たちが行くから、ゲン君は後から併せる形で宜しく。
15−15(※)くらいで、今日はできればしばらく併走したいねぇ。
そう言って、高木さんは「ばば」に出て行った。
じ、じゃあ、ぼ、ぼくたちも行くよ、オラ君。
ゲンちゃんに促されて、ボク達も「ばば」に入っていく。

前を走るツール君のお尻が見えてきた。
そ、そろそろ並びかけるよ。き、今日は、か、軽くだから、ゆっくり一緒に走る感じでね。
そう言いながらゲンちゃんがそっと手綱を動かす。
ボクはツール君の横に並んだ。
その時、ぞぞぞっと背中に寒気が走った気がした。
ぎょっとして横のツール君の顔を見た。
ツール君が「おにのぎょうそう」でこっちを睨んでいる気がしたんだ。
でも、いつものぼーっとした顔のままで、早くご飯食べたいなぁ、ってつぶやいていた。
そしてちょっとの間一緒に走っただけで、すぐにボクの後ろに下がって行っちゃった。

あ、併せられなかったなぁ、や、やっぱり。
「れんしゅう」が終わった後、ゲンちゃんはそう言って頭をかいた。
ボクもちょっぴり拍子抜けした。
でも、あの寒気は何だったんだろう?

※15−15・・・1ハロン(200メートル)を15秒平均のスピードで走ること。
ここでは、全力疾走までいかない軽めの調教という程度の意味。




第123話へ
オラ日記バックナンバーへ
オラ日記タイトルへ戻る