第124話「嘆息」


けっ、なぁにが本番に強い、だ。
追い上げる脚があるわけでもねぇ。
いや、脚はあるけど、気持ちがねぇのか。。。
先頭に立てばソラを使う(※)。
離れたところから追い上げられたら、差され放題。
おめえは、併せる形にならなきゃ、レースで勝負にならねぇじゃねぇか。
「ちょうきょう」の時の話を聞くと、大井さんはあきれたような声を上げた。

そんなにぃ、怒らないでよぉ。
グランツール君はご飯をおいしそうに食べながら首をすくめた。
へっ、怒ってるわけじゃねぇや。
その勝負根性と、このバネのような筋肉が勿体ねぇ、って言ってるんだ。
大井さんは、ツール君のお尻をぺちりと叩いて、はぁ、とため息をつく。
本当に勿体ねぇ。
顔をしかめてもう一回ため息をつく。
本当ならオープンでばりばりどころか、G1の一つや二つ勝ってても不思議はねぇって力があるってのによ、
何が悲しくて2勝クラスあたりでぐだぐたしてやがるんだ。

そんなにぃ、褒められるとぉ、照れちゃうなぁ。
馬鹿野郎、褒めてるわけじゃぁねぇや。
大井さんがまたぺしりとお尻を叩いた。
そして、もうひとつ大きなため息をついて引き上げていった。

ツール君はというと、ずーっとご飯のバケツに頭を突っ込んだまま、口をもぐもぐ動かしている。
大井さんとしゃべっていた時もその格好のままだ。
器用だなぁ。
ボクは変なところに感心していた。
うーん、ご飯はぁ、やっぱりおいしいなぁ。
ツール君が満足そうな声を上げた。

※ソラを使う・・・レース中などにふとしたことで気が散って走りの集中力を欠くこと。
         先頭に立って1頭になることで走るのをやめてしまう状態。




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