うん、ゲン君、多分どこか痛いところがあるんじゃないかなぁ。
グランツール君の「ちょうきょう」が終わって「へるめっと」を脱ぎながら、早さんが口を開いた。
早さんは、ツール君の次走に乗ることになったとかで、「ちょうきょう」の為に来ているんだ。
うう〜ん、早君もそう思うかい?
高木さんが首をかしげながらそう言った。
まあ、騎手なんてのはみんなどこかしら痛いだの痒いだはあるんですけどね。
多分、彼は減量は厳しかったけど、怪我らしい怪我はこの前の落馬までしたことないんじゃないですか。
初めてのことだから、自分でもよくわからないんじゃないですかね。
そう言うと早さんは、ふうと小さく息をついた。
落馬の大怪我の影響が、今になって出てきてるのもあるかもしれないですけどね。
そうなんだろうねぇ。
怪我してたら彼のことだからそう言ってくるだろうから、そこまでじゃないじゃないんだろうけど。
そう言うと高木さんは珍しく困った顔になって、困ったねぇ、って言った。
競馬は待ってくれないからねぇ。
ゲン君降ろしますか?
まさか。
早さんの問いかけに、高木さんがちょっと驚いたような顔になった。
いくら調子が悪いと言っても、彼以上にオラ君にうまく乗れるジョッキーはいないよ。
僕空いてますよ?
早さんがいたずらっぽく笑った。
うう〜ん、それはちょっと考えちゃうけど、でも、オラ君となるとねぇ。
高木さんがまた困った顔に戻った。
あ、傷ついちゃうなぁ。
早さんは口ではそう言いながら、くすくす笑い出した。
ゲン君よりもオラ君にうまく乗れるジョッキーがいない、というのには同意しますよ。
僕も、結果出せなかったですしね。
そして、あはははって笑った。
高木さんも早さんにつられて笑いだした。
結局、自分でうまいこと折り合いをつけてもらうしかないんだよねぇ。
最後はまた困った顔だった。