ええ〜、もうちょっとご飯食べようよぉ。
そう言い残してグランツール君は「きゅうしゃ」を後にした。
あの化け物、「ばうんしゃ」に飲み込まれて。
ツール君は今週末の「れーす」に出るため、「けいばじょう」に移動するんだって。
今回は勝てそう?
ボクがそう聞くと高木さんは腕組みをして、うーん、って言った。
仕上がりは文句なし、体調もいいし、うちに来てからは一番の出来だよ。
ただねぇ、彼の場合は他の仔以上に走ってみなければわからないからねぇ。
レース展開も注文が付くし、最後に気持ちが出るかどうかだからねぇ。
早君がやる気を引き出してくれることに期待かなぁ。
そしてボクの方を向いてにっこりと笑った。
まあ、出来ることはやったし、勝負に絡めれば、勝ち負けは確実にできる状態ではあるよ。
いやぁ、さすが早さんだ。
大井さんがボクの寝床を整えながら、上機嫌で話しかけてきた。
ツール君の「れーす」があった翌日のことだ。
ペースが遅いと見るや先頭に立って、
絶妙なペース配分で後ろからつつかれる形に持ち込んだんだぜ。
ええ〜、そんなのやだよ。
先頭にいてすぐ後ろに他の仔たちがいたら、疲れちゃう。
大井さんの話を聞いて、ボクは思わず顔をしかめた。
最近のボクは話を聞くと「れーす」の状態が想像できるんだ。
えへん、すごいでしょ。
ま、普通はそうだろうよ。
そんな形は最悪だ。
でもあいつはそんなことは気にしねぇ野郎だし、ばてて脚が無くなるタマでもねぇしな。
出し抜けを食らうような展開にさせなかった上で、最後まで競り合いの形だ。
逆におあつらえ向きってやつだ。
そうなりゃ、あの野郎が差されるわけがねぇ。
まんまと頭差での逃げ切りよ。
そう言いながら鼻歌まじりでボクの「ねわら」をざっとかき回した。
そして、ふう、と息をついて、さっきと同じことを言った。
いやぁ、さすが早さんだ。