いやぁ、スタート直後のあれがすべてだったねぇ。
高木さんが苦笑いしながらボクたちを迎えてくれた。
がしゃんと「げーと」が開いてすぐだった。
ボクはいい感じにスタートを切ったんだ。
その時、「あっ」っていうゲンちゃんの叫び声が聞こえた。
となりにいた仔が急に「よれ」て、ボクたちにぶつかりそうになったんだ。
あのあおりをくらって、大外に振られちまったからなぁ。
ついてねぇや。
大井さんが首を振りながらぼやいた。
まあ、それも競馬だしねぇ。
調子は抜群だったけどねぇ。
高木さんがぽりぽりと頭をかいた。
す、すみません。あ、あそこで、ぼ、ぼくがもうちょっとうまく、た、立ち回れていたら。
ゲンちゃんがうなだれる。
いやいや、あそこは誰が乗ってても、ああにしかならないよ。
むしろよく影響を最小限に抑えてくれて、最後は4着まで食い込んだし、
よくやってくれたよ、うん。
そういえば、前にも絶好調の時に似たことがありやしたねぇ。
ああ、あの時もとなりの馬にぶつけられて、落鉄したんだっけねぇ。
絶好調の時ほど何か起きるねぇ。
「こうじ、まおおし」ってやつだね。
ボクはピンときて口を挟んだ。
おや、オラ君、難しい言葉を知ってるねぇ。
高木さんが感心したような声を上げる。
えへん、ボ。。。
褒めちゃあいけませんよ、こいつ、また調子に乗りやすぜ。
むむ、大井さんにかぶせられたぞ。
あはは、確かにそうだ。
それはそうと、オラ君もゲン君もよく頑張ったね。
高木さんはにっこりと笑ってボクたちの方に顔を向けた。
ボクは空を見上げた。
夕日がまぶしかった。