もうすっかり「なつ」も終わった。
「なつ」が終わったどころじゃない、じきに長い「ふゆ」がやってくるぞ、
あんちゃんがボクの「ばぼー」を掃除しながら言った。
ボク知ってる、「ふゆ」って寒いんだよね。
この辺はまだあったかいほうだけどな、内陸の方は大変なんだぞ、
「ゆき」がオラの頭よりも高いところまで積もったりするんだ。
「ゆき」も知ってる。白くてふわふわってお空から降ってくるんだ。生まれたばかりの頃に見たことがあるよ。
でも、ボクの頭より高いところまで積もったら大変だ。動けなくなっちゃうよ!
ボクは思わずぶるぶるって身震いした。
結局、「れーす」に勝てないで引退するとどうなるのかはわからなかった。
小母ちゃんも小父ちゃんも詳しくは知らないらしかった。
大体は行方がわからないんだ、あんちゃんが言ってた。
「じーわん」を勝って「しゅぼば」になってもその後、行方がわからなくなる馬もいるらしい。
毎年、何千頭って生まれるけど、ゆっくり余生を送れるのは数えるほどだろうな、
あんちゃんが独り言のようにつぶやいたのが妙に頭に残った。
難しくてよくわからなかったけど、あんちゃんの顔はとっても寂しそうだった。
風が強くなってきたな、掃除を終えたあんちゃんが外のほうを見て言った。
ひゅーひゅーいう音が次第に大きくなってきて、時々、がたがたっていう大きな音もする。
「たいふう」が近づいてきているらしい。「たいふう」ってなんかすごく強くて怖いものらしい。
ぶるぶる、また震えちゃった。
いつもは開いている窓もしっかり閉められていて、「ばぼー」の中が窮屈に感じる。
でも、その窮屈さが今日はちょっとほっとする。
今度の「たいふう」は直接来そうだからな、普通はそんなことないのに、最近の天気はおかしいぞ、
あんちゃんがぶつぶつ言いながら掃除を終えた。
じゃあな、ちょっとうるさいかもしれんが、ここは安心だからおとなしくしてるんだぞ、
そう言い置いて、あんちゃんは「ばぼー」の入り口をしっかり閉めて出て行った。
ひゅーひゅーいう音に混じって、ばしゃばしゃって水を撒くような音も聞こえ始めた。
だんだんお外が騒がしくなってくる。
いつもは隣の「ばぼー」から、ボクにあれこれ話しかけてくるメリーポピーお姉ちゃんがやけに静かだ。
おかげで外の音が余計大きく感じる。いやだなぁ。
ボクはまたまたぶるぶるって身震いした。
夜はまだ長い。