長い夜がようやく明けた。
最初はひゅーひゅーだった音が、そのうちごーごーって変わって、「ばぼー」がガタガタって音を出し始めたんだ。
ボクは怖くて寝藁の中に頭を突っ込んでぶるぶる震えてた。
お外の音は一晩中やまなかったから、ボクは怖くてちっとも寝れなかった。
「つき」が出てなくて真っ暗な夜は、お化けが出そうで怖いときがあるんだけど、
昨日は逆にお化けが出てきてくれたほうが気がまぎれたかもしれないな。
風はまだひゅーひゅーいっているけど、お外はだいぶ静かになっている。
だから、あんちゃんが「ばぼー」の入口を開けてくれると同時にお外に飛び出した。
眠かったけど、お外を走って気分を変えたかったんだ。
おい、オラ、気をつけるんだぞ、外はだいぶ荒れているからな。
あんちゃんが、ボクの背中に向かって声をかけた。
さあ走るぞ、え?!
ボクはびっくりした。
だって、木の枝とかなんかいろんなものが草の上にたくさん散らばっているんだ。これじゃ気分よく走れないな。
お空を見ると、「くも」がびゅんびゅんとすごいスピードで飛んでいる。
うわぁ、どこか知らないところに来ちゃったみたいだ。
ただ、昨日とは違ってお日様はすごくまぶしい。お天気がいいからなんか余計お外の景色が不気味だ。
片づけが終わるまでは走るのはお預けだな。
あんちゃんがボクの首をぽんぽんとたたいた。
柵の向こうでおっちゃんが近所の人と話をしていた。
近づいていくと「たいふう」の話をしているらしかった。
今度の「たいふう」の「ひがい」は大変だ、とか言っているのが聞こえた。
「ひがい」って何?
うーん、なんて説明すればいいんかな、おっちゃんは首をひねった。
地面とかが怪我するようなものかな。
うわぁ、じゃあ大怪我だったんだ。大丈夫なのかな。
あんまり大丈夫じゃなさそうだなぁ。
おっちゃんはそう言うと近所の人と顔を見合わせて眉をしかめた。
そうして、あそこの国道が崩れた、だとかあそこは高潮で波をかぶった、
とかなんか難しい話をし始めたから、ボクは「ばぼー」に戻ることにした。
眠くなってきちゃった。