第33話「桜花賞」


「おうかしょう」の日が近づいてきた。
あんちゃんの「はないき」は相変わらず荒いまま。まるで「たいふう」みたいだ。
でも、「おうかしょう」の週になると、「はないき」がぴたりと静かになった。
そして、今度はそわそわ、うろうろと落ち着かなくなった。

「はないき」が荒いのもうるさくて困ったもんだけど、そわそわされるのもなんかイヤだな。
ボクまで、変な気持ちになっちゃう。
おっかちゃんに、あんたが走るわけじゃないんだから、少しは落ち着きなさいよ、
って言われてたけど、
そんなおっかちゃんが「くつした」をひっくり返しで履いてたのを、ボクは見逃さなかった。

いよいよ「おうかしょう」の前の日になった。
おっちゃんが母屋のほうで素っ頓狂な声を上げている。
ポピーの奴、3番人気だぞ。

ボク、人気の意味、もう知ってる。
お姉ちゃんみんなに注目されてるんだね。
「おうかしょう」に勝ちそうだって、たくさんの人が思っているってことだ。すごいなぁ。
ボクもなんだかわくわくしてきて、その夜はよく寝れなかった。

翌朝はいいお天気だった。「けいばじょう」もいいお天気だった。

結局、お姉ちゃんは「おうかしょう」を勝てなかった。
正確には出れなかったんだ。
「はこう」(※)が原因で「しゅっそうとりけし」(※)になったんだって。
みんなはとっても残念がって、そしてお姉ちゃんの体を心配してたけど、
たいしたことはないってわかってほっとしてた。

まあ、無事なのが一番だ。
サイキョウ小父ちゃんはそう言うと、ちょっと鼻を鳴らした。
レースは力と運があればいくらでも勝てる。

その時、あんちゃんがボクの「ばぼー」の前にやってきた。
さて、そろそろお前のことも考えないといけないな。

※跛行・・・疾病などで歩き方に異常が見られること。
※出走取消・・・急な疾病などでレースに出ることを取りやめること。




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