馬運車を降りたボクは、目の前の光景にびっくりした。
見たことがないくらいたくさんの「にんげん」がいる。
それだけじゃない。たくさんのボクの「なかま」がいた。
ボクが目を白黒させていると、あんちゃんがはははと笑った。
そうか、オラはこんなにたくさんの馬や人を見たことがないもんな。
他の場所でやるセールには、もっとたくさんの人が集まるのもあるんだぞ。
それからのことはあまりよく覚えていない。
なんだか夢を見ているような感じだった。
たくさんの「なかま」たちと一緒に、お外の広いところをぐるぐると歩いたことはかすかに覚えている。
そんなボクたちを、たくさんの「にんげん」がじっと見ている。
おかげで緊張してぎくしゃくした歩き方になっちゃってたらしい。
ボクの前を歩いていた「なかま」がすぐに暴れて、立ち上がったり、飛び跳ねたりしていたなぁ。
元気だなぁ、ってちょっと感心した記憶だけが妙に残っている。
そして気がついたら、「ばぼー」よりももっともっとずっと広い部屋の中で、あんちゃんに引かれて歩いていた。
ここには他の「なかま」はいなくて、ボクだけだった。
そのボクをたくさんの人が見つめてるんだ。
思わずおしっこが出ちゃった。
上のほうから声が聞こえたんで、そっちに顔を向けると、すごく高いところに「にんげん」が何人かいて、
何か大きな声でしゃべっている。
あんなところにいて怖くないのかなぁ。
なんだか同じ言葉を繰り返している。
どうやら、ございませんか、って言っているようだった。
何かのおまじないかな?
しばらくすると、その「にんげん」が手を振り下ろした。
すると、かちん、といい音がした。
うわぁ、かっこいい。
そのままそっちを見ていると、あんちゃんがボクをぐい、と引っぱった。
おい、オラ、行くぞ。
なんだ、もうちょっと見ていたかったなぁ。