第49話「大井厩務員」


ああ、いたいた。
高木と名乗った男の人が声がしたほうを向いた。
彼がこれから君の世話をすることになる厩務員の大井だ。オラ君宜しくね。
すると、また、けっ、という声がして、
なんでこんなチビ助の面倒をみなきゃならねぇんですか、と続いた。

ボクが声をしたほうを見ると、髪の毛がぼさぼさでお髭ももじゃもじゃのおじさんが立っていた。
ボクのことチビ助って言ってたけど、そのおじさんの背も低かった。
でもおじさんも小さいよね、ボクとおんなじだ。
思わずそう言うと、チビ助の上に生意気か、って言ってぷいっといなくなっちゃった。
ありゃりゃ、もしかしてボク嫌われちゃったのかな。

まいったな。
調教師の高木さんは、そう言うとあごをぽりぽりかいた。
でもその目は笑っていて、あんまり参っているようには見えなかった。
色々あって今はちょっとふて腐れちゃってるけど、
仕事はちゃんとやる男だから、あまり心配しないでね。

「ふてくされる」って何?
う〜ん、なんて説明すればいいのかなぁ。
ひねくれちゃってるって言うか、
投げやりになっちゃってるって言うか、
いろんなことが嫌になっちゃってるって言うか、
難しいこと聞くねぇ、オラ君は。
そう言うとボクの首をぽんぽんと叩いた。

でもボク嫌われちゃったんじゃないの。
いや、嫌ってはいないんじゃないかな。
彼は基本的に生き物はみんな好きな奴なんだ。
まあ、でも。
そう言うと高木さんはまたぽりぽりとあごをかいた。
今はあんな感じになっちゃってるから、
嫌味のひとつやふたつは毎日聞かされることになっちゃうかなぁ。
うう〜ん、ちょっと心配になってきたぞ。




第50話へ
オラ日記バックナンバーへ
オラ日記タイトルへ戻る