第66話「スタート前」


誰も期待していない、か。身も蓋もないねぇ。
高木さんがくすくす笑う。
でもまあ、確かに注目されてないから、気楽にいけばいいさ。

そう言う高木さんにボクは聞いた。
高木さんも期待してないの?
ええ?僕かい?相変わらず質問が厳しいねぇ、オラ君は。
僕は期待してるよ。うん。
そう言いながらちょっと首をかしげる。
いや、期待しているっていうのとはちょっと違うかなぁ。
今回は、君たちが気持ちよく走ってきてくれればいいなぁ、って思ってるよ。
勝ち負けとか掲示板とかより、スタートからゴールまで、
気持ちよく走るのが今日は大事だからねぇ。

う〜ん、よく聞いてるとなんか期待されてないみたいだ。
でも、なんか気が楽になったぞ、頑張ろうね、ゲンちゃん。
ボクは背中のゲンちゃんに声をかけた。
すると、それにこたえるように、カタタタって音が聞こえた。

けっ、今度は震えだしやがったか、
チビ助のほうがよっぽど落ち着いてるじゃねぇか。
あれ、珍しく大井さんにほめられたぞ。
馬鹿野郎、褒めたわじゃねぇや。ほれ、もう出るぞ。
大井さんはボクの首をぺちりと叩いた。

もうそろそろ「れーす」がはじまる。
みんなで「げーと」の前を歩く。
すると、すごく汗をかいていた「うま」が、ぴょんぴょんと跳ねるような歩き方になった。
うわぁ、楽しそうだなぁ。
ぼ、ぼく達の隣に入る子だね。
楽しいんじゃなくて、き、緊張してきたんだよ。
あ、あまり気にしないでね、オラ君。
ゲンちゃんが心配そうな声を出す。
でも、カタカタいう音はいつの間にか聞こえなくなっていた。




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