第8話「盛夏」


今は「なつ」っていうんだって。「なつ」は「あつい」んだよ。ボク物知りでしょ。
「あつい」時は涙が体中から出てくるんだよ。え?それは涙じゃないの?汗っていうんだ?ふーん。何が違うのかな?
確かめたくて、あんちゃんの汗を舐めてみた。うわ、しょっぱいよ。涙と同じじゃないか。ぺっぺっ。

サイキョウ小父ちゃんは「なつ」が好きじゃないらしい。
昔はそうでもなかったんだけどな、最近は暑すぎる。だって。
いつもはお外にずっといるのに、今は「ばぼー」にいるときのほうが多いんだ。
「むし」が異常に多くてうるさくてかなわん、ここから外を眺めているほうがましだ。
って尻尾をぶんぶん振りながらいつもぼやいている。

確かにお外に出るとお腹にまとわりついてくる「むし」はチクチクして嫌な奴らだけど、ボクはお外で走り回っているほうが
楽しいな。それに、柵の外に生えている、ながーい草なんてご馳走だよ。あ、おなかがぐぅーって鳴っちゃった。
あー、でもほんとうるさいなぁ、もう、あっちいってくれよぉ。
ボクは後ろ肢をじたばたさせて尻尾を思いっきり振ってやった。
「むし」の奴らはそうするとちょっと離れるけど、すぐまたまとわりついて来るんだ。くそー。
ボクは草のないお気に入りの場所に行って、ゴロンと横になって背中を地面にこすり付けた。
なんだ、オラ、また砂浴びしてるのか。近くを通りかかったあんちゃんが、ボクに向かって声をかけた。
お前も暑い昼間はサイキョウみたいに馬房でおとなしくしてればいいのに。帰るか?だって。
嫌だい。まだお外で遊んで、草もまだまだ食べるんだ。ボクがそう言うと、勝手にしろ。って。うん、そうする。

「むし」は嫌だけど、ボクは「なつ」が好きだ。上を見るとお空がきらきらしてて、まっ白なモクモクしたものがプカプカしてる。
あれは「くも」って言うんだって。「なつ」の「くも」はなんか強そう。あの上でゴロゴロしたら気持ちよさそうだな。
あんな所でゴロゴロして落っこちちゃったらどうするのよ。
いつの間にか隣に来ていたお姉ちゃんが馬鹿にしたようにこしゃまっくれた事を言う。
こしゃまっくれた、ってどういうことかわからないけど、あんちゃんがいつもお姉ちゃんに言ってるから、多分そうなんだ。
あら、生意気ね。お姉ちゃんはそう言うと、ボクの首をかぷっと噛んだ。




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