第89話「好走」


お、惜しかったね。
で、でも、オラ君、すごく頑張ったね。
ゲンちゃんはそう言うと、「たづな」を引きながら、ボクの首を優しくなでた。
ちらりと見上げると、ゲンちゃんの顔が泥だらけになっていた。
そういうボクも泥んこだらけなんだけどね。

今はゲンちゃんの「ふっきせん」が終わって、引き上げていくところだ。
今日は朝からどしゃ降りの雨で、地面がぐしゃぐしゃになっていた。
「ふりょうばば」って言うんだって。へぇー。

いやぁ、あの出遅れで、今日は駄目だと思ったけどねぇ。
「だつあんじょ」に戻ると、高木さんが出迎えてくれた。
はっ、どうせ足元のぬかるみに気を取られて、別のこと考えていたんだろうよ。
ぎく。
大井さんはこういうところが鋭い。
べべべ、別に、あの泥んこの中をバシャバシャしたら、たたた、楽しそうだとかなんて考えていなかったよ。
けっ、図星かよ。
大井さんにぺしりと頭をたたかれた。

まあ、でもあれから2着まで追い上げたんだから、たいしたもんだねぇ。
しかもこの不良馬場だ。
他の馬がみんなのめっている中で、よく頑張ったねぇ。
そう言って、高木さんもボクの首をなでてくれた。

は、はい、オラ君、とっても良く走ってくれました。
自分も雨は得意なほうじゃないのに。
あそこまでひどくなっちゃあ、雨の巧拙なんて関係ねぇか。
ま、でも確かに頑張ったよ。
前の馬が蹴り上げる土くれが飛んできてるだろうに、チビ助のくせに馬群をこじ開けてきたんだからな。
そこは褒めてやるよ。
大井さんがめずらしく褒めてくれたんで、ボクはちょっと恥ずかしくなった。

でも、確かに前から飛んでくるものがぺしぺしとぶつかってきて、顔がとっても痛かったよ。
もうあれはごめんだなぁ。




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