あと、弱虫もよくやったよ。
あの田んぼみたいな中でも、チビ助の奴、気分よさそうに走っていたからな。
チビ助に負担かけずに、脚をためられたのは、まあなかなかだ。
お、大井さんに、ほ、褒められるなんて、ぼ、ぼくもちょっと恥ずかしいです。
ゲンちゃんが顔を赤くしながらもじもじしている。
けっ、何照れてやがる。さっさと後検量に行ってきやがれ。
大井さんがゲンちゃんのお尻を、ぺしっと叩いた。
うん、まあ、でも確かにゲン君はうまく乗ったねぇ。
慌てて「けんりょうしつ」に駆け込むゲンちゃんの背中を見ながら、高木さんがにっこり笑った。
その時、ちょっと太った人があわてた様子で高木さんに近づいてきた。
た、高木君。
これは、松沢先生。どうしました血相変えて。
おたくの元司君、この後騎乗予定なかったよね。
ええ、ありませんよ。
ああ、よかった。
松沢先生って言われた人は、ほっと息をついて汗をぬぐった。
すまないが、次のレースでうちの馬に乗ってもらえないか。
騎乗予定だったジョッキーが、持病の腰痛が悪化してしまってな、この後の騎乗が全部駄目になったんだ。
次のレースに出る先生の馬って、ダントツの本命馬ですよね。
高木さんがちょっと首をかしげる。
その、いいんですか、うちの元司で。
何言ってる、あんな気難しい馬、今空いているジョッキーで乗れるのなんて、彼くらいだろう。
こんな状況じゃ、馬主さんも嫌も応もないやな。
そして、松沢さんは高木さんを見てにやりと笑った。
わしの目を見くびってもらっちゃ困るよ。