第91話「結果」


おおー、見る見るうちにオッヅが上がっていきやすねぇ。
大井さんがちらりと視線を上げてつぶやいた。
いやぁ、すごいねぇ。
さっきまで2倍を切っていたというのに、乗り替りが発表になったとたんに、もう5倍を超えましたね。
高木さんも同じほうを見てあごをなでた。

ふたりが見ている先には、なんだかたくさんの数字がひかっている「てれび」みたいなものがある。
その「れーす」で、誰が勝ちそうって思われているかがわかるものらしい。
ふーん。一番になったら何かもらえるのかな?

この分じゃあ、2番人気馬に抜かれるどころか、3番人気まで落ちそうですぜ。
松沢せんせ、ほんとに弱虫でよかったんですかい?
大井さんが今度は松沢さんのほうに視線を向ける。
なぁに、人気で勝ち負けが決まるわけじゃあないのはよく知ってるだろう。
それとも何かい?
大井君、君の目も節穴なのかい?
松沢さんは大井さんを横目で見ながらにやりとして言葉を継いだ。
ほら、もうすぐスタートだ。
元司君のお手並み拝見と行こうじゃないか。


やあ、元司君、ありがとう。
うまいこと乗ってくれたね。
松沢さんが笑いながらゲンちゃんを出迎えている。
ゲンちゃんは無事その「れーす」に勝つことができたんだ。

す、すみません、向こう正面でかからせ(※)なければ、あの仔の力なら、
も、もうちょっと楽に勝てたはずでした。
なあに、あれくらいで抑えられたんだから、やっぱり君に頼んでよかったよ。
がはは。
松沢さんがゲンちゃんの背中をたたく。

ま、記者連中は「騎手変更も関係なし、馬の力が違ってた」とか言っているが、何を見てるんだか。
松沢さんはそう言いながらゲンちゃんの背中をもう一度叩くと、高木さんのほうにぐりんと首を向けた。
そうそう、高木君、頼みごとがあるんで、近々お邪魔させてもらうよ。

※かかる・・・29話を参照

(筆者注)
 実際に2000年のマイルチャンピオンシップで、ダイタクリーヴァがレース直前に安藤勝己に乗り替わった途端、
 見る見るうちにオッヅが下がり、あっという間に一番人気になったということがありました。
 今回の話とは逆のケースですね。




第92話へ
オラ日記バックナンバーへ
オラ日記タイトルへ戻る