第93話「乗り替わり」


青い顔をして口をパクパクしているゲンちゃんを見て、松沢さんがぽりぽりと頭をかいた。
そういえば、ぽりぽりってよく言うけど、ぽりぽりなんて音聞いたことがないぞ。

あー、元司君、悪いんだが、セキトはちょっと中間順調じゃなくてね、
前哨戦を使えなくて、ぶっつけなんだ。
もともとは使い込んでよくなるタイプだから、ピークにまでは持っていけない。
そんな状態で乗ってくれというのは、プロとしては申し訳ないんだが。
い、いえ、と、ととと、とんでもないです。
まあ、そんなわけで人気は落とすだろうから、気楽に乗ってくれよ。
松沢さんがゲンちゃんの背中をばしんとたたく。
は、ははは、はい。
め、迷惑かけないように、が、頑張ります。

いや、ゲン君、必ず勝ちなさい。
高木さんがめずらしく厳しい顔をしている。
セキト号は去年一度も負けていないんだ。
乗り替わって負けたんじゃ、早君に申し訳が立たないよ。

いやぁ、高木君、厳しいねぇ。
松沢さんがまた頭をかく。
うーん、プレッシャーかけたくないんで言わないつもりだったけど、
早君も負けたらただじゃ置かないって言ってたんだよなぁ。
ひ、ひいいい。
ゲンちゃんの顔がますます青くなっていく。
横を見ると、大井さんがまだ口をあんぐりと開けている。
ぷぷ、なんだかおかしいや。

信頼して後を託した自分の顔に泥を塗らないでくれって、ね。
え、も、もしかして、ぼ、ぼくに依頼が来たのって。
そう、早君の推薦。
松沢さんがにんまりと笑ってゲンちゃんを見る。

それだけじゃないでしょう。
先生にその気がなければ。
すみません、うちの元司のためにさぞかし。。。
ゲン君、松沢先生の苦労を察してあげなさい。
高木さんはそう言うとようやくにっこりと笑った。
は、はい、ぼ、ぼく、全力で、が、頑張ります。




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