第98話「邂逅」


オラ君の次走が決まったんですって?
「ばぼー」の中にからからとした声が響いた。
この声は鍋井さんだ。

こら、静かにしねぇか、のっぽ。
きょうはお客さんがいるんだぜ。
大井さんがぶすっとした声を出す。
鍋井さんの声にびっくりしたように、小さな影がささっと動いた。
今日は真矢ちゃんと坂石のおいちゃんが来ているんだ。
真矢ちゃんはおいちゃんの背中に隠れて、大きな目を見開いて鍋井さんを見ている。

あら、ごめんなさぁい、小さな妖精さんがいたのね。
そして、首をかしげるとおいちゃんと真矢ちゃんの顔をじっと見た。
もしかして、坂石さんと真矢ちゃんですかぁ?
オラ君の馬主の?
と言ってから、はっとしたような顔をして、
失礼しました、鍋井といいます。
と、小さな紙を出しておいちゃんに渡しながら頭を下げた。

鍋井さん、真矢ちゃんたちのこと知ってるの?
ボクが鍋井さんにたずねると、
あらぁ、オラ君のことで知らないことなんてないわよぉ、
と自慢気な顔になった。
嘘だぁ、このまえボクが好きなもの知らなかったよね。
鍋井さんはそれを聞くとけろっとした顔で、
それは、言葉のあやってやつよ、
って言いながらウインクをした。

鍋井さんですね、高木さんから話は聞いています。
オラ君のファンなんですってね、ありがとうございます。
おいちゃんが、鍋井さんに頭を下げた。
真矢ちゃんはそんなおいちゃんの背中でますます体を小さくして、
鍋井さんから隠れようとしている。
すみません、この子はちょっと。。。
おいちゃんがちょっと困った顔になった。
あら、大丈夫ですよぉ。
鍋井さんが手を振りながらからから笑う。

そして、
知らない背のおっきい人がいたら怖いわよねぇ。
ごめんなさいねぇ。
そう言いながら今度は真矢ちゃんに笑顔を向けた。




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