天使と宇宙船 2008.02.17

私は顔も悪いし、頭も悪い、ケンカも弱い、あげくに根性も悪いと悪いところづくめである。だから人から好かれることもない。家内は、私と結婚したことが彼女の人生最大の謎であるといつも言っている。
しかし私にも良いところはある。ひとつは記憶力である。忘れたいと思うことも頭の中に何十年も消えることなく残っていて、やがてそれは雑念となり妄想となり・・やはりこれも良いことではないようだ。

今(2008年2月時点)アメリカは大統領の予備選で大騒ぎである。特に民主党は有力候補の片方は女性、他方は黒人とこれは建国以来の記録すべきこと大事件である。過去200数十年アメリカの有力な大統領候補はすべて白人の男性と決まっていたのである。
白人でない男性も、男性でない女性の有力候補者もいなかった。まだ白人でなく男性でない女性候補者は現われていないが、次期大統領選挙でライスさんが出てきても不思議ではない。
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私はヒラリーよりライスが好きだ。まず民主党ではない、タカ派であることが明確、人気取りではなく、国際政治家としての実績はある。最悪今回は民主党に大統領の椅子を譲っても次回はライスさん取り返してくれよ。
なんだか既に共和党が負けたような雰囲気だな 
私はアメリカの選挙民ではなく傍観者にすぎないが、今回の選挙を見ていると60年代の公民権運動時代から、アメリカは本当にダイナミックに変わっているのだと実感する。ケネディが大統領になった頃(1960)、アメリカでは黒人差別というのは普段のことだった。住むところ、結婚、賃金、職業、レストラン、バスなんでも差別されていたと聞く。
ローザ・パークスのバスの事件は1955年でキング牧師が暗殺されたのは1968年である。
シドニーポワチエの「招かれざる客」(1967)は、若い才能豊かな男性とめぐり合った幸せな女性の最大の不幸は男性が黒人であったことであるという映画でした。
こんなものネットでグルるまでもないのが私の記憶にある。よって記憶力の良さはQED

日本ではいまだ60年代の田中角栄とか三木の亡霊というか論理が、政治を行っているようだ。
現実に21世紀の現在、三木首相の奥さんが9条の会に生きる怨霊として存在している。まさに日本は魑魅魍魎の国である。

今日時点、黒人候補のオバマさん優勢を聞いて、とうとうアメリカでも黒人大統領候補かあということから、私の考え(妄想)はどんどん広がっていく。私の記憶力がいいのは冒頭に申し上げた通りだが、歳とともに若干メモリーが揮発しつつあり、明確に思い出せないこともでてきた。
すこし霞のかかった私の頭に浮かんだのは・・短編小説で未来世界から現代に来た男が若い女性と仲良くなり結婚するのだが、男の家族の話になって黒人との混血だよと言うと女性の兄がとんでもないやろうだと殺してしまう、そしてまわりもそれで当然だというお話である。
あれはなんというタイトルだったろうか?
著者はフレドリック・ブラウンだったよね(これは覚えていた)、
それを読んだのは・・・と私の思い出(妄想)はどんどんと広がっていく。

私は子供から成人するまで、田舎町のさらに町はずれ、中心部から数キロ離れた所に住んでいた。当時その町は人口3万くらいであったが本屋は二軒しかなく、しかも本屋といってもいまどきのコンビニにある本の数よりちょびっと多いくらいしか本がなかった。
../book.gif 私はケンカも弱く、スポーツも苦手だったので本を読むのが好きだった。というよりそれ以外に取り柄がなかったのだろう。
私が中学・高校当時、文庫本はヘルマン・ヘッセもので100円から300円くらい、森鴎外の短いもので100円弱くらいだった。でも昭和30年代末は一人当たり国民所得が現在の1割程度(統計で確認のこと)、高卒の初任給が2万円に欠ける時代である。100円の文庫本の位置づけは今の1000円のハードカバーより高価であった。
中学生や高校生に簡単に買えるものではない。もちろん図書館は町立も学校にもあったが、そういうところにある本はつまらないということにきまっていた。
私は毎週のように日曜日は舗装されていない数キロの道を歩いて本屋に行って、立ち読みをした。立ち読みしているのがほんとうに楽しかった。
高校生の時だと思う、立ち読みして気に入った文庫本があった。タイトルが「天使と宇宙船」という。毎週行っては同じ本を読んだ。短編集でとにかく面白いのだ。
数回読み返してとうとうその本を買いました。そのときのうれしさは今でも覚えています。もちろん家で何度も何度も読み返しました。
何度も読んでストーリーが頭に入っている本を買うなんてバカだとお思いでしょうか? たぶん私は馬鹿なんでしょう。

さて、「天使と宇宙船」でフレドリック・ブラウンという作家を知りますと、また彼の作品を読みたくなります。田舎の本屋では限りがあり、通学していた少し大きな町の本屋で立ち読みをし、気に入ったのを買いました。問題は彼の本はすべてが面白く気に入ったことです。
と妄想はストップ
さて、未来から来て殺された男の物語はなんだったろう?と思いめぐらしていました。迷ったらイーソー切りと昔マージャンで習いましたが、今は迷ったらグーグルと決まっています。
おお!フレドリック・ブラウンの復刻版が出ているのです。
今の私にとって文庫本を何冊か買うくらいの余裕はあります。さっそくネットで発注しました。といってもたかだか千数百円です。

本が届くと表紙も挿絵も40数年前と変わりません。本屋で立ち読みした当時を鮮明に思い出しました。
しかし私の記憶力はすばらしい! ほとんどというかすべての物語のストーリーを覚えていました。もちろん昔何度読んでも面白かったように、今読み返しても面白い。

現代の小説はSFにしてもミステリーにしても大道具に頼るようなところがあり、アイデアとか心情なんてとこを無視という感じですね。そういうのもひとつふたつはいいのですが、そればかりではすぐ飽きてしまいます。ハードSFというジャンルもありますが、ありゃ小説というより実験に裏付けられていない論文ですよ。本人も取り巻きもそれで面白いのでしょうが、文学とは一線を画しているのでは?
映画も同じでダイハードやミッションインポシブルなんて過激さを増すばかりでもう辟易しませんか?
かってアイザック・アジモフが「陽電子頭脳が電子頭脳より優れている理由なんて知らない。私は人間を描いているので科学を書いているのではない」と語ったそうですが、まさにそのとおり。
そしてもちろんフレドリック・ブラウンは、機智と語り口で私たちに楽しいひと時を与えてくれます。

おっと、未来世界から来た男の物語のタイトルはズバリ「未来世界から来た男」でした。
みなさんも、ぜひお読みください。
といっても面白いとか感動した感情移入できるというのは、前提条件があってこそ、
私のような、本に飢えていて、金もなかった少年の境遇であってはじめて私の思い出になるのでしょう。
でもいいですよ、フレドリック・ブラウン
彼の最盛期は1950年代、もう時代は彼の作品の設定年代を過ぎ、実際の科学技術は彼が描く未来を超えたけれど、彼のアイデアは決して色あせてません。
だから復刻版がでているのでしょう。

残念ながら復刻本も品切れ近いようです。
私が買った本を下記します。今なら間に合う終列車〜♪

タイトル出版社ISBN初版入手版定価(入手時)
宇宙をぼくの手の上に東京創元社978-4-488-60505-61969.03.282007.09.14840円
天使と宇宙船東京創元社978-4-488-60502-51965.03.262008.01.18756円
未来世界から来た男東京創元社978-4-488-60501-81963.09.062006.08.18588円



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