企業家精神 2008.07.06

ロバート・マクナマラという方をご存じだろうか?
50年も前のアメリカの国防長官で、2008年現在まだご存命である。マクナマラはもともと政治家ではなかった。田舎の大学から始まってハーバードの先生になり、第二次大戦中は空軍、戦後はフォードに入社して最後には社長になり、ケネディ大統領に請われて国防長官に転身し、その後は世界銀行総裁などの経歴を持つ。彼の功績は毀誉褒貶さまざまであるが、それはこの際どうでもよい。
私が会社に入った頃、マクナマラは国防長官だった。
職場の先輩が「アメリカ人はどうして経営者になれるのだろう?」といった。
その方は昔陸軍の航空隊に入隊して教育訓練中に終戦となった。海軍の予科練のように戦争中に集められ促成の航空兵として教育されたのではなく、戦争が激しくなる前に超難関の試験に合格し、晴れて飛行士になるための教育訓練を受けていたと語る。頭は秀才、身体剛健で当時は郷土の誇りであったろう。
その方は「わしらが軍隊を除隊して会社に入ったり、会社を作ったりしても、社長業は務まらないだろう」と語っていた。
私もその時、同感であった。今も同じ思いである。

しかし、アメリカの何人ものCEOの経歴を見ると、一つの会社で下積みからコーポレートラダーを登って社長・CEOになった方というのは珍しいようなのだ。
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MBAの学位をとって30前に執行役になったり、一つの会社でCEOになると他社に引き抜かれたり、もちろんマクナマラのように大学の先生が軍人になったり、軍人が社長になったり・・社長が国防長官になったり・・
私が大好きなライスさんにしても大学の準教授から政治家へ転身している。それどころか彼女はピアニストとしてプロ級とのことである。
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日本の大企業はみな戦前からの老舗である。戦後生まれの大企業はSONYとホンダくらいだろう。
アメリカは違う。新しい企業が続々と雨後のタケノコのように生まれてくる。ヤフー、マイクロソフト、アップル、グーグル、そして新しく生まれた企業が大企業に育っていく。
みな企業家精神旺盛な若者が作り出す。
そういったことは、ちょっと日本では考えられない。一般の日本人に比べて、アメリカ人は事業家としての才能が優れているのだろうか?

もちろん条件というか社会環境がすごく違う。
例えば税金にしても、我々日本のサラリーマンの所得税は源泉徴収という仕組みで、仕組みがよくわからなくても自動的に処理されている。他方、アメリカではサラリーマンであっても毎年収入と必要経費を記録しておいて自己申告する社会で、お金や領収書に関する認識も知識も違うだろう。
お金を払うのも大違い。いま日本でクレジットカードを使っている人は多いけど、その仕組みを知っている人は多くはないだろう。そしてポイントとか金利とかを考えて得か、損なのかを考えているとは思えない。クレジットカードは打ち出の小づちのような感じで、自分の可処分所得以上使いすぎる人が多いのではないだろうか?
おっと、そういう意味ではアメリカも大差ないか

学校ばかりでなく、読むもの見るものも違うのではないだろうか?
ジュブナイルという小説のジャンルがある。昔、私はロバート・ハインラインの作品を良く読んだ。現在ではスティーヴン・グールドなどがその後継だろう。
ストーリーはいろいろだが、その内容は日本の子供向け、少年向け小説とは一味違う。どのような大人になるべきか、社会とはいかなるものであるかとかが書いてある。
例えば、なんらかの事情で子供たちだけが社会から隔絶されるという設定は日本の小説にもあるが、その後の展開が子供だましとジュブナイルは違う。
つまり、人間関係をいかにまとめるか、統治者がいないところで、どのように政治機構を作り上げるか、皆が満足する社会とはどうあるべきかということを考えさせる。そして公平、正義、権利、リーダーシップ、責任、決断といったものを子供たちに理解させる。その他、社会の仕組み、法律の意味、通貨の意味、そういうものを学ぶ。
他方、宗田理とか赤川次郎などを読んでいる子供は、社会の仕組み、例えば銀行、裁判というシステムをその本から学べるとは思えない。
もし異議があるなら、グールドのワイルドサイドを読んでからにしてほしい。
私の娘は子供の時、本を読む方だったが、せいぜいが宗田理だった。ヘッセとかハインラインを読んでいないので通貨とは何かなど今でも理解していない。おっと、外貨預金で儲けているようなのでそうでもないか? 

日本の子供だって政治について学んでいると言うかもしれない。だが、学校の教科書で王制、民主主義、三権分立なんて習うのと、小説であってもアメリカのジュブナイルを読んでリーダーシップや権利・義務を学んでいるとは大違い、とても連中には勝てそうない。それどころか最近は小説さえ読まない子供が増えている。
受験技術のみではCEOの能力どころか、平サラリーマンの必要条件、社会人としての常識、人間関係さえ学べないのは無理のない話だ。
人間には先天的に社会生活のための本能など備えていない。そしてまた私たちは天才ではないから自分で社会のシステムなど考えだすことはできない。だからこそ、社会というものについて学び、そしていかに生きていくかということを体得しなければならないのだと思う。
アメリカの若い企業家はそういう勉強をしているからこそ、経営とか社会常識を知るだけでなく積極性とチャレンジ精神を育んだのではないだろうか。

「CEOから高校生への96通の手紙」 ダグラス・バリー

出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
ディスカバー・トゥエンティワン4-88759-383-X2005年6月20日1300円全1巻

これは将来、CEOになりたいと思った15歳の子供が行ったプロジェクトの記録である。
彼は、世界中の大企業のCEOに手紙を出し、その回答をまとめて本にしたものである。
そして著者自身語っているが、驚くことに多くの大企業のCEOご本人が、見ず知らずの高校生からの質問に返事を書いていることだ。

その質問は
「リーダーの地位につくまでの過程で、転機になる出来事はありましたか?」
「リーダーになるためには、本や学校の他に知っておくべきことはありますか?」
その回答はさまざまだが、皆まじめに答えており、内容は私のような還暦男が読んでもためになると申し上げておく。

ひとつ提案である。
日本で中学生か高校生が、一般社会人に次のような質問をしたらどうだろうか?
「現在の職業に就くまでの過程で、転機になる出来事はありましたか?」
「社会人になるにあたって、本や学校の他に知っておくべきことはありますか?」
真っ向から応えることのできる人は少ないのではないだろうか? 
みなさんはどうでしょうか?


Yosh様からお便りを頂きました(2008.07.07)
「社会人になるにあたって、本や学校の他に知っておくべきことはありますか?」
この文面上から受け取れる答へは:
本や学校の他に何でも知ることは必要です。

多分深き意味があるのだらうが。
其れは本に書かれてること?学校で習ふたこと?の他か?

其れであれば:
これを質問した人は本に書かれてることを全て理解してるのか?それに学校で教はつたことを全て身につけたのだらうか?其の上で為されてるのか。

今でも私の先生の言葉「学校で英語の単語や数学の方程式を人より多く覚へることをするやうな無駄なことをするな、学校では社会に出ても如何に学ぶかを学べ!」が頭の中にあります。
並の能力しか持ち合はせぬ者には常時時に応じた知識を受け入れることのやうであります。
師匠は英語原本を読まれたのかもしれませんが・・
この本の中で多くのCEOがいう知っておくべき(持つべきものかもしれません)ことは、情熱と勇気と誠実さのようなものに代表されます
参考になりましたでしょうか?

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