ふるさとは遠きにありて思うもの 2008.05.10

私は二十歳くらいのとき、少しの間他所(よそ)で暮らしたことがあり、三月くらいの長期海外出張も何度かしたことがある。しかし二度と戻ってこないという意識を持って引っ越し、本籍まで移したのは50を過ぎた今回がはじめてである。それまで引っ越しは何度もしたが、生まれた町を中心にその周辺を移り住んだだけだった。
だから私は生まれてからずっと生まれた育った田舎町に住んできたし、死ぬまで田舎を離れるとは思いもしなかった。
当然であるが私は子供の時も社会人になってからも、正月とかお盆に帰る故郷はなく、お墓参りとか親戚の年賀の挨拶といっても我が家から車でせいぜい10分、20分の移動でまにあっていた。
都会に出た姉や妹とその家族が帰省してくると、家内は飯の支度、寝るところ、洗濯などのお世話をしなければならなかった。そして墓参り、親戚への挨拶、その他どこかに行きたいと言えば私が車で送り迎えをしたのである。
兄弟が帰ってくるのはうれしいことだとも言えるが、実際には受け入れ家族にとっては手間暇がかかり、自分たちの暮らしを犠牲にしてお世話することになる。そんな暮らしを50年してきた。
いずれにしても、私は自分が帰省というものをしてみたいとか、帰省するようになったらどうなるだろうなどと考えたこともなかった。

ところが青天のへきれきで仕事を変わり、都会に出てきて早や6年である。今ではお墓まいりをするには、新幹線で1時間半、さらに在来線を乗り継いで行かねばならない。こちらに来た当初は、お盆、お彼岸には律儀に線香あげに帰っていたが、時が経つうちに何事かなければ、帰らなくなってしまった。仏壇にお線香をあげておしまいである。
都会に出てきたとき最初に知り合った近所の人は、田舎が秋田なのでお盆お彼岸に田舎に墓参する代わりに靖国に参拝すると言っていた。
お父上が軍人だったとはいうが、戦死していないのに靖国参拝で代用できるのかどうか? 私にはわからない。
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田舎でお葬式とか結婚式があれば、重い腰を上げて出かけるが、ほとんど日帰りである。自分の家があるわけではなく、泊まるには親戚のところにお世話になるか、ホテルに泊まるしかない。
そんなふうであったが、姪が結婚するというので久しぶりに5月の連休に家内と田舎に帰った。

ということで帰省ラッシュというものを初めて経験した。
そりゃゴールデンウィーク、年末年始の混雑をテレビで見ているが、今まで混雑時期に帰ったことはなかった。昔、姉が墓参りに来た時、新幹線がひどい混雑だったなどとこぼしていたが、他人ごとと聞いていた。新幹線の中は、私を含めて、みな同じように土産や着替えなどを詰めたバッグを持っているというのはいささか不思議である。私たち夫婦も無個性の帰省客の一人なのだろうと思う。
とはいえ混雑といっても驚くことはない。たかだか1時間半、乗り継ぐローカル線は混雑とは無縁の過疎である。いやいや新幹線にしても、毎日の通勤電車の方がはるかに混んでいるし、実を言って乗車時間だって通勤時間と大差ない。
そんなことを思えば帰省ラッシュというほどのこともない。
ただ毎日の通勤と違い、田舎に帰るという非日常の旅行を期待しているから、ラッシュと感じるのだろうか?
それから旅費である。以前私が田舎にいて姉が来た時、家族全部で田舎に帰ってくるのに大金がかかるのよとこぼしていたが、自分が払う身になるとよくわかる。昔、田舎にいたとき九州出身の知り合いがいたが、家族で帰省すると100万かかるといっていた。それは少し大げさとは思うが、飛行機賃、宿代、土産などで相当金額になったことは間違いない。それに比べれば私などは恵まれた方だろう。
田舎に帰っても足の問題がある。田舎では電車やバスは利用できない。車がなければどこに行くにも誰かに送ってもらわないと、墓参りにも買い物にも行けない。そういう意味で帰省する方も楽ではない。今の私は10年前の姉と同じ立場で、電車賃も大変だし、出歩くにもまわりの人にお願いして乗せてもらわなくてはならない。
そして帰り着いた故郷は、自分の記憶にある風景とは大きく変わっている。親戚の家も建て換えているし、隣近所も様変わりである。近所の亡くなったじいさんが大事にしていた植木を一掃して一面の芝生に変えゴルフ練習場と化しているお宅もあり、物干しや犬小屋があった土の庭をアスファルトで舗装したお宅もある。車を置くには便利だろうが夏は暑いだろうと思う。
一番時間の経過を感じるのは、私が去った後に家を解体した跡地に、またたく間に雑草どころか柳やアカシアが生え、それがもう2m近くの高さになっている。そういった木の種は風とか鳥のフンで運ばれてくるのだろう。砂漠化とは日本にはない言葉のようだ。
しかし、どのような変化も、そこに住んでいる人が良かれと思っているわけで、更に日々の変化はほんの少しづつで住んでいる人にとっては気がつかない程度なのであろう。めったに帰ってこない者が昔の方がいいという権利などない。
それに記憶は薄れ、美化されており、以前本当にそうだったのかさえ定かではない。
そんなふうなことを感じて数日を過ごした。正直言うと、帰省するということは、あまり楽しくないのである。

昔住んでいたところ、生まれたところが故郷かというと、そうではない。故郷は心のあるところだとつくづく思う。
「故郷とは心のあるところ」とは赤毛のアンもリコ少尉も語っている。
一日しか住んでなくても、狭い我が家でも、借家であっても落ち着けるところが故郷である。
田舎から帰ってきて我が家で大の字に寝転がってそう思った。
昔、毎年お盆お彼岸に帰ってきていた姉も弟夫婦の家に世話になるのはあまり楽しいものではなかったのかもしれない。義理だから仕方がなかったのだろう。そう思うと何年も会っていない姉にすまない気がしてきた。

さて、もう二度と田舎に住むことはないだろうと本籍を移すことにしたのだが、これにからまる手続きがたくさんあってまいった。 インターネットで本籍変更にまつわることを調べてひとつづつ片づけた。
まず元住んでいた市役所から郵便で戸籍謄本を入手し、現住所の市役所に行って本籍変更をする。
次は免許証である。免許証の住所や本籍など次回の書き換え時まで放っておいても文句を言われることはないだろうが、通常の社会生活では身分証明になるのが免許証である。というわけで、すぐさま本籍変更をしなければならない。
../passport.gif パスポートもある。本籍が変わったときは記載事項変更をしなければならないことになっている。まあ、実際に本籍を変えなくても問題などないだろうが、万が一海外で事故にでもあったときにお叱りでも受けてはいけない。 
実を言えばその他、危険物取扱者免許などもしなければならないのだろうが、官公庁を歩きまわるのも疲れた。それに私が定年後にガソリンスタンドで働くこともないだろう。


本日の疑問
本籍の意味って何だろう?


あらま様からお便りを頂きました(08.05.12)
本籍について
小生も本籍をかえたことがあります。
それは、区画整理で住居を移転したとき、旧地名も変更になり本籍がなくなってしまったので、新しい地名に変更しました。
ところで、本籍は自由に決めることができるようですね。
人気の本籍が皇居、ディズニーランドというのも面白いですね。
今度変える事があったら、小生は靖国神社にしてみようかな。
そうすると、家族全員が靖国神社が本籍になるわけで、これは、家族の同意を得なければなりませんね。
あらま様 毎度ありがとうございます。
本籍で一番多いのが皇居だそうで・・・
それから国後、択捉に本籍を置こうという運動もあります。
富士山頂に本籍があるという人がネットに載っていました。
まあ、何事かあるときに戸籍謄本を入手するのが簡単なのがよさそうです。


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