判定委員会の疑問 09.01.29

この文は某誌に投稿しようと書いたのですが、思いに反しボツになってしまったのです。廃物利用というと聞こえば悪いですが、最近はリユース・リサイクルがもてはやされております。いずれにしても、私が本心から思っていることなので、ここで活用させてもらいます。

私は以前から疑問に思っていることがある。本日はそれを書く。
それは判定委員会についてです。
JAB基準をみますと、「審査機関の内部において登録の授与/取り消しについて決定する主体(個人でもよい)は、審査チームの審査プロセス及びそれに伴う勧告を評価するに十分な一定レベルの知識及び経験をもつことが望ましい」(JABRE300-2006 G.5.5.3)とありまして、必ずしも判定委員会というのを設けなければならないということはなく、認証機関に審査員の審査結果を評価する仕組みがあればよいようです。
しかし、現実にはほとんどの認証機関が判定委員会あるいは呼び名が違ってもなんらかの審議機関を設けていて、そこで審査報告書の内容を確認して認証の授与・継続を決定する仕組みとなっているようです。ようですというのは、私はそういうものに参画したことがないのです。
この判定委員会について以前から疑問に思っていることがあります。

その1
審査報告書の内容をどの程度詳細にチェックして判定しているものでしょうか?
例えばQMSでもEMSでも1000件程度認証している中堅認証機関を想定します。そうしますと月に2ないし3回判定委員会があるとして、毎回平均して30ないし40件の審査報告書を見ることになります。この会議の所要時間はどのくらいなのでしょうか? 仮に半日3時間半とすると1件5分ないし6分です。これでは表紙をながめておしまいです。丸一日8時間としても、1件10分ちょっと。一人の人が読んで決定するならともかく、複数の参加者がいればそれぞれが報告書を読んでから疑問とか意見交換するひまはないでしょう。それとも各委員は事前に配布されていて検討しているのでしょうか? それにしても意見交換する時間も、疑問点があった場合に証拠調べをする時間もないはずです。こんな短い時間では、真に審査員がしっかり審査をしてきたのかなんて評価しようもないと思います。
私の経験では、審査の結論にどうみても規格を根拠には不適合にならないような審査報告書もありましたし、証拠も根拠もないあいまいな文章で判定委員が判断するための情報不足と思えるものもありました。そういう審査結果に判定委員会は気がつかないのでしょうか? 判定委員会はチェック機能があるのでしょうか?
審査報告書を十分にレビューしておかしなことをリジェクトする時間がないなら、判定委員会の仕組みというか運用がJAB基準を満たしていないように思います。
また、十分時間はあるのだが、内容の適否を判定できないなら前述の「審査チームの審査プロセス及びそれに伴う勧告を評価するに十分な一定レベルの知識及び経験をもつことが望ましい」(同 G.5.5.3)に不適合であると思います。

現実に判定委員会で審査結果について再実施を命じたり、不適合を適合と覆したりすることがあるのだろうか?
私の20年近くの審査を受ける立場としてそういうできごとにあったこともなく、聞いたこともない。おかしな審査結果は数限りなくあるというのに。
ということは審査結果をすべてそのまま追認しているのだろうか?
もしそうなら判定委員会の存在意義はないことにならないのだろうか?
ちなみに最高裁の逆転判決の割合は3%とのこと。しかしゼロではない。そこに三審制の意味がある。もし判定委員会で逆転判決・・逆転判定がゼロであるなら、判定委員会の存在意義はないだろう。

ところで、文言についての疑問であるが、前出のJABRE300では「(前略)審査チームの審査プロセス及びそれに伴う勧告を評価する(後略)」とある。だからといってまさか、「プロセスのみを評価して、審査内容を評価する必要はない」などという論はないとは思うが・・

その2
審査で審査員が判定委員会に説明するのに必要だという理由で、手順書や記録のコピーの提供を求められることがままあります。最近はなくなりましたが、20世紀には判定委員会に説明するためとして、わざわざ審査員の求めに応じて改善事例の説明資料や各種グラフを作ったこともありました。判定委員会では審査報告書だけでは不十分で説明資料を必要とするのでしょうか?
組織の立場の論理から言えば、判定委員会は認証機関内部のことであって、組織は判定委員会に対しての説明責任を持ちません。判定委員会に対して説明責任を持つのは審査員のはずです。
こういった審査員の要請は、審査員個人が情報収集したいからなのでしょうか?それとも審査員が判定委員会で分かりやすく説明して、判定委員会がシャンシャンと進むように用意するのでしょうか?あるいは判定委員会がそういうものを必要としているのでしょうか。
JABの基準によると「登録の決定の基礎として、審査登録機関は、その決定を行うために十分な情報を提供してくれる、審査チームからの報告書を必要とする。JIAQ19011に定められている指針の該当する部分に基づいた報告を行う基準を確立することが望ましい。」(JABRE300-2006 G.5.5.2.)とあります。
後段が前段の報告書の要件にかかるのか、報告書以外にも情報源を必要とする意味なのか、この文章だけからはよくわかりません。前者の報告書の要件とするならば、報告書以外に組織にそのような資料を要求するのは論理が合いません。後者の判定委員会において報告書以外の添付資料を必要とするなら、前述したように判定委員会は短時間では不適当で、時間をかけて詳細な審査を行わなければならないことになります。このあたりはどうなんでしょうか?
組織とすれば、審査において規格適合か否かを判定してもらうはずです。わざわざ判定委員会のために説明資料を提出しなければならないのはおかしいと思います。そもそも、守秘義務の有無に関わらず、組織の文書などの情報を提供することは審査契約に記載してありません。

その3
その1に関連することですが、報告する主任審査員に対して審査判定について組織側が納得して同意したかを確認しているのでしょうか?組織側が審査の判定に不服があった場合は審査内容を詳細に審査することを期待したいです。
審査で審査員と組織が適合についての解釈について意見が一致しない場合は多々あります。不適合が多いからまけてくれとか、お目こぼししてほしいなんてのは論外ですが、証拠・根拠において規格適合について議論が交わされることはあります。
現実問題として、書面でもオープニングでも異議申し立てを説明しない認証機関や審査員は多々あるわけで、そういう場合、組織側は異議申し立てという仕組みがあることさえ知りません。ですから、審査の場が審査員の言いたい放題となるのは当然です。組織は目の前の審査員が了解してもらうしか方法がないと考えているわけですから。
ISO190116.5.7と6.6.1o)に若干それについての記述がありますが、過去私は組織側と意見が一致しないことについての記載がある報告書を見たことがありません。
判定委員会では審査における組織側の同意は審査報告書に組織代表者のサインのあることを確認すれば足りると言われるそれまでですが。
もっともその理屈なら、最終ミーティングでサインしないという選択肢もあることを説明しないと組織側はその選択肢があることさえ思いつかないのだが・・・

その4
判定委員会のメンバーの力量が確保されているという保証はあるのだろうか?
認証機関のウェブサイトなどに、「弊認証機関は公平・客観性を有する社外の有識者、消費者団体、社内のメンバーによる判定委員会を構成し、審査報告書を評価し認証を決定します」なんて表示してあるところもある。
大学の先生、消費者団体の代表が組織の審査について第三者であることは認めるが、ご本人がCEAR/JRCA登録とかIRCA登録とかしていないで、あるいはISO19011その他JABなどの基準類を知らずに、審査報告書の要件を満たしているのか、審査員の判定が適正であるのかを判定できるのだろうか?
審査員の要件より、判定委員会の要件の方が客観性とともに、審査の力量を要すると思うのは私だけではないだろう。

はたして判定委員会とはいかなるものなのだろうか?
それは機能しているのだろうか?
ご存じの方いらっしゃいましたら、ぜひともご教示願いたいと思います。



まきぞう様からお便りを頂きました(09.02.14)
判定委員会について
こんにちは。判定委員会が機能しているか、確かに疑問です。誤字脱字のままで、クロージングの時につっかえながら読んでいる報告書を、なぜ是正しないのか以前から疑問に思ってました。
来週から当社は審査が始まるのですが、昨年の審査で工事残土の土壌から出てきた化学物質の処置について、現地を見なかったという理由で、判定委員会で問題視されたらしいです。へー、と思いました。
なので、今年もう1回現地を見るそうです。もう建物建ってますけど、何の意味があるんでしょうか。当時対応した者としてつきあうよう言われたのでくっついていくことになりました。今度は判定委員会が何を言うのか楽しみです。

まきぞう様 お便りありがとうございます。
報告書でSVOCがおかしいとか、日本語になっていないとかというのは多々ありますね。まあ、彼らも時間に追われているからそういうこともあるのでしょう・・
なんて言っていいのか!?
あの報告書が何十万、百万とかするんですから、もちっとしっかりしてほしいものですよね!
ところで汚染土壌を見ると汚染がわかるのでしょうか?
どうせ分からないなら、書面におかしなところがないかしっかり見た方がよいようです
案外、判定委員会に市民代表がいてしっかり見て来いなんてねじを巻いているのかもしれません。
まきぞう様、ぜひ判定委員会にも現地調査に参加していただいたらいかがでしょうか?


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