事業継続マネジメントシステム 09.02.21

BCMとは事業継続マネジメントシステム(Business Continuity Management)のことで、なんでも企業が継続して事業を推進していくためのツールだというか、仕組みらしい。らしいというのは語る人、組織によってニュアンスが異なるからだ。
現在の世界的な大恐慌はいうに及ばず、いつだって営利事業を営む企業にとって安穏、平穏、平坦な時代はない。不況・好況にかかわらず毎年多数の企業が倒産し個人事業者が夜逃げしているのだ。事業を継続するというのは稀有とまではいわないが、ともかく一筋縄ではない。
更に言えば、そもそも事業というのは継続できるものなのか?という命題に答えた人はいないし、事実としてもそれは証明されていない。三井とかロイドのように数百年の歴史のある企業もあるが、存在する企業の平均年齢は30年くらいと聞く。昔、企業30年寿命説が唱えられたこともあった。そんな現実を考えると、BCMなどと称する事業を継続できるようにする仕組みがあるとは思えない。
ところが更に驚くことに事業継続マネジメントシステム認証という制度があるという。ひと様の会社を審査して、あなたの会社は事業継続が大丈夫でしょうなんて保証することは、恐れ多いというか、確信を持って言えるものだろうか?
BCMの認証事業はその性質からいって、監査法人とか保険会社が行うものかと思ったが、ISO認証機関も事業の延長として行っている。ISO認証機関とはISO9001とかを審査する会社である。そういう会社が事業継続を見て分かり、判定できるものだろうか?

某認証機関のBCM認証の宣伝
昨今、企業は首都直下型地震からテロ、あるいは新型インフルエンザまでのさまざまな災害リスクにさらされており、これらのリスクへの事前対応として事業継続マネジメント(BCM)への取り組みが求められています。
また、BCMへの取り組みは組織の社会的責任の一つとしてますます重要となってきており、企業に対する格付けにも反映されています。
BCMへの取り組みは、企業のレジリエンシー(弾力性のある回復力)を向上させ、結果として様々なコスト削減やビジネスプロセスの再構築を可能とするとともに、同時に組織のレピュテーションやブランドを保護し、競争優位性を確保することができます。
BS25999認証取得の企業にとってのメリット
BS25999への取り組みにより、些細な事故から大規模な災害まで、企業を取り巻く経営環境における様々なリスクを明確にし、組織の事業中断による影響を特定し、対応力や復旧力を強化することができます。
BCMへの取り組みにより、組織の競争優位性を確保するとともに、さまざまな利害関係者への説明責任を果たすことができます。
組織全体の事業プロセスの中で、優先的な投資領域を決定することができ、結果として部分最適ではなく、全体最適を実現できます。

これを読むとその内容は一般的な意味の事業継続というより、危機管理のための組織体制整備というべきだろう。名は体を表さずというか、おおげさなのか、誇大広告なのだろうか?
しかし、と思う。トリプルボトムラインといわれるが、損益は企業存続の最大の要件である。売り上げ減では、地震が来なくても、テロが起きなくても、事業継続できず倒産である。
ということで本日は一般的な意味の事業継続を考えよう。
売上より支出が多ければ赤字であるが、それが即倒産というわけでもない。ベンチャーや新事業においては売上がゼロでもいつの日かヒット商品を出し莫大な利益がでることを期待して、投資する人が後を絶たず、株価は天文学的になり、お金が入り続けて倒産しないケースもある。もっともこの場合でもすべてが花開くわけでもなく、新エネルギーとかIT関係の会社では売上を出す前に会社が消滅するケースもある。
今現在、日本に認証機関はQMSが48社、EMSで43社ある。(2009.02.20JAB認定数)日本のQMS登録組織が約4万、EMS登録組織が約2万であるから、平均して一認証機関あたりQMSが700組織、EMSが350組織となる。一般に登録組織ひとつの売上は100万と言われているので、平均的認証機関の売上は10億となる。
世間では俗に認証1組織100万と言われているが、公表されている認証機関の損益からみると平均60万円ないし70万円と思われる。そして、この金額は時代とともに下がりつつある。なぜなら大企業はほとんど認証してしまっており、今後登録される組織は今までに登録された規模より小さい企業が主体となるからだ。
実は今あげた数値は机上の空論である。というのは現実は一部のガリバー企業が市場の多くを占有し、残りを数多くの弱小認証機関が分けあっている。QMSのトップ企業は25%、上位6社で半数を占めておりEMSでもトップ企業が25%上位4社で半数を占めている
(出典 JABウェブサイト)

登録件数順に認証機関を並べると、順位の中央、つまりQMSで上位から24位の認証機関は340組織を審査し、EMSで上位から21番目の認証機関は200組織を審査している。最下位となるとQMSでは10数組織、EMSではひと桁となる。
もうこれを見ただけで下位の認証機関の経営者は大変だろうと推察する。
認証というビジネスは大変競争が激しいともいえるが、どう考えてもひとつの事業分野に50社も参入していることは素人目にも多すぎの気がする。それだけ参入障壁が低いということもあるのだろうが、業界団体ごと、地域ごとなど「おらが認証機関」を設立したことが乱立の原因だろう。

ちょっとシミュレーションというか頭の体操をしよう。
認証機関の事業としては、審査そのものと審査にまつわる講習会や出版事業がある。以前は審査とコンサルがタッグを組んで美味しい汁を吸っていたはずだが、それは今は昔である。
この中でもちろん審査がメインである。審査といっても金のなる木はQMSとEMSだけだ。労働安全やISMSなどはEMSやQMSに比べてひと桁少ない。CDMとかCO2排出などになるともう微々たるもの。
さて、QMS認証が300組織、EMS認証が200組織という認証機関を想定すると、売上は1件70万として3億5千万である。
多くの認証機関は講習会や出版を行っているが、昨今こういった需要は減少しているようである。審査員のセミナーなど私が受講した97年頃は月に数回開催されていたが、すぐに満杯で受講は順番待ちだった。今ではどの研修機関も月一回くらいの開催と少なくなっており、受講者も20名フルということはないと聞く。そして集まらないときは流れてしまうこともあるらしい。おっとそれどころか研修機関も10年くらい前に比べると減ってきた。場所代、人件費を考えると20名フルは無理としても、12名くらいはいないと費用回収ができないだろう。
出版事業はこれだけISOに関する情報が広まり安く入手できる時代には利益が出ないだろう。

では3億5千万の売上を達成するためにはどのような費用が必要となるか?
認証機関の費用構造は、人件費、建物賃貸料、広告宣伝などである。まず人件費として審査員は何人必要か?
500組織で平均4.5日とすると、2250人日の工数が必要となる。
70万と仮定して逆算しても同じになる。審査費用は一般的に13万/日から18万/日の間だ。中堅認証機関であれば大手より高いことが多く、仮に15万/日とすると、2300人日になる。同じ値になるのは当たり前だ。
審査員の稼働率を週3日として156日/年、2300割る156で15名の審査員が必要となる。もちろん繁忙期はアウトソースすることも可能だ。審査員の人件費の分布は極めて幅広いと聞くが人件主費と副費を合わせて年1000万から1500万と仮定し、平均1200万としよう。とするとこれだけで1億8千万となる。営業その他の要員を10名として派遣を活用しても、この人件主費・副費で8000万はいくだろう。
次に場所代だが、多くの認証機関は丸の内、赤坂、霞が関、ミナトミライなんて一等地に事務所を構えている。ちょっと落ちても品川、茅場町である。これでは家賃は相当高いだろう。一般的なオフィスは従業員一人当たり3.5坪前後であり、商売柄応接室もほしいだろうから合わせて100坪、坪家賃2万ないし3万で年間3000万となる。
../okane.gif 出張旅費は通常実費請求だ。審査費用にコミしているところもあるが、その場合は人工費用に織り込まれているので出入りはない。
営業費用もある。営業マンはつてを頼って日本中歩いているようだ。審査員がトラブルを起こせば菓子折りをもって謝りに行くこともあろう。この場合交通費は請求できない。
宣伝も考えなければならず、月刊誌1ページで20万から30万、年間300万以上、数誌に広告を出せばそれだけで1000万である。パンフレットもある。これも負担が大きいようで大手と言われる認証機関でも認証のパンフレットは年に1度くらいしか更新しない。それでも1部二・三百円として年間数百万。そのほか、会社案内とかQMS・EMSごとにパンフレットを作れば都合2千万くらいはいく。
そのほかにOA用紙、コピー代、電話代、パソコン代、インターネット費用、名刺、便せん、封筒など考えると大変だ。
「紙・ごみ・電気」を卒業しようと言いながら、審査で必ずと言っていいほど紙削減を見るのは、審査員が社内で紙を使わないように厳しく言われていることの反映だろうか? 

もろもろ合わせると3億5千万近くなる。
実際はどうかというと、損益を公開している会社は少ない。公開していてもISO審査以外の事業をしている組織は審査だけの損益が分からない。ともかく公表されているものから推し量ると、認証機関の損益はみなかつかつで利益率が2%とか3%というのが普通だ。5%を超えるところはないだろう。10億の売り上げで利益が1000万なんていうのは俗な言葉で言えば鉛筆をなめているのだろう。
先立つものは金という。トリプルボトムラインの基本である利益がしっかりしていなければ認証機関の事業継続は大丈夫だろうか?

本日の提言
認証機関が事業継続マネジメントシステムの認証事業を始める前に、ご自身が事業継続できることを立証すべきではないだろうか?



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.02.21)
認証機関が事業継続マネジメントシステムの認証事業を始める前に、ご自身が事業継続できることを立証すべきではないだろうか?
朝から爆笑させていただきました。
昨今、認証機関の統廃合が進んでいますが、吸収される側の認証機関は事実上破綻状態なのでしょう。自身で事業継続できていないのに顧客の事業継続を審査するというのは不思議な話です。
いやいや、もっと不思議な話があります。
不祥事を起こした登録組織の認証を停止するのはよく見かけますが、不祥事を見抜けなかった認証機関は、自己の審査能力の不具合、すなわち不適合に対してどのような是正処置をとっているのでしょうか。
そして、認証停止の解除にあたり、自己の是正処置が有効であったことはどのように確認できているのでしょうか。
こうした情報を公開している認証機関を見たことがありません。
さぞや登録組織のお手本となる立派で効果的な是正処置をされているはずです。ぜひとも公開して欲しいものです。

ぶらっくたいがぁ様 コメントありがとうございます。
敗軍の将兵を語らずといいますが、たとえば倒産した会社の社長が「どうして倒産したか」を語るならわかりますが、いかに会社を経営すべきかという講演をしても客は来ないでしょうね
不祥事を起こした会社の認証を停止/取り消した認証機関がどのような是正処置をしたのかとなりますと、これはかなりおおごとで政治的なことですからパス
そんなおおごとでなく、審査で間違った判定をしたとき質問申し上げてもなんらまっとうな回答がないのですが、その是正処置はいかが致されたのでしょうか?大いに興味ではなく関心ごとであります。
もし、是正処置として審査員教育を必要とするなら、当方は講師を承る用意がありますと言いたいところです。


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