手順書の話 09.02.22

インターネットでISOに関するウェブサイトをさまよっているといろいろなものに出会う。コンサルタントの宣伝、認証機関の宣伝、ISOにまつわる愚痴や恨みつらみ、泣き言や繰言、認証しましたという喜びの声、私のような単なる自己顕示のところもある。人を指導したいというのもおせっかいにすぎない。ISOのための文書を売っているところもある。マニュアルもあれば、その下の指示書レベルもある。今のISO規格では手順書というのが上位レベルから下位レベルまで含むようなニュアンスがあるが、昔のISO9001:1987では上位はprocedure、下位はwork instructionと分けていたと記憶している。
はっきりいってマニュアルは規格と会社の仕組みの対照表であり会社によって内容の違いは少ない。会社のユニークさが現れ、ノウハウ、ノウホワイが詰まっているのは下位文書である。一度ネットで売っているものがどういうものか興味があったので冊子を買ったことがある。まあ、その結果はお金をどぶに捨てたとしか言いようがありませんでした。送られてきたのはまったく価値のない代物でした。

すこし前、ある工事現場に監査に行きました。そこではたいした化学物質など使っていませんでしたが、機械や設備を設置するときこすったりして塗料がはげたりするとタッチアップはしています。そんなわけで接着剤や塗料を4キロ缶単位で保管しており、工事完了になると当然それを廃棄しているわけです。私はそういう化学物質の管理の手順がないという不適合を出しました。
やがて日がたち是正計画が送られてきました。「化学物質管理手順書」とか、まあそういう名称の文書のドラフトがついてました。手順書を拝見しますと「目的」という条項から始まっています。「目的」という条項があるのは階層が上の文書と決まっています。法律でいえば、基本法には必ず目的があります。一般の法律には「目的」という条項があるものとないものがあります。施行令にはまずありません。省の規則には見たことがありません。作業手順書で「目的」という条項から始まっているので期待が持てます。(うそです)
  1. 目的
    この化学物質管理手順書は、化学物質を安全に使用、保管、廃棄するための手順を定める。

    いやいいですね〜期待が高まってきました。

  2. 定義
    化学物質とは生態系に有害な影響を与える・・・・

    私はここまで読んでもうがっくりときて、その手順書を放り出したかったのでありますが、まあそこは仕事、グットこられて最後まで読み通してから放り出したのです。

私が仕掛りを絶対に持たない男であることは何度も言っている。私はすぐに先方の責任者に電話した。
「是正処置として送っていただいた手順書のことですが・・・」
「いかがですか?力作だと思っております。」
「あのですね、私が想定していたのは、ああいった理念とか一般論でなくてですね、何も知らない人が読んですぐに仕事ができるものだったのですが。」
「????」
といったことのやりとりがあって、結局私がサンプルというか雛形を作る羽目になった。内部監査でもなくひと様の会社に二者監査に行っても、是正処置の指導どころか実際に文書まで作ってしまうとは人が良いというべきか、単なるあほと言うべきか?

作業手順書: 化学物質の使用方法
作成おばQ 09/12/28検認正太 09/12/31改定 

  1. 使用前に行なうこと
    1. 塗料の選定
      ・・・
    2. 安全性の確認
      ・・・
    3. 法規制に関わる確認
      ・・・
    4. 社内での使用許可手順
      ・・・
    5. 使用方法を決めること
      ・・・
  2. 使用時の方法
    1. 教育
      安全・衛生・事故時の処置、保護具、換気方法など・・・
      ・・・
    2. 作業方法
      ・・・
      ・・・・

  3. 廃棄の方法
    1. 廃棄物契約書の締結
    2. 特別管理産業廃棄物の場合
    3. ・・・・
  4. 届出など
    1. ・・・
    2. ・・・・
    3. ・・・
文書番号 ABC-2356 改定C

私が作業手順書を書くようになったのはもう40年も前のこと。
生産現場でねじ締めをしていて、あるとき上長(課長とか部長ではなくもっと下の監督だ)から、誰でも同じように仕事ができるようにねじ締めの要領書を作ってほしいといわれた。当時の現場は尋常小学校卒業とか中卒ばかりだったから、高卒は学があると思ったのだろう。
私が入社したとき、戦争に行った人はまだ40代、学徒動員で軍需工場で働いていたという人は30代であった。
ねじ締め作業とは簡単でもないが高度な技能でもない。ちゃんと手順を決めて明確に示せば普通の人ならできる範疇の仕事である。私がまじめなのは子供のときからである(大いに怪しい)。私は自分の経験と、先輩のヒアリングを行って仕事のコツとか注意点を書き綴った。そしてそれを誰にでもわかるようにあらわすことを考えた。

    ねじ締めという作業をするとき、なにをどんな手順でしているのだろうか?
  1. まず図面から締め付けに際しての注意事項を読み取ることが第一である。
    ねじの太さや長さから、締め付けトルク、締め付け順序、締め付け後のチェック、安全や錆止の注意、その他もろもろ
  2. ドライバの選び方
    通常のニューマチックドライバでよいのか、特殊なインパクトドライバなのか、手回しなのか、電動なのか、トルク規制できるドライバなのか・・・
    選ぶ基準はなにか、何に基づいてするのか、
    該当するドライバがないときはどうするのか
    単に文章にするのでなく、表形式にして縦横に条件を書き、該当するところを追って行けば使うドライバが分かるようにしたい。
  3. ドライバビットの選び方
    形状、長さ、硬さ、磁化の可否・・・・
    当然のことながら対応するビットを用意しておかなくてはならない。
  4. 服装・保護具
    ・・・
  5. 作業環境
    ・・・
  6. 実際の締め付け要領
    手順、良否の判断基準、うまくいかないときどうするか・・・
  7. 故障時の対応
    故障したとき、どこまで作業者ができ、どこからメーカーに依頼するのか、
    修理依頼するときは誰にどの伝票で依頼するのか
    故障したときの代替をどうするのか
    ・・・

そのとき私は過去の文献(?)を知らず頼らず、すべて自分で調べ自分で考えた。そして皆さんがお読みになっている通りの小学生のようなサルにもわかる文章でそれを書いたのである。
文章を書くのに漢字を多い方が良いのか?少ない方が良いのか?漢字の割合が何パーセントぐらいが良いのか?そんなことを考えたことがありますか?
自分が知っているからとか、常用漢字だからという理由で決めてはいけません。一般的に漢字の割合は40%くらいが読みやすいといわれています。パソコンモニターでは漢字が多いと読みにくいので、私はこのウェブサイトの漢字の割合を30%から多くても40%以下にしています。ですから通常「漢字」を使うところも、その付近の文章に漢字が多いときはわざと「かな」にしているのです。
私は小学生のような文章を書いていますが、小学生のレベルなのでそういう文章を書いているのか、それとも小学生にも分かってほしいからそういう文章を書いているのか、どちらでしょうか?
私の作ったねじ締め手順書を読んだ上司が感心したんですね〜
それが私のコーポレートラダーをあがるきっかけであります。 

何事も階層によってするべきこと、具備すべき条件は異なる。部長が言ったからとそのまま部下に伝える課長は無用です。火の用心というたとえがありますが、階層を下る毎にビジブルに具体的にしなければなりません。アクションプランというか計画というのは全体計画をパート毎、時期毎、担当毎に細分化するたびにより詳細に具体的にしなければ細分化する意味がありません。このように、職務であっても、計画でも、そして文書であってもそれは同じです。
文書であれば、上位の文書より下位の文書になれば具体的に読んでわかるように書かなければならない。
環境方針、環境目的、環境目標、環境実施計画と階層が下るにつれて具体的に、詳細に、ビジブルにならなければならない。
文書体系図 よく文書体系のピラミッドの絵を載せている本があるが、その意味を理解しなければならない。もっともその本を書いている人ご自身もその図の意味を理解しているのかどうか疑問である 
巷で売られているISO文書のほとんど、そして実際の会社の文書の多くが、上位から下位まで似たようなことを繰り返して書いていることが多い。そんな文書に価値はない。
ただ下位文書は現実を表さなくてはならず、売っている文書のひな形は、会社の実態を知らないので具体的に書けないという不利な条件にある。
もっとも現実を想定して手順書の具体例を示すことができなければ、お足をいただく商売をしようなんて間違っている。
一時リバイバルした「もったいない」という言葉もすたれたようだが、無駄なことをしないというのは経済だけでなく自然界の鉄則である。人体の臓器でひとつの仕事しかしないというのはまずない。一人二役、三役するのが当たり前。例えば骨は体を支えたり動かすだけでなく、内臓を保護したり、カルシウムを貯蔵したり、血液を造ったり多機能なのです。
もし階層が異なる文書が同じことを書いているなら、それは壮大な無駄でしょう。もし上位と下位の文書で同じことを書いているなら、その文書だけでなく文書の階層を減らすことができるはずです。
図面では一箇所の寸法は一個しか書かないのが鉄則です。複数書くと改定のとき漏れるおそれがあるし、なによりも製図工として同じ寸法を二つも書いたら恥ずかしいじゃないですか?

本日のおさらい
手順書ってなんでしょうか?
もちろん手順を書いてある文書だよね、じゃあ手順書に5W1Hは書いてありますか?
それじゃ、手順が書いてない手順書は自今以降、矛盾書と呼びましょう。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.02.22)
手順書ってなんでしょうか?
もちろん手順を書いてある文書だよね、じゃあ手順書に5W1Hは書いてありますか?
手順が書いてない手順書は自今以降、矛盾書と呼びましょう。

5W1Hどころか、中にはそもそも誰が何のために使うのかよくわからない文書だってありますよね。まるで盲腸のような文書が。(もっとも、盲腸は無用どころか人体の免疫力をコントロールする未知の重大な役割があるかもしれないらしいですが)
私がいわゆるISO統合の仕事に取り掛かったとき、既存文書の整理として最初に廃止を決めたのは「環境方針策定手順書」でした。考えれば考えるほど、これほど珍妙な文書もないだろうと思います。いやしくも企業のトップが、環境方針を定めるにあたって手順書を参照しながらあれやこれや頭をひねる図は、想像すらつきません。
ちなみに、これには「法令順守のコミットメントを含めること」とかが書いてありました。もういかにも規格の要求を取りこぼししないために、つまり、審査で不合格にならないためにある文書でした。
「書を捨てよ、町へ出よう」改め、「手順書を捨てよ、現場へ出よう」というところでしょうか。

たいがぁ様 毎度ありがとうございます。
なるほど、手順書には手順が書いてないというケースもあり、無用な手順を決めているというケースもありますね。
9000にしても14000にしても、手順は必要ですが、手順書にしなくてもよいというものは多く・・イカンイカン、我々は規格適合が目的じゃなく、会社を良くするのが目的でしたね。

私たちは必要な手順書を作ります。
規格に合っているかいないか、そんなことどうでもいいことです。
規格適合で会社が良くならないより、規格不適合で会社が良くなった方がいいじゃないですか。
そのときは規格を改定すべきでしょう?


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