審査員の力量 09.08.01

本日は怒りに任せて書いた3000字!
文句あるならかかってこい! おれは怒り心頭だ

システムが適正かそうでないかを判断する方法は二つある。ひとつはシステムの仕様を基にシステムの構成要素をひとつづつ評価していく方法であり、他の一つはシステムの内部は考えずに、インプットとアウトプットを比較してシステムが適正に機能しているかを評価する方法だ。
難しく聞こえるが非常に簡単なことだ。子供に勉強しろといったときを考えてみよう。
ちゃんと勉強しているかどうか、つまり机に座っているか、本を読んでいるか、学校の行き帰りには暗記ものの勉強をしているかをひとつずつチェックするという方法もある。そうではなく、なにもせずに放っておいてテストの結果を見て判断するという方法もある。もちろんどちらにもメリット・デメリットはある。
ISOマネジメントシステム規格ができた当初は前者の仕組みだった。もっとも正確に言えば1987年版はマネジメントシステムと大仰なことは言わず品質保証システムと謙遜していた。
さて今現在はISO9000もISO14000もマネジメントシステムという呼称さえ物足りないようで、経営の規格だという。
経営ってどこからどこまでなのだろうか?
資金計画、人員計画、人事処遇、事業計画、販売計画、国際戦略、買収、合併、乗っ取りそしてその防衛・・そんなことを規格化することができるのだろうか?
ISO9000やISO14000規格を作る人たちはドラッカーやアイアコッカのような人たちなのであろうか?
どうもそうは思えない

さて冒頭であげたふたつの方法であるが、「経営を評価する」となると個別項目ごとに○×をつける方法はなじまないことは誰でもわかる。果たして何を見るのだろうか?
プロセスアプローチなんて語っているが、何を観察するのかは定かではない。経営なのだから、経営指標なのだろう? 違うかな?
経営コンサルタントのように会社の経営指標から判断するのだろうか?まさかISO規格要求事項との適合・不適合を判断するような幼稚なことはしないだろうと思う。

問題が二つあることがわかる。
ひとつは何を持って経営を評価するのかということ。ISO規格要求事項だけからはそのようなことができるはずがないということ。
ひとつは個別項目ではなく、経営全体を見なければ評価するはできない。もし個々の要求事項を満たしていけば完璧な経営になり事業はグングン伸びていくというなら、この世界大不況をぜひとも救ってほしい。
ISO9000もISO14000も認証件数が減少している現実をみれば、認証機関にそのトレンドを打破改善していく経営力がないことは明白だ。
悔しかったらISO認証件数を伸ばしてからものを言え
「品質マネジメントシステムが規格適合かどうか」見てあげますよというのが本来の第三者認証の意味であったが、最近は「会社が良いか悪いか判断する」ものになったという。なにしろその会社で法違反があると品質マネジメントシステム認証を停止したり、取り消したりするのだから、意味としてはそうなのだろう。

認証機関の幹部のお話によると、審査対象となっているマネジメントシステムに関わらない法違反を見つけても不適合として是正を求める、あるいは認証しないという。
この文章を読んだだけでへえ!と思うところは多々ある。
まず法違反かどうかコメントできるのは行政と弁護士だけだ。そして決定できるのは裁判所だけだ。ISO審査員の中にも弁護士はいるかもしれないし、行政機関が設立した認証機関もあるだろう。
だが審査員のお立場であるなら、そのようなこと、つまり企業にコメントしアクションを求めることは己が法違反になるのではないだろうか?
次なる問題というか疑問であるが、ISO審査員はまず審査員補として申請するときは品質なら品質に関する知識を証明するもの、環境なら環境関連の知識を要求される。そして審査員をしている人たちはそういう関門を通ってきた方である。品質や環境に関する知見は十分であるはずだ。しかし品質すべてにわたって、あるいは環境全般の専門家でないことも事実である。そもそも環境全般についての専門家になることが可能だろうか?

公害関係については詳しいですよ。排水処理施設の運転もできます、ボイラーの運転もできます、環境計量業務も、省エネもバッチリ、環境配慮設計については修士論文を書きました、グリーン調達に関しては博士論文を書きました、化学物質管理については業界団体の一員として欧州に調査に行ってきましたわ・・そんな人がいるわけがない。
そんな人はいないだろうと思うが、現実にはISO審査員は公害についても、排水処理施設についても、ボイラーの運転についても、公害測定についても、省エネについても、DFEについても、グリーン調達についても、REACHについても一人前のことを語り、自分自身それを不思議ともなんとも思っていないようだ。
それは不思議なことである。
それとも不思議と思うのは私一人であろうか?

百歩譲ってISO14001の審査員は環境に関してもうパーフェクトな知識を持っているとしよう。
私の仲間からは廃パレットが一廃と思っていた審査員に教育してやった話とか、どこもおかしくないマニフェストに法違反だと不適合を出された話なんかたくさん聞く。それが事実とすると審査員が完全無欠であるはずはない。
おっと法律でなくても、順守評価をしていない会社があったが不適合にしない審査員がいた。審査をするならISO規格くらいは勉強しておいてほしいが、忙しい審査員はISO規格さえ覚える暇がないようだ。
いや、審査員に間違いがあるはずがない。その証拠に審査員に異議申し立てした話など聞いたことがないし、審査員更新時に異議申し立てを受けているから更新不可になったということも聞いたことがない。

千歩譲ってISO14001の審査員は環境に関して神のごときお立場にあるとしよう。しかし環境ISO審査員は下請法について詳しいのだろうか? 派遣業法について専門家なのだろうか? 独禁法はどうか? 外為法は? セクハラは? 商法は? 会社法は?

いや待ってくれ、そんな大仰なことでなくても、審査の基準であるISO19011やISO17021あるいはJAB基準類をどのくらいご存知なのだろうか?
アイソス09年1月号に某認証機関のエライサンが、審査員はISO17021を理解して審査を行うべきと書いていた。
推して知るべし。

本日の疑問
マネジメントシステムは経営の規格かどうかなど、大所高所の議論は私にとって難しすぎる。もっと身近で簡単なことがわからない。
会社に行って審査をしてEMSでもQMSでも認証しておいて、その会社の不祥事が報道されると認証を取り消した場合に、なぜその認証機関の認定が取り消しにならないのでしょうか?
審査員の力量ってなんでしょうか?



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.08.02)
会社に行って審査をしてEMSでもQMSでも認証しておいて、その会社の不祥事が報道されると認証を取り消した場合に、なぜその認証機関の認定が取り消しにならないのでしょうか?

話はカンタンです。そんなことをすれば、そんな認証機関を認定していた認定機関の認定取り消しといった問題に発展するからです。タコが自分の足を食うようなもので、そんなことをするはずがありません。
しかし、筋から言えば不祥事の発覚(隠蔽されていた重大な不適合が発見された)を理由に認証機関が登録組織の認証を停止した場合、停止解除までの間は認証機関も認定停止にしなければ片手落ちというものです。
それに対して認証機関側からは次の反論がありそうです。
  1. 審査はサンプリングに基づいて行われるものであるから、発見できない場合もある。
  2. 当該組織のマネジメントシステムの仕組みが妥当であることを認証しているのであって、アウトプットを認証しているのではない。
  3. 仮に認証機関が認定停止になったとすれば、不祥事に関係ない他の登録組織も認証停止ということになり、迷惑が及ぶ。
しかし、この反論はいかにもおかしい。以下、反論への反論。
  1. そのサンプリングの方法や基準がいい加減なのではないか。認証機関のホームページを見ると認証停止の告知をよく見かけるが、逆に審査で見つけたので認証停止にしたという告知など見たことがない。
    つまり、審査では一切発見できていないということであり、サンプリングの限界などというのは免罪符に過ぎない。
    そもそも、組織側が顧客に対して不良品の市場流出の理由を「サンプリングの限界」などと口に出した日には、もう取引停止は必至である。
    自社の品質保証能力がいかに未熟であるかを宣言するようなもので、認証機関は厚顔無恥という言葉を知らないのであろうか。
  2. それであれば、不祥事が発覚したこと(アウトプット)を理由に認証停止にするのは筋違いである。不祥事の発覚を契機に臨時審査を行い、プロセスにそれを裏付ける重大な不適合が見つかったという理屈はいかにも言い訳臭い。それにプロセスに瑕疵があったというのなら、なぜ今までの審査でそれを発見できなかったのか。不祥事が発覚しないとそれがわからないということは、認証機関としての力量がないとしか言いようがない。組織(のトップマネジメント)は、不祥事が公になって大きなダメージが発生するリスクを軽減・回避するために大金を払って審査を受けるのである。その期待に応じることができないのであれば、それはプロの仕事ではない。
  3. 認証機関の認定停止中は、他の登録組織を他の認証機関に一時的に預ければよい。他の登録組織にすればその間は違った審査を受けられるので、なかなか得がたい貴重な経験になろう。
    そもそも水平展開というものを考えた場合、不祥事をただの1件も発見できない認証機関の審査を受けた組織を、他の認証機関が審査するというのは好ましいことである。
ところで認定停止うんぬんはさておき、企業の不祥事を見逃した認証機関は、自ら行った是正処置を公表することで、いかに自社の品質保証能力が向上したか(この場合は、いかに不祥事の発見能力が上がったか)をアピールする大チャンスだと思うのですが、これを行った認証機関を私は知りません。
是正処置、あるいは継続的改善とはこのようにやるのだという絶好のお手本になるはずですが、なぜ公表されないでしょうか?
そんなことをしてまた他の不祥事が発覚すれば赤っ恥をかくことになるので、とてもできないということでしょうか。

ぶらっくたいがぁ様 毎度ありがとうございます。
私の疑問にすべて回答いただきました。
しかし、改善する方法はないということでしょうか?
ISOとは悲劇なのか? 喜劇なのか?



審査員の力量 2 10.05.23

私はいつも審査の質が問題だと語っている。そんな私の話をお読みになられた人の中には私が審査員になったらさぞかしすばらしい審査員になるだろうと思うかもしれない。
実を言って私は自信がない。たぶん並み以下の審査員にしかなれないと思う。
まあ、話を聞いてください。

審査員の力量というものは、ISO規格を知っているだけでなく、ISO17021あるいはISO19011その他JAB基準などを知り適正な審査ができれば良いというわけではない。
あるいはそれに加えて認証機関の規則や統一見解(そんなものはないというのが認証機関の公式見解ではあるが)を知り、認証機関の様式に基づいて審査報告書を書ければよいというのではない。

実は審査員の力量として求められるものはそんなものだけじゃない。
まず肉体的なものがある。
毎日毎日出張の連続である。電車や飛行機に乗ると乗り物酔いするという人は今どきいないだろうけど、乗り物に乗るのが苦手な人には不向きだ。
私は審査員ではないが内部監査というお仕事をしており、年間の出張日数は80日をくだらない。一年は365日であるが土曜日曜が休みとなった現代では祝日などを引くと年間の出勤日は250日であるから、出勤日数の3分の1以上はお出かけである。なんだたった80日かと言ってはいけない。監査というものは現地に行く前に現地での調査時間以上に過去の監査結果や不具合あるいは事業内容や環境施設、該当法規制などを調べる。あまり行ったことのない都府県であれば関係する条例や要綱あるいは指定地域などについて調べなくてはならない。また現地監査後にも報告書のまとめ、被監査部門との調整などがあり、そういう前後の作業を含めると現地監査日時の3倍くらいかかる。だから年に80日というのはほぼ限界だ。ISO審査員の中には年間出張を120日しているとかそれ以上というお話を聞くが、事前準備を十分にしていないのか、あるいは数をそろえるための審査員ではないのだろうか?
だから現地への往復はなるべく肉体的に楽な方法で行きたいと思うのは人情である。大阪より遠方いや大阪であっても新幹線を使うよりは飛行機に乗りたいと思う。そのほうが疲れないから。
でもそんな贅沢は言っていられない。
次はホテルに泊まるのが好きな人でないと務まらない。私は贅沢なホテルに泊まりたいという気はないが、実を言ってトイレはウオッシュレット、風呂がついていること、夜仕事をするためにはインターネットつきで照明が明るいことが最低の希望だ。
それくらいは贅沢じゃないでしょう?
だけど田舎町に行くとそんな願いはかなえられない。冗談抜きに建設作業者が泊る飯場のような木賃宿に泊ることもあるし、いわゆる宿屋などはいつものことだ。

../trip.gif 単に飛行機に乗ったりホテルに泊まれば良いというものでもない。認証機関によるが、自分でホテルや飛行機を手配するところもある。他方事務員がすべてを手配し審査員はスケジュール表に従って動くだけの認証機関もある。
私は飛行機や電車の予約するのはうまくできません。後で別のルートの方が時間がかからなかったと気がついたり、同じ値段で立地の良いホテルがあったと後悔することがたびたびです。

ともかく電車や飛行機を乗換えたりホテルからホテルという生活は大変だ。そういう生活が好きとか気にならない人でなければつらいことは間違いない。
ともかく、私はこの段階は何とかクリアできそうだ。

次に体力がいる。
最近はパソコン、プリンタなどを持ち歩くのは普通だ。昔は人さまの会社に監査に行ってプリンタを貸してくださいなんていうのは普通のことだったけど、最近はUSBで接続してもウイルスが伝染したりするのでうかつなことはできない。
書類もボリュームがある。認証機関によっては一回の出張で何社も連続で審査させるところもある。そういうところでは持ち歩く書類も何社分にもなる。紙って重いんですよね。A4PPC用紙1枚で約4グラムです。マニュアルとか関連資料で1社当たり300枚くらいにはなるでしょう。それだけで1.2キロになります。3社分なんていったらぎっくり腰になりそうです。
おおっと、ぎっくり腰に限りませんが、持病のある人も不向きです。私自身が寝込んだことはありませんが、派遣を予定していた人から当日朝になって「具合が悪くなったので行けません」なんて電話を受けたことは何度も・・
ビジネスマストゴーオンですから誰か代わりに行かねば・・といっても私以外いないのよ
東京近辺ならまだしも、九州とか北海道に当日昼から監査なんてことになるとそりゃやはり大変です。
昔といっても90年代前半は審査員はアタッシュケースのようなものを持ち歩いていたが、最近はコロ付きのバッグを見かけるのが多い。やはり中身が重くなったことがあるのだろう。
私の知り合いの審査員は90年代末のことだが片手にバッグを持って歩いていて背骨が曲がってしまい、その後は背中に背負うカバンにしました。

乗り物に乗ることが苦にならなくて、体力があっても、初対面の人に会うのが苦手な人には不向きです。
「おれは人に会うのは苦にならない」なんておっしゃる方も多いでしょう。特に以前大企業で管理職などをされていた方は人を顎で使うことになれていることは間違いない。しかしその場合は相手がその方に会うのが苦手かもしれませんよ 
人に会うことが苦手でなくても、言葉使いが問題です。尊敬語、謙譲語を使いこなせとは言いませんが、少なくても丁寧語くらいは使えないと陰で何を言われるかしれません。審査員の多くは自分がエライと思っています。あなたは思ってない? あなたのお話を録音して聞いてみてください。きっと審査を受けている人と対等の話はしてないでしょう。相手が二十歳であろうと、現場の人であろうと、よそ様の方ならそれなりに言葉使いに気をつけなくてはなりません。
大手企業出身の審査員は訪問した会社の社長よりエライと思っている方も多いようです。いえ、言葉使いがまっとうでも経営を指導しようなんて腹の中で思っていれば同じことです。

いやあ、審査員の資質というのもなかなかハードルが高いものです。そういうことが滞りなく、もれなくできること、そして継続できることが重要です。
だから単に規格を知っているとか、頭の回転が速いだけでは審査員は務まりません。私など今までの必要条件は満たせるはずがありません。完全にはじかれてしまいます。

しかし言い換えれば、そういう要件を満たせばISO規格を知らなくてもJAB基準を知らなくても審査員は務まるのかもしれません。つまりもっとも必要なことである審査は二の次三の次なのでしょうか?



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