環境審査 レッスン21 09.08.09

最近のこと、私がISO14001認証している会社にお邪魔してEMSを拝見すると、なんと順守評価の仕組みがない! 
いったい全体、これで審査が適合になったというのは、ISO世界の七不思議だ。
しかもその会社は昨日や今日、認証したのではない。前世紀の1998年にISO14001認証している。だから初回審査から10回くらい審査を受けていることになる。
うそ800
なんで審査員でもない私がひとさまの会社に行ってEMSをチェックするのか?とお尋ねになる方もいらっしゃるだろう。
間違いのないISO審査が行われてるか心配になって、私に審査(?)してくれという会社もあるのだ。世の中不思議なこともあるものだ。審査員、認証機関、認定機関の方々、どうしてでしょうねえ〜
「今までの審査で不適合にならなかったのですか?」と聞くと、審査員は毎回環境側面の特定、著しい側面の決定方法を十二分にチェックするが、順守評価の項番はほとんどチェックしないという。おいおい全項番をチェックしないって、そりゃまずいというか、それはねーだろう。
実を言って、このようなことは希有なことではない。ISO14001審査で時間をかけるのは環境側面だ。理屈としては分かる。どのような組織においても、己の環境側面を知らずしてリスク管理も遵法も改善もあり得ない。ありえないというか、羅針盤なくては航海できないのと同じ。
しかし、環境側面を調べる方法を調べる審査員はたくさんいるが、特定した側面が適正なのかを調べる審査員は少ない。これは私の10年間の経験とヒアリング結果に基づいており、日本のISO審査の実態であると確信している。
また環境法規制の把握にしても、法規制の把握方法を調べるが、調べた結果がその会社が関係するであろう法律が漏れていないか、その法規制がどのような側面に適用すると決定したのか(規格の言い回しは日本語としておかしいと思う)について調べる審査員はほとんどいない。
そして規格の冒頭4.1〜4.3.3を審査すると審査員は疲れたのか飽きてしまったのか、4.4以降の項番をしっかり見ることはないようだ。それでも最後の力を振り絞って4.5.5と4.6だけはチェックするようである。
以上の見解は私の体験とヒアリング結果に基づいている。ご異議があれば承る。

ともかく、ISO14001を認証しているなら、その組織が規制を受ける環境法規制に関しては十分把握していなければならないが、規制を受ける法律をしっかりと把握していない企業が多いのは現実である。
誤解のないように。そのような企業が法違反をしているということとは違う。法規制を知らないことと、違反しているということとは同義ではない。法を知らなくても幸運にも事故も起こさず、違反もしていないということは多い。いや本当を言えば、法規制とは幅広い道路のようなもので、酔っ払って蛇行運転でもしなければ、ちょっと運転がへたでも対向車線に飛び出すようなことはめったにない。
しかしなんだね、審査の場で環境側面の調査方法とか法規制の調べ方などを、ためつすがめつ、ああだこうだとやるのはあまり意味がないと思う。それとも環境側面の特定方法を一生懸命調べる審査員は、それしかできないのだろうか? まっとうな審査ができないので時間つぶしに著しい環境側面の決定方法に時間をかけているのだろうか。いやそうではなく、きっと環境側面特定の専門家なのであろう。

しかし遵法やリスク管理をしっかりするためには、環境側面特定の専門家より、一目見ただけで著しい環境側面を見切り、その会社がそれをしっかりと把握しているかを確認し、帰納的に著しい側面を決定する方法が妥当かどうかを判断できる審査員に来てほしいものだ。
同じく、環境法規制を把握調査する方法が適正かどうかを調べる専門家の審査員ではなく、その会社を一目見ただけで関係する環境法規制を把握して、その会社が対応している環境法規制が適切かを判断して、帰納的に環境法規制を特定する方法が適正かどうかを判断できる審査員を希望する。
おっと、そういうアプローチでなくて環境側面を特定する方法が適正であるか、法規制を調べる方法が適正であるかを判断できるものなのだろうか?
これは反語である。

ところで、先ほどの会社ではISO認証して10年が経過しているが、順守評価という仕組みがなくてなぜ今までの審査で不適合にならなかったのだろうか?
本日はそんなことを考えたい。
順守評価は2004年改訂で追加されてとおっしゃる人がいるに違いない。1996年版を読みなおしてほしい。1996年版では項番が分かれておらず、表題もついてないが、書いてある文言はほぼ同じである。
1996年版
4.5.1 監視及び測定
組織は、関連する環境法規制の遵守を定期的に評価するための文書化した手順を確立し、維持しなければならない。
2004年版
4.5.2.1
組織は、適用可能な法的要求事項の順守を定期的に評価するための手順を確立し、実施し、維持すること。

話はパット変わる。
ISO9001でもISO14001でも品質方針あるいは環境方針は周知されなければならない。
周知されているかどうか、審査でどのように確認するのだろうか?
いや、組織はいったいどのようなことをすれば周知したことになるのだろうか?
わが同志、名古屋鶏さんが最近買ったわかりやすいISO解釈本には「環境方針の周知には、カードを作って唱和するといいでしょう」と書いてあったそうだ。
カードとか唱和と聞いて、腹を抱えて笑ってしまった。
冗談ではない。ISOをおとしめるのもいい加減にしろ!
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そのようなことをいうコンサルは嘘つきだし、方針を暗唱できるとか方針カード持っているからOKとするような審査員は力量がない。そんな本を書く人はISOを全然理解していない。早々にISOの世界から足を洗ってほしいものだ。
方針の周知とは組織に属するメンバーが、経営者の目指す方向を理解し、それを判断基準として考え行動することです。暗唱できるとか、カードを携帯することとは全然関係ありません。

方針が周知されているかどうかはこんな質問をするとよいでしょう。
「あなたの今年の重点課題は何ですか?」
もちろん質問した相手の職階や職務内容によって回答がまったく異なるのは当たり前です。言いかえると、みんなの回答が同じなら方針は周知されていないことになるのです。
どの会社の環境方針にありそうな「省エネルギーを推進する。」というものを考えてみましょう。さて出会った人に手当たり次第に「あなたの今年の重点課題は何ですか?」と聞いたとして、私は次のような回答が返ってくれば方針が周知されていると考えます。 社員が「方針カード」を持っているのを見て「4.2f項は適合」なんて言えるようなものじゃないんです。
おおっと、その間違い本の著者がこの駄文を読んで次版で改訂された場合は、印税の一部を分けていただきたいのですが・・
話は違うが・・内部監査で規格文言をそのまま書いたチェックリストをそのまま読んでいるなんてこと・・ありますよね。
はっきり言って、そんな内部監査は監査じゃありません。ママゴトと言います。
聞きたいことをどのような切り口で質問するべきか、クローズドクエスチョンでなくオープンクエスチョンで質問というより話しかけ、相手の反応を見て規格適合か否かを判断するのを内部監査と言います。
いえ、私が思っているだけなので間違いかもしれません。たぶん世間一般で行われている、規格の文章の最後の「すること」を「していますか?」と質問するのを内部監査というのでしょう。

例に取り上げた方針の周知は軽い事例研究である。
では本題である、環境側面の特定と著しい環境側面の決定が適切かを、審査で何をどのように見れば確認できるのだろうか?
今までの話を読んだお方は、「方針の周知」をカードを配るとか、唱和するとか、額に飾ってあるとかで規格適合を判断している審査員には、特定された環境側面が適正か、決定された著しい環境側面が適正かを判断できるはずがないと思われるのではないだろうか?
私もそう考えている。
おっと、使用量とか危険性を数値で表して足し算や掛け算をするいわゆる点数法などは、まったく意味がないので取り上げるまでもない。
企業秘密であるが、私の方法をちょっとだけお教えする。
「著しい環境側面」と決定したものには、手順を定め・教育し・運用し・監視しなければならないなら、手順を定め・教育し・運用し・監視しなければならないものは「著しい環境側面」に違いない。
訪問先の会社が保有する設備、使用している化学物質、製造している製品などを聞き取る。それらが法規制を受けるのか、事故の危険性があるのかなどを考える。法規制を受けるもの、事故の危険性のあるものに管理手順があり管理されていればよいと判断する。
もちろんこの方法を行うには、環境法規制を一応知っていなければならない。それだけではない、過去に起きた環境事故、環境犯罪・違反についても知っていなければならない。
そして、現場管理の経験もないと実際にはできない。
口で言うように簡単ではありませんよ 

ISO審査で順守評価の手順があるか、実施されているか、維持されているかをチェックしなければならないのは、ISO規格に書いてあるからなのだろうか?
 そう考えたらISO認証の価値は半減どころか意味がないように思う。
ISO14001の目指すところは遵法と汚染の予防だ。その企業が規格の意図を実現しているかを測るには、しっかりと法規制を理解して、順守を確認しているかを見ることが重要だからだ。
見方を変えると組織が遵法と事故防止をしっかりしているかどうか見るなら、4.3.2と4.3.3と4.5.2だけをチェックすれば良いのではないだろうか?
環境側面の特定、著しい側面の決定方法を十二分にチェックすることは規格の意図を実現しているかを見るには・・あまり関係ないような気がする。

本日の嘆き
まあ、私が何と語ろうとごまめの歯ぎしりである。
環境側面の特定方法だけに異常に執着し順守評価を見ようともしない審査員は今日もばかばかしいママゴト審査を行い、その認証機関は登録証をジャンジャンと発行し、その結果ISO認証の価値を下げることになるのだろう。

本日の妄想
私はISO事務局もやってきたし、コンサルもしてきた。定年後はぜひとも認証機関のコンサルをしてみたいのだが・・



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