認証と遵法 09.09.21

ISO14001審査は遵法を確認するのではないという。ISO14001認証は環境遵法を保証しないという。
それに異議は唱えない。外部の者が遵法を保証するなんて、悪魔の証明に近いことだ。それに法的にも弁護士でなければそんなことをお金をもらってしてはいけないことになっている。
じゃあ、審査では法規制の遵守状況を見なくて良いのかといえば、そんなことはない。
そもそも、ISO14001の目的は(環境)遵法と汚染の予防である。ISO規格のダラダラと長い要求事項はその目的を果たすための方策を書いているだけだ。ISO14001の目的を実現するためには遵法を点検しなければならないはずだ。
さて、以下の論理の連鎖にどこか欠陥というか間違いがあるでしょうか?
  1. ISO14001は(環境)遵法と汚染の予防を目的とする。
  2. ISO14001認証は、組織の遵法と汚染の予防システムがISO規格を満たすことを対外的に表明することである。
  3. そのために審査では、組織の遵法のシステムがISO規格を満たすことを確認する必要がある。
  4. そのために、遵法のシステムがあり、それが機能していることを点検する必要がある。
  5. そのために、組織が規制を受ける法規制を把握する仕組み(4.3.2)があり、それを展開する仕組み(4.4.6)があり、それを守っていることを確認する仕組み(4.5.2)があることを点検しなければならない。
    (もっとあるけど省略)
  6. 組織が規制を受ける法規制を把握する仕組みがあり、機能していることを確認するためには、客観的にみて組織が規制を受けると思われる法規制を認識しているかを確認する必要がある。
    単に組織が法規制を調べる仕組みがあり、調べた結果があるだけでは遵法を確実にするため必要条件ではあるが十分条件ではない。
  7. 客観的にみて組織が規制を受けると思われる法規制を認識しているかを確認するためには、審査員は組織が規制を受けるであろう法規制(複数あるだろう)を推定し、組織が把握したもの(複数)と比較して齟齬がないことを確認しなければならない。
  8. そのためには審査員は組織が規制を受けると思われる法規制(複数)を推定できなくてはならない。
  9. 審査員が推定した組織が規制を受けると思われる法規制の中の一つ以上を、組織が認識していない場合、組織が規制を受ける法規制を把握する仕組みが不十分と判断される。
  10. 審査員が推定した組織が規制を受けると思われる法規制(複数)すべてを、組織が社内に展開していない場合は展開する仕組みが不十分と判断される。
  11. 審査員が推定した組織が規制を受けると思われる法規制(複数)すべてを、組織が順守評価していない場合は順守評価の仕組みが不十分と判断される。
  12. 審査においては、最低限抜取によって審査員が推定した組織が規制を受けると思われる法規制(複数)を、遵守していることを確認しなければ、組織に遵法のシステムがあり、それが機能していることの心証を得ることができない。
  13. このとき、遵守していることを確認するとはどういうことだろうか?
    すべて生データ(自記記録とか伝票など)や届け出書の現物を手に取り、法で定めるとおりであるか、規制値以下であるかを点検することになるだろう。
    そのためには審査員は法律を良く知っていないと、帳票を見ても善悪を判断できないことになる。
    PCBの定期報告の様式が何年度からどのように変わっているかを知らないと見ても意味がない。
  14. 審査員が適合しているという心証を得られない場合、認証機関に認証を推薦するとはできず、その組織は認証されることはない。
その会社の仕組みがあり、その仕組みが生きて運用されているかを確認するためには、システムの形だけを見ても判断はつくはずがない。運用の記録を見るだろうし、現場での実態を見なくては、運用されているか、見なければならない。そして単に見るだけでなく、それが実際の運用の記録であるのか、形骸化しているのか、あるいは審査のために作成したのかを判断できなくてはならない。
ところで、順守評価されているかということを審査員はどのようにして点検しているのだろうか? というのは私がみて、順守評価していない組織であっても、審査で問題なく認証を得ているというのを多々見ているからだ。

順守評価の項目を審査するということは、法律のリストに○がついていればよいというものではない。
ところでリストに×がついているものを見た人はいるのだろうか?
みんな○なら完ぺきな状態なのか、点検していないのかのいずれかだ。

じゃあどういうふうにして順守評価の項目を審査するのか?というと具体的な法規制について実態がOKか否かを見て、その組織の順守評価がそれをどう判断しているかと比較すればいいじゃないか。
それもわざわざ根掘り葉掘り記録や帳票をめくることはない。
経営者インタビューで前回とトップが交代になっていれば、当然事前にMSの変更として明示されているはずだから、公害防止組織法の統括者の変更届けが出ているかを見ればよいじゃないですか。
おおっと、異動届けがされているかを見るのではないですよ。異動届けを順守評価でチェックしているかを見るのです。
簡単でしょ 
「わしの行くところはオフィスだから公害防止統括者はいないよ」なんて言っちゃいけませんねえ
オフィスだってエアコンがあるでしょう。今どきエアコンのないところはないと思います。そしてオフィスは都市部に所在しているでしょうから、まず例外なく騒音規制法の特定施設の届出をしているはずです。今どきの自治体は法で定めるより上乗せしていて、ほとんどが5馬力、あるいは2.5馬力以上であれば設置届を出すことになっているはずです。
だから代表者が代われば特定施設の軽微な変更届けをしているはずです。

いやテナントだから自前ではエアコンをつけたないよとおっしゃいますか? ご心配なく、オフィスでありテナントであっても、規制を受ける法律ってのはたくさんあり、順守評価が行われているか点検するに事欠きません。 ISO14001審査は遵法を確認するのではないという。ISO14001認証は環境遵法を保証しないという。
それに異議は唱えない。外部の者が遵法を保証するなんて、悪魔の証明に近いことだ。
しかしISO14001規格適合を審査しようとすると、遵守の仕組みを点検する必要があり、その過程で遵法を確認せざるを得ないことになる。もちろん全面的に組織の遵法を点検する必要はないが、抜取であろうと遵法確認は行わなければならない。
そしてその確認方法は仕組みがあって結果があることを確認するだけでは不十分極まりないのだ。
たとえ一部であっても点検した遵守評価が論理的であって、客観的に信頼感を持てるものなら他の法規制についての遵守評価も信頼できると推定することができるだろう。
抜取検査が有効なのは論理的だからだ。だから抜取検査で行うことに売り手も買い手も同意するのだ。
審査だって抜取で行われるが、その抜取と危険率の理屈があるのだろうか?
私はそれを考えて監査を行っているつもりである。
私の見聞きしている遵守評価はとてもとても信頼感を持つことができない仕組みがほとんどである。
全部といいたいところだが、最近私の指導を受けてまっとうな方法に変えたところがいくつかあるから全部ではない。 
そのような多くの組織の審査を行って遵守評価において不適合を出さない多くの認証機関の存在は、やはり問題である。

本日の疑問
はたしてまっとうな遵守評価をしている組織は何パーセントあるものでしょうか?



名古屋鶏様からお便りを頂きました(09.09.21)
佐為様 名古屋鶏です。
ずいぶん前の審査の時ですが。順守評価で「×」と書いてあるのを審査員が見咎めて「これ何?」と聞いてきたので、「これは顧客からの要求事項なんですが、顧客自身の都合で停止しているのです」と答えたのです。
すると、「ならば、それは”○”でしょう。安易に×と書くと順守違反をしているように見えるので良くないですよ」と”ご指導”を頂いたことがあります。
しかしながら、問題は「評価した結果、何をするのか(しないのか)」を考える事ではあるまいか、と。
例えば公的資格者だって、必要人数ギリギリだったりすれば「○」評価でも次の人員を育てる必要があるはずで。

・・・・社内資料を取繕ってみたところで仕方ないと思うんですがね。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
審査員という人種は、審査員ではなく、助言者とか、突っ込み者とか、小言者とでもネーミングを変えた方が良いかもしれませんね
ともかく、そんな余計なことを言わずにしっかりと規格適合か否かをみてほしいもの・・
おおっと、規格適合を見ることができないから余計なことを語っているという可能性もありますねえ〜
ところで、タイで仕事をしていた時、日本人が○をつけるような場合、たとえば該当とかOKといったときに×印をつけてました。
所ろ変われば品変わる。かの地では安易に○と書くと順守違反をしているように見えるかもしれません。
ぜひその審査員閣下にお伝えください。 


まきぞう様からお便りを頂きました(09.09.22)
順法と自治体の力量
こんにちは。少しはお休みになってください。
さて、最近は順法の虚しさを覚えることがあります。先般、某自治体に騒音振動の特定施設の新設について相談に行ったところ、「空調機ですか?提出はいりません」と言われてしまいました。
冗談でしょ?と思い、空調機といっても大きな送風機のついたエアハンドリングユニットタイプであることを説明したら、コロリと「ああ、それなら必要です」と。
こっちが悪意を持ってごまかしたらどうすんだとも思いましたが、別に自治体は困らないのですね。パッケージエアコンでもちゃんと提出を求める自治体もあれば、上記のごとし自治体もいます。
それだけ事業者側はしっかりしなければならないのでしょう。つらい都政ならぬ渡世です。

まきぞう様 毎度ありがとうございます。
自治体の担当者がなにもかも知っているとは限りませんよ。それに自治体によっては判断も異なります。ともかく我々は問い合わせたという記録が残れば後々何事かあってもとりあえずは大丈夫です。
届けなくて良いと思って届けないのと、問い合わせて届けなくても良いと言われたというのは大違いですから。
まあ、我々も正義とかあるべき姿と意気込むこともありません。
渡世の義理ならぬ、浮世をしのぐだけのこと



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