マネジメントレビューは誤訳 09.10.04

マネジメントレビューなんて言葉は、1991年に「ISO9002を認証するんだ!」と活動していた時、初めて本で読んだ。とにかく私を含めて何も知らない人たちばかりであったので、その意味なんて全く分からない 
 マネジメントとは一体何か?
 マネジメントってどの範囲をいうのか?
 レビューってなによ?
まあ、そんなことも知らないレベルであった。
今でも知らないのかもしれないが・・
お断りしておくが、当時私たちは研修を受けわけでもなく、周りにISOを知っている人がいたわけでもない。ただひたすらISO9001〜9003の英語原本を読んでいたのだ。当時はまだJISZ9901のない時代である。その後、対訳本を買いマネジメントレビューが「経営者による見直し」と訳されているのを知った。あっというまに「経営者による見直し」は「経営者の見直し」と呼ばれるようになった。
誰だって 言いにくいより言いやすい方がいい
見直された方が良い経営者も多いことだろう。
いずれにしてもマネジメントレビューを理解してなかったのは間違いない。
経営者って言葉は、ISOが広まった現在では普通に使われているが、元々は企業の社長とかオーナーに使われる言葉であって、工場長とか雇われ店長に使う言葉ではありませんでした。
だから当時は「経営者による見直し」と呼ぼうが「経営者の見直し」と呼ぼうが、経営者ってだれなのか? 分かりませんでしたね。

審査を受けることが具体化して認証機関の営業マンが日程などの打ち合わせに田舎の工場に来てくれた。その時に打ち合わせだけでなく、いろいろとISO規格の話をしてくれた。そしてマネジメントとは管理者全体とか管理全般という意味ではなく、認証範囲の中でのトップ経営者(経営層)を意味すると教えられた。はあ、するってえと我々の場合は工場長のことだな?

つまり規格にある
ISO9001:1987 4.1.3経営者による見直し
供給側の経営者は、この規格の要求事項を満足するために採用した品質システムが、継続的に適切かつ効果的に運営されることを確実にするために、適切な間隔で見直しを行う。

という文章は
工場長は、我が工場の品質システムが、継続的に適切かつ効果的に運営されることを確実にするために、適切な間隔で見直しを行う。
と読み替えられることになる。

しかしまた分からないことがある。
見直しって何だ?ということだ。
もちろん規格では内部監査の記録とかその他の情報が提示してあるが、どのような行為あるいはイベントを見直しというのだろうか?ということが分からない。
そんな状態であったが、審査は受けないとならないし、認証しないとヨーロッパに輸出できないし、輸出できないとオマンマの食い上げになってしまうという状況であったので、「まあいいか」と該当する各種資料というか報告に工場長のハンコを押してもらい、そしてまたその報告書類に「ああせい・こうせい」とボールペンで簡単にコメントしてもらった。そんなんでマネジメントレビューの要求は満たせるだろうと考えたのである。

さて実際の審査となるとイギリス人のおじさんが来たが、この方がまたいい加減な方で、というより今思うと本質を知っていた審査員だったのだろう、一応は書類とか現場とかを見るのだが、もう何でもありという感じで結果は問題なく終わってしまった。コメントされたのは記録の修正には修正液はいかん、横線を引きなさいということだったと記憶している。
このおじさん、修正液のことをスノーペークとか言ったように覚えている。

その後、別の認証機関でISO9001の認証を受けたり、また子会社に行ってISO認証を手伝ったりしたのだが、マネジメントレビューについての審査員のお考えも異なるようで、ある審査員は「形じゃない、実質だ」と言うし、ある審査員は「いつでもどこでも必要なときにマネジメントレビューをしているでしょうし、しなければなりません」というし、ある審査員は「幹部全員が集まって審議することが必要です」といい、ある審査員は「年に一度セレモニーをすることが必要です」といい・・
まさに宮沢賢治のごとく「審査員の違いに負けず、気まぐれにも負けず」という感じでありました。
当時は私も審査員とチャンチャンバラバラする勇気もなく、言われればそうですかと会議から都度報告、都度報告から会議形式と二転三転、四転五転、七転八倒でございます。 
まあ、20世紀も末になりますと私も審査員の言に左右されることもなくなりました。

しかし思うのですが、経営者による見直しってえのは誤訳ではなかったのでしょうか?
いや誤訳ではない、正訳だとおっしゃるかもしれないが、誤解以前に読んだ人が分からないということは翻訳した甲斐がないというものです。
私は日常使われている「経営者の決裁」とすればよかったのではないかと思うのです。
いや、経営者ってのもあまり使いません。ここでは単純に「責任者の決裁」としましょうよ。
簡単なことなのです。
基本に返って考えてみましょう。
会社とは一人ではできない仕事をするために大勢で活動するわけです。そして事業を推進していくためにデシジョンメーキングは多々発生し、規模が大きくなればトップがすべて決定することは物理的に不可能になります。だから組織を作り権限移譲が行われます。そして司司(つかさつかさ)で仕事は遂行されるのです。しかし重大な情報はトップに伝えなければなりませんし、重大な決定はトップが行うのは至極当然です。
現実の会社では、金額によってハンコを押すのが課長とか部長とか決まっています。あるいは契約を締結できるのは代表権のある人だけとか、そんなことってISOに言われるまでもなく常識ですよね。
会社の実態を知って、規格の意図を知って訳せばすんなりといったのではないでしょうか?
そんなことを考えると、
ISO9001:1987 4.1.3責任者による決裁
認証範囲の最高責任者は、その組織の品質システムが、継続的に適切かつ効果的に運営されることを確実にするために、必要な報告を受け決定しなければならない。これは適切な間隔で行うこと。

くらいではないのでしょうか?
セレモニーではなく、全員集合でもなく、粛々と

本日の疑問
現在は「review」をすべて「見直し」と機械的に変換していますが、これも誤訳ではないのでしょうか? いや、誤った翻訳ではなく、誤解を招く翻訳の意味ですよ。

さらなる本日の疑問
今現在の9001でも14001でもマネジメントレビューとなっているが、もう誤解する人はいなくなったから良いのだろうか?
「形じゃない、実質だ」いや「いつでもどこでも必要なときにマネジメントレビューをしているでしょうし、しなければなりません」、違う「幹部全員が集まって審議することが必要です」、そうじゃない「年に一度セレモニーをすることが必要です」と語る審査員は今でもいるのだが・・



Yosh師匠からお便りを頂きました(09.10.05)
見直し?
仰せの論述に限りましては多くの場合reviewの詞は日本語で“論評”の方が意味を持つてるやうです。
所謂“見直し”するだけ?なのか、其の後に其れに経営者が何かを物申すことなのでせう。
で、仰せのやうに「経営者の決裁」を求めてる訳ですね、違ふてるかな。

師匠 毎度ありがとうございます。
一般に日本語で「見直し」といいますと、試験解答に間違いがないか見直すとか、仕事の漏れがないか見直すとか、まあ単純な点検作業のような場合に使われると思います。
経営者が単純な漏れや間違いを点検しろと言われれば怒りますよ
映画のレビューとかいいますと見直しというより論評ですよね
どう転んでも誤訳のようです。


湾星ファン様からお便りを頂きました(09.10.06)
佐為さま 湾星ファンです。
経営者よりも最終責任者のほうが適訳であるという点は同意ですが、レビューを「決裁」と訳すのには、違和感があります。
決裁は、物事を決める、という意味であり、検めるという意が不足しているような気がします。「検証」という訳語はいかがでしょうか。

「最終責任者による検証」
組織は、環境保全の仕組みが期待通りの効果を発揮しているか、最終責任者が定期的に検証し、必要に応じて環境方針や目的、目標の変更を含め、仕事の仕組みを変える。


無茶苦茶な意訳ですけれど、規格の意図は、損なっていないと思います。
いつも「規格原文を読み直す」機会を提供いただき、感謝しております。
時節柄、新型インフルエンザにはご注意ください。
 湾星ファン

湾星ファン様 毎度ありがとうございます。
おっしゃることには全く同意!
でありますが、検証という語はいささかマッチしないというか・・・似合わないかなあと
それと 仕事の仕組みを変える ことは要求されていません。要求されているのは、仕事の仕組みが現状で良いかを検討し、変えるか変えないかを決定することです。
いずれにしても、検証とか論評以上に良くあてはまる言葉は思い当りません。
さて、どんなものでしょうか?
再確認、再検討、審議決定、うーん、アイデアの欠如ですね


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