ケーススタディ 環境目標 09.11.15

今日は朝から曇天で気持ちが晴れない天候だ。そういえば今年は冷夏で平均気温は昨年よりも、平年よりも下回ったと聞く。
地球温暖化は本当なの? 山田は結婚して以来、田舎の実家から毎年お米を送ってもらっており、今年は凶作になるかと心配して夏の終わりに兄に電話をした。兄が言うには稲穂が出るまで天候が順調だったので平年作は大丈夫とのことだ。
兄は大学を出ると田舎の中小企業に勤めて、両親と一緒に暮らし兼業農家をしていた。都会に就職した山田は、結婚して以来実家からずっとお米を送ってもらっており、今までにお米を買ったことはない。1993年冷夏で日本中が凶作だった時も、田舎から米を送ってもらった。もちろん今どきお米を買っても金額は微々たるものであるし、田舎に帰る時は兄の嫁さんに米代以上のお土産を持っていくので金銭的なメリットはない。しかし山田は我が家の田んぼから取れるお米を家族のきずなと思っている。

今年は冷夏により鷽八百機械の本社の電力は今年計画を大幅に下回っている。本社で環境目的としているのは電気使用量、紙使用量、環境に配慮した製品の拡販などである。
紙が重要かどうかはさておき、社員の工夫や節約で削減できるだろう。製品の拡販もコンペティターはあるけれど、それこそがビジネスであり営業努力で推進していくものだ。
しかし、電気使用量は努力とか工夫ではなかなかうまくいくものではない。まずオフィスビルでの電気使用量の3分の1は空調であり、空調設備はビル会社のものであり、自分勝手に高効率製品に変えることはできない。そして空調の負荷は外気温と室温の差によって決まる。
正確には空調の消費エネルギーは温度差と断熱効果の関数だが、ビルを改善しなければ断熱効果は定数であり、室内外の温度差によるといって間違いではない。
給茶器のところでコーヒーを飲んでいた山田は、平目と廣井から気温について話しかけられた。

私はコーヒーが好き 「山田君、今年は良かったよ。夏が暑いのは自然なことなのだろうけど、エアコンのエネルギーが大きくなると環境実施計画の予定を達成することは困難になり、環境担当者の心臓に悪いよ。」
「平目さん、本社なんてまだいいですよ。私が工場で環境課長だった時は気温が上がると、涼しくなりますようにと神棚に祈ったものですよ。」と廣井
「工場は省エネ法で毎年エネルギー削減をしなければならないんでしょう。」山田も付き合わざるを得ない。
「山田君、それは昔のこと、今ではオフィスやデパートでもなんでもかんでも省エネ法の対象なんだよ。それでも今年(2009)までは我々のようなテナントや店子は省エネと無縁で良かったけれど、来年(2010)からはビル管理会社だけでなく、テナントも削減義務があるんだよ。しかしなあ、ビルも設備も固定ならば省エネの手が限られてしまうねえ〜」
平目はなんでもネガティブ思考なのだ。
「平目さん、僕はオフィスの省エネというと照明を消せ、空調温度をあげろ、さげろ、というのはあまりにも芸がないと思いますよ。」
山田はそう言わざるを得ない。
「おお!山田君、言うのは簡単だが、具体的な案はおもちかね?」廣井が脇から突っ込む。
「もちろん具体的な計画とは言えませんが、いろいろと考えてみたのです。
まず空調のエネルギーは室内外の温度差の関数ですが、それだけではなく部屋の容積と空調時間の関数でもあります。例えばオフィスの業務能率の向上を図って時間外を減らせば省エネだけでなく人件費の削減にもなります。更に言えば業務改善による能率向上が図れれば人員削減ができオフィスのスペース削減になり家賃の削減も図れます。このオフィスの坪家賃だって月3万だそうです。一人当たりのオフィスのスペースは3坪ないし4坪と聞きますから大変な金額です。」
廣井はニヤニヤして聞いている。平目は口の端をピクピクさせている。
「人を減らすというと組合も人事も簡単に賛成はしないでしょう。でも本社にはたくさんの資料を保管しています。それも空調のきいているオフィスに。私たちが持っている文書は一人当たり棚の長さにして2mはあると思います。保管している記録を見直して、必要外は捨てる。あまり見ない資料は郊外の倉庫に保管するなどによって面積削減と省エネが図れます。
私たちが使うパソコンも省エネのものを使うだけでなく、各部門のサーバーをオフィスの外に置く、あるいはなんらかの方法で熱を外に放散するなど工夫すれば熱負荷を低減することができるでしょう。
照明を消せとか空調温度を守れなんていうのはミミッチイというかなんというか・・改善では限界があるのですよ。改革、ブレークスルーが必要なのです。」
平目が口を開いた。もう我慢できないようだ。
「それは理想だが、実行は難しい。例えば時間外規制だが営業はそんな規制を受け付けないだろう。経理だって深夜勤務がないなんて考えられないと違うか? おとなしく時間外規制を受け入れてくれるような部門はないよ。」
「オフィスの書類削減はいいことだと思う。単純に面積減になればそうとうな費用削減になる。といってもブロイラーのように密集したオフィスは願い下げだけどね。」廣井が言う。
「まあ私の案は絵空事と笑ってください。ただ私は今の環境実施計画はやはり絵空事だと思うのです。」
実施事項4月5月6月7月8月9月10月・・・
消燈の励行
空調温度厳守
パソコンの省エネ
モード徹底
「なんだって?山田君、それはどういう意味かね、今年の環境実施計画はボクが様々な要因を考えて立案したんだ。そのどこが絵空事何だね?」平目が異議を唱える。
「平目さん、環境実施計画は手段と日程がなくちゃなりません。それは消燈の励行、温度厳守という程度の活動ではないはずです。ISO規格のいう環境実施計画とは、現在のようなどんぶり勘定じゃなくて、具体的な積み上げの根拠がなくてはならないはずです。」
「ほう、じゃあ山田君はそういう実施計画が作れるんだね?」
「平目さん、ぼくが作れるか作れないかということを議論しているのではありません。例えば営業部門がある製品を何億売るという目標を立てた時、営業努力でいくら、宣伝でいくらなんていいかげんな計画では達成は神頼みになってしまいます。地域ごとに過去の規模、コンペティターの新製品やキャンペーンなどの状況、市場の動向をしっかりと調査して数字を積み上げます。
省エネ計画というなら、手段があってその効果の見込み値があり、さまざまな手段の効果の合計が年度の削減値になるはずです。」
「山田君、理屈ではそのように聞こえるけど例えばオフィスの電力なんて努力だけでは削減できないよ。ちょっとした省エネ投資をしても天候次第でパーになってしまう。」
「平目さん、実施計画の目標値が人間に管理できないことを含めているからどんぶり勘定になってしまうのではないでしょうか?」
「というと?」
「ですから環境実施計画には手段とその効果を網羅すれば、計画が達成できたかできなかったかがはっきりするでしょう。計画とは手段の効果なのですから。」
「良くわからんが・・つまりどういうことかね?」廣井が山田に言う。
「環境実施計画には、オフィスの省エネとして今年は昨年度比で2%削減になっていますが、その2%の内訳はどのような手段によって積み上げされているのでしょうか?
手段としては照明のLED化検討、エレベーターの運転プログラムの見直し、昼休みの消灯励行、パソコンの不在時のOFF徹底などがありますが、それぞれ何%で合計は2%になるのでしょうか?
例えばですよ、照明のLED化で○kWh、エレベーターの運転プログラムの見直しで○kWhというふうに具体的な目標値がありその合計が年度の削減量であれば、天候に関わらず目標達成とか未達成が判断できると思います。要するに人間が努力できる範囲を明確にするべきです。言い換えれば天候次第で目標を達成してもうれしくないでしょう。」
「山田君、目標管理という観点からはそれは現状より一歩前進であることは認めるが、省エネ法では天候に関係なしに1%削減が義務なんだ。その考えは、省エネ法対応では通用しないんじゃないか?」廣井が疑義を呈する。
「できることと、しなければならないことは同じじゃありません。省エネ法対応であろうと、手段ごとの効果と合計が合うかということは同じだと思いますね。省エネ法であってもどんぶり勘定で良いわけではないでしょう。」
「山田君、その考えは素晴らしいと思うが、手段と効果以前に、我々は有効な手段がないんだよ。我々はビルのテナント、つまり店子(たなこ)だ。省エネしようにしても有効な手がない。エアコンはビルのもの、空調の温度管理はビル全館いっしょで部分ごとの調整がきかない、エレベーターも多くのテナントの共有でプログラム見直しとはいえ、各社の協議が必要でなかなか進まない。照明も通路、トイレはビル管理会社の管理、つまりとりえる手段がないんだ。結局、進め一億火の玉だとか欲しがりません勝つまではという前近代的というか、非論理的な精神論しかないんだよ。」平目が残念そうに言う。
「省エネ法はテナントだけではできません。省エネ法でもビル管理会社とテナントの共同によって推進するとあったはずです。みんなでできること、やるべきことを考え、議論し、実行するしかありません。また熱意とか耐え忍ぶだけでは改善ができるわけありません。論理的な積み重ねでなければならないはずです。そしてオフィスの究極の省エネはオフィス業務の効率化であり、人、スペースの削減であるはずなんです。
環境なんて特別なものじゃない。会社の経営そのものです。環境活動をすれば儲かるなんて発想は視野が狭いのです。儲かる活動が環境に良いはずなんです。」
平目も廣井もあっけにとられて山田を眺めていた。



本日の課題
次のことを考えてみましょう。
(1)あなたの会社の環境実施計画は、手段とその効果が目標値と整合していますか?
(2)あなたの会社の環境実施計画で省エネで天気の影響をどのように考慮していますか?
 それは妥当と考えていますか?
(3)あなたの会社では、環境目標というものが存在してますか?
 それとも経営目標だけがありますか?



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.11.17)
こんばんは、たいがぁです。
ほほう、実施事項と矢印だけが記された「実施計画」ですか。
いかにも審査のための計画表つーか。。あれ? これと似たようなものを最近どこかで見たような、、、たしかアクションプランがどうたらとか。。

たいがぁ様 毎度ありがとうございます
そうそう、JABとかいう組織の実施計画でしたねえ
ISOの元締めがあれでは・・・・救いがない


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