雑誌やインターネットには「内部監査をどうしたら向上できるか」とか「内部監査指南」といった特集を見かける。そんな特集などを読むと、どうも私が過去にしていた内部監査や、今現在指導している内部監査とは大きく違うのです。どんなふうに違うのかというと、レベルの違いというより、内容が全然違うのです。内容とは何かといえば、ISO規格のためにしているのと会社の改善のためにしているかの違いというべきか、あるいはオママゴトと真剣勝負の違いというべきでしょうか。とにかく、異質なのです。
他方、インターネットのウェブサイトには「当社にはCEAR登録の主任審査員が○名いて、高いレベルの内部監査をしています。」なんて書いている会社や、「当社にはCEAR登録の審査員(補を含む)が100名以上います」と書いている会社もある。そんな会社ではものすごくレベルの高い内部監査をしているのでしょうか?
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しかし考えるとすごいことだ。仮に審査員研修費用を安めに見て25万としても、100人なら25000万円、毎年の更新料だって180万くらいになる。それだけの金額の元が取れるのだろうか? 他人事ではあるが考えてしまう。
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ちなみに私がしているのは内部監査ではありません。第二者監査です。ISOの世界には第一者監査である内部監査と、第三者監査である認証機関による審査が広く行われているので、それしかないように思われているかもしれません。しかし調達先や子会社に対して行う第二者監査もちゃんと存在しているのです。
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第二者監査と第三者監査(審査)の違いはなんでしょうか?
そんなの分かっているよ、規格に書いてあるじゃないかとおっしゃいますか?
私の考える違いは規格の定義の違いとは違います。第二者監査と第三者監査(審査)の最大の違いは、依頼者に対する責任の有無だと思いますね。
おっと間違いはないでしょうけど、責任を負うのが第二者監査、負わなくて良いのが第三者監査(審査)ですよ。
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最近、機会があって社内に主任審査員がいる会社の内部監査報告書というものを拝見した。それを見て驚きました。報告書が単なる不適合の列記だったからです。この程度のものでも内部監査報告書と言えるのか!というのが驚きのひとつで、CEAR登録の主任審査員が書いているということが驚きの二つ目でした。
これでは・・・主任審査員などとは言えないのではないか?
いや、主任審査員とはその程度のものであったのか?
更に言えば、このような内部監査がISOの審査で適合判定をされているということが驚きの三番目でしたね。どう考えても、こんな内部監査報告書がISO規格に適合であるはずがない。
JISQ14001:2004
4.5.5 内部監査
a) 組織の環境マネジメントシステムについて次の事項を決定する。
1) この規格の要求事項を含めて、組織の環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合しているかどうか。
2) 適切に実施されており、維持されているかどうか。
b) 監査の結果に関する情報を経営層に提供する。
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監査では事実をしっかり見て現状を把握しなければなりません。しかし調査結果をそのまま、あるいはそれをサマリーすれば監査報告書が完成するわけではありません。監査報告は監査の結果に関する情報、すなわち調査した事実、現象を分析して、上記1)や2)に適合しているかを判断し、更に経営層に対してシステムを見直すにあたっての提案をすべきなのです。
サポーズ、あなたが社長だとして
「○○部の教育計画が予定より遅れているが、是正処置が取られていない」という報告を読んで何を思いますか? ありがたい、参考になるとお思いでしょうか?
「○○職場に旧版の文書があった。これは4.4.5に反している」という報告を受けて、会社の経営に役立つと思いますか?
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ちなみに、上記はCEARの主任審査員が行った内部監査報告書の記述を少し変えたものです。
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そんなことないでしょう。
教育計画が遅れているというのは現象です。その現象を単純に4.4.3とか4.4.6の項番で不適合にすればおしまいなんでしょうか?
はたして、その現象は何故起きたのでしょうか?
元々の計画が無茶だったのでしょうか? ISOの計画なんて職場では重要視されていないのかもしれません。あるいはリソースが限られていてより重要なアイテムに投入していたのでしょうか? 一生懸命に挽回を図っていたのかもしれません。
遅れているという事実だけでとどまらず、多面的に周辺を調査して、その会社としてどうあるべきかを考えなくては内部監査員のやりがいはありませんよ。
監査報告書では最低限、規格要求事項を含めたルールへの適合と、実施・維持状況を報告しなければならないのです。
とうことは、規格要求事項のどの項目を聞き取りして、それぞれの項目について何を確認し、不適合・適合を判断したのかを記さなければなりません。それをしなければ監査をしたとは言えないのです。
例に挙げたCEAR登録の主任審査員であらせられる内部監査員氏は、私から見て力量がないようです。力量がない人がCEARの主任審査員に登録できるのか? ということも検討事項ですね。
ともかく世の中のQMSやEMSの内部監査とは、私の知っているものとは異質ではるかにレベルが低いようです。それなら「内部監査をどうしたら向上できるのか」とか「内部監査指南」の特集があってもおかしくなく、必要であるのでしょう。
もっともそういった「内部監査をどうしたら向上できるのか」とか「内部監査指南」の特集が実際に内部監査を向上させるかといえば・・どうもそうは思えません。なぜなら、経営の視点などとは言いませんが、仕事の本質から考えずに、単にテクニックとか形だけを教えているように思えるからです。
本日のエピローグ
先日
私のブログに本日のエチュードというか習作を書きました。すると、
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「本当に酷い物なのでしょうか・・・
社外に手の内を知られないように外部に発表する書類は必要最低限に内容を押さえているとか・・・(^0^)/ウフフ」
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というカキコがありました。
なるほど、そういう見方もあるかもしれませんね。でも、私はある理由によってその会社の内部監査記録をしっかりと見させていただきました。ですからその報告書は正真正銘、隠しだてないものです。
本日の最後っ屁
審査員の質を嘆いていたが、企業の内部監査員の質も問題である。
世の内部監査員のうち、どのくらいの人が己の監査に自信と責任を持っているのだろうか?
1割もいないのではないか?
おっと、己の内部監査のレベルが低いことに気が付いていないのかもしれない。
それでは、ますます困った。
ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.02.06)
うーん、ちょっとこの報告書では報告になっていませんね。
もし私が報告を受ける立場(経営者)なら、原因を尋ねるよりも先に次の質問をするでしょう。
「○○部の教育計画が予定より遅れているが、是正処置が取られていない」
予定より遅れていることで何にどんな悪影響があるのか?
また、放置した場合どうなるのか?
なぜこれをわざわざ経営者に報告しようと考えたのか?
「○○職場に旧版の文書があった。これは4.4.5に反している」
旧版の文書があることで、何の業務にどんな悪影響があるのか?
なぜこれをわざわざ経営者に報告しようと考えたのか?
つまり、発見された不適合がシステムと製品にどのような影響を与えるをまず捉え、再現性と波及性を加味して経営者として手を打つ必要があるかかどうかを考えるためです。
素朴な疑問ですが、CEARの主任審査員って19011を理解していなくてもなれるんですか?
つか、そもそも14001すら理解していないように思えます。旧版のあることがどうして4.4.5に反しているんでしょうか?
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たいがぁ様 毎度ありがとうございます。
前半のご質問はおいといて、後半のご質問にお答えします。
CEARの主任審査員って19011を理解していなくてもなれるんですか?
その答えは、ISO19011を知らなくても主任審査員になれます。
CEARの主任審査員の要件とは
CEAR AE1100(2009.12.01)
5.3 主任審査員
主任審査員は、前5.2項の審査員の資格を有しており、次に掲げる条件をすべて満たすこと。
1)審査員に登録後、JIS Q 14001(ISO14001)への適合性監査の全過程に、CEAR登録主任審査員の指揮及び指導のもとに監査チームリーダーの役割を担当して、登録申請日以前2年間に3回以上延べ15日以上参加していること。なお、監査経験については6項の要件を満たすこと。
2)前号の監査において指揮指導したCEAR登録主任審査員から、5.2項2)号の審査員としての力量に加え次の主任審査員としての力量に基づき、監査チームリーダーとして監査を統括できる者として推薦されること。
@JIS Q 19011(ISO19011) 7.3.2項に定める知識及び技能
−監査の計画を策定し、監査中に資源を効果的に活用する。
−監査依頼者及び被監査者との連絡では監査チームを代表する。
−監査チームメンバーを取りまとめ、指揮する。
−訓練中の監査員を指揮及び指導する。
−監査チームを統率して、監査結論を導き出す。
−種々の衝突を防ぎ、解決する。
−監査報告書を作成し、完成する。
3)前1)号の監査において被監査者から、JIS Q 19011(ISO19011)4項に定める監査の原則に基づき監査が行われたことを証明されること。
4)前1)号の監査において、被監査者及び監査依頼者から異議申立て及び苦情を受けた場合は、その内容の記録を提出すること。また、その内容は7.5項に相当するものでないこと。
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ISO19011に定める知識と、それに基づいた審査に参加しなければならないとありますが、どこにもISO19011を理解していることとはありません。
そして審査員補から主任に至る過程でISO19011の知識についての試験はありません。
ISO14001の知識については
5)CEARが承認したJIS Q 14001(ISO14001)フォーマルトレーニングコース(以下「フォーマルトレーニングコース」という。)を申請日前5年以内に合格修了していること。
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とありますから、当然ながら理解していないと登録されないことになっています。
しかし、現実はどうなんでしょうか?
私も良くわかりませんわ
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2010.02.11追加
最近、宣伝をしているISO教材屋がある。
興味をもったので買ってみようかと仲間に行ったら、お金を捨てるなと言われた。
その方が以前、その会社の教材を買ったと言うので見せてもらった。
「不適合抽出能力トレーニング」
トップに載っていた事例が「購買仕様を注文書に明確にする」が「注文書が作成されている」ので適合です!
オイオイ
「購買仕様が注文書に記述されている」なら適合でしょうが・・・
最初の事例を見て次のページに進む気を失いました
「是正処置評価能力トレーニングブック」
原因を追究しましょうと言いながら、現象と是正策しか載っていません。
不適合がありました。なぜなぜを繰り返しましょうというのは分かります。
その結果の是正処置を書いているのですが、原因を記述していない。
このテキストの問題は、原因を明記しないことです。
だからその是正処置が適正か否かが分からないのです。
しかし原因を記述するということは問題を明確にしなければならず、仮定の設問を作る上では困難なことになる。
それは現実に監査をしていない人には作れないでしょう。
でもお金を稼ごうとするならもう少しましなものを提供しないと・・
ともかくこのテキストは役に立たない。
でもこれでいくら稼いだのでしょうか?
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